Prologue サイハテの森
どの地域にもどの大陸にもどこの世界にもある昔話。
その一つである古代の伝承には「聖域」と呼ばれる場所が伝承されている。
「聖域」は「東」「西」「南」「北」に分かれ選ばれた人間にしか入ることもさながら見つける事すら不可能だといわれている。
その「西の聖域」は世界唯一の大陸、アルカン大陸の最も西にある「サイハテの森」の最奥にあった。
広大な深緑の台地には「聖獣」と呼ばれる「魔獣」とは桁違いの強さを持っている生物が共存している。
その「聖獣」達のトップに君臨するのが「聖獣王」だ。
「聖獣王」は「東」の一角獣、「西」の化け猫、「南」の獅子、「北」の雪狼が就任していた。
そのサイハテの森の奥地「聖獣王」の住家がある近くの水車小屋。
その小屋は蔦で覆われてはいるものの隙間風は吹くこともなくガラスの窓はピカピカに磨いてある。
その水車小屋の一室。
床に複雑に描かれた円形の魔方陣、その周囲に散らばっているのは手紙だ。
棚には素材入りのビンが等間隔に並んでいる。
壁には金や銀で彩られた大剣や槍、弓、矢、大槌、双剣、杖、鎧、ローブなどが様々な種類の武器防具が陳列している。
その全てが武器における最高傑作、古代に生み出された魔導具よりも遥かに強いとされる「神造級」と呼ばれるレベルのものである。
「ケハッ・・・」
その水車小屋の一室の床が紅く染まった。
白銀の髪を持つ少年が立て続けに吐血する。
その武器作成を手掛けたまだ十六にしかなっていない少年の命の灯火が今消えかけようとしていた。
「グアァァッッァァアアアッ」
「主!しっかりして下さい!主!」
その部屋の扉がバンと音を立てて開いた。
部屋へ入ってきたその精霊は目に涙を浮かべながら上擦った声で契約主に呼びかける。
深緑に染められた羽に金の髪と碧眼が冴える体長十センチほどの少女の形をした精霊。
彼女は精霊の中でも最強と呼ばれる四大属性の風を統べる四大精霊【シルフ】だ。
「キッキッキャッ」
「アオォォーン」
「ニャオー」
森に住む少年の仲間の「聖獣」達が騒ぎを聞きつけて集まってくる。その声は一様に悲しげな声だ。
「主!主!目を覚ましてください!主!・・・うわあああぁぁぁん・・・主!」
少年の顔からは血の色が消えて冷たくなりはじめる。
大精霊の泣き声と「聖獣」達の悲しみの歌が森に一晩中響き渡った。
少年の遺骨は「聖獣王」の玉座の右隣。
『界暦239年2月17日。
ここに「西」の化け猫、三代目シノンの名友
人間族シノン=ソラ、風の大精霊シルフ眠る。』
その碑文と共に納められているといわれている。
この後年に一回アルカン大陸各地では東西南北全ての「聖域」から声が響く。
人々はそれを「聖獣」達の嘆きの声と解釈するのだがその声がたった一人の少年のために送られているとは後世にほとんど知る者はいなかった。