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ヒーローの仕事

プロローグ!!

 今日も街には雨が降っている。

 雨雲は厚く、その日は一段と暗く陰鬱であった。

 そんな日はさっさと帰って寝るのが一番だ。出来ることなら彼もそうしたい。

 だが彼はそんな日に路地裏にいた。傘も差さずに。

 いや、彼のおかしな所は傘を指していないことだけではない。

 フードを深く被り、手は赤く濡れている。

 それが雨であるのか他のものなのかは定かではない。

 そしてもっともおかしな点は、彼がマスクを被っていることだ。口元と目だけを出したマスクを。

 こんなものを外で被るのはハロウィンの時か強盗をする時か、頭がおかしくなった時ぐらいだろう。


「なぁ……俺が…悪かった……だから、勘弁…してくれ」


 彼の前にもう一人、アザだらけの男が座り込んでいた。

 その顔は痛々しく腫れ上がり所々に血が滲んでいる。

 誰が見ても明らかだ。

 男は、今目の前にいるこのマスクマンから暴行を受けた。

 警察を呼ばれてもおかしくない状況だが、雨が降りただでさえ人通りの少ない路地裏には彼等の他にネズミ一匹いやしない。

 それに大声を出してもきっと雨の音にかき消されてしまうだろう。

 男は必死に命乞いを続ける。


「金だ…金をやる……ホラ」


 男は、雨に濡れ泥に汚れた財布をマスクマンに差し出す。


「だから…もう、許して…くれ……」


 鼻が潰れている為か、呼吸の為に言葉が途切れ途切れになる。

 だがマスクマンはそんな男の様子など気にも留めず、ただただ冷徹に男の腹部を蹴り上げた。


「……ッ!!」


 血と吐瀉物を吐き出しながら男は腹を抱え丸くなる。

 男の口からは弱々しいうめき声ばかりがもれてくる。

 駄目押しと言わんばかりにマスクマンは男の頭を踏みつけた。

 なにかがひしゃげる嫌な音と雨の音とが入り混じる。

 そこで男はピクリとも動かなくなった。

 マスクマンはゆっくりと屈み、男の胸に手を当て鼓動を確認する。

 ゆっくりだが確実に脈を打っている。

 大丈夫だ。生きている。

 マスクマン安堵して立ち上がると辺りを見渡した。

 この男を拘束する物が欲しい。

 そこに、錆びかかったチェーンが金網に引っかかっているのが見えた。

 あまり、いいチェーンとは言えないが長さも強度も人を縛るには十分だ。

 それで男を縛り終えると、マスクマンは立ち上がり今度はポケットから携帯電話を取り出す。

 慣れた手つきで短縮ダイヤルに設定されている番号を呼び出す。


『…はぁい、どちら様?』


 携帯電話からしまりの無い中年男の声が聞こえてくる。

 どうやら先程まで寝ていたようだ。

 外は暗いがまだ寝るような時間ではないはず……少なくともマスクマンの常識では。


「俺だ」


 マスクマンの返事は素っ気無かった。


『あぁ?……なんだてめぇ、またケータイ変えやがったのか?』


 電話の向こうの相手はこのマスクマンと面識のある人物らしい。

 それもそうだ、面識の無い相手の番号なんて短縮ダイヤルに登録するわけが無い。

 だが普通、開口一番“俺だ”と言われて分かるのだろうか?きっとそれだけ二人の仲が深いのだろう。


「ベレータ通り52番地の裏路地。麻薬王マリガンが寝てる」


 マスクマンは質問に答えず、自分の言いたいことだけをのたまう。


『ふぅ…わかった。でもよぉこっちだって仕事仕事でもう2日もまともに寝てねぇんだ。悪者退治をやめろとは言わない。でも、ちょっとはそのなんだ、俺のことも気遣ってくれよ』


 電話越しに懇願してくる中年男。先程まで寝ていたのも頷ける。


「悪人を捕まえんのが警察の仕事だろうが」


『それにしたってお前の事をもみ消すのにこっちがどれだけ……』


 そこでマスクマンは携帯電話の通話ボタンを押し電話を切った。


 そんなことを言われても痛めつける以外に悪人を捕まえる術を知らない。

 目には目を、歯に歯を、だ。

 文句を言うんならこんなクズ1人捕まえられない自分達の無能さに言えってんだ。

 マスクマンは心の中で呟く。


 さぁもたもたしては入られない。さっさとこの場を去らなければ。

 警察が来れば自分も暴行の現行犯で捕まってしまう。

 マスクマンは雨の中を駆け、闇に消えていった。

次の話から本編!!

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