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竜と火の興亡記 予告編

作者: Soo


 そこに、楽園が生まれた。

 邪悪な鬼に虐げられ、生きるという覇気を失っていた、我らが祖先。

 天上に燦然と輝き万里を照らす、天の火(テューダ)の導きのもとに、我らは(よみがえ)った。

 天の火(テューダ)は、我らが道に惑わされぬようにと、遣いをくださった。

 燃え盛る火を、写し身とする、人ならぬ、神の子。

 名を、方式の精霊(フローギス)といった。

 天の遣いが与えてくれる、(くう)に盛る灯火で、道なき大地を道としてくださった。

 我らを逃がす道理はないと、鬼は剣を、槍を、振るいかざす。

 天の火(テューダ)の導きは二度、照らされた。

 嵐が、鬼の肉を引き裂き、往く手を遮った。

 神のご意思である。


 と、我らを先導せし若者は、そう、伝えてくださった。


 我らは問うた。

 如何にして、天の火(テューダ)の慈悲に報いればよいか。


 預言者たる若者は、再度、答えた。

 悲しみを忘れ、優しさこそを、思い出せ。

 母が我が子に乳を与えるが如くに、慈愛の魂を蘇らせよ。


 隣に立つ、預言者を護り、一の弟子となった、若者の兄が、言葉を継いだ。

 しかし、備えを忘れてなるな。

 かの鬼どもは、畜生にも劣る、下劣なものだ。

 欲深くもあることを、忘れるな。


 我らは(こうべ)を垂れて、忠誠を誓った。

 太陽を掲げる、預言者に。

 月を胸に秘める、守護者に。

 永遠の感謝と忠誠を、子らに孫らに代わって、我らは誓った。


 国よ。国よ。千年つづけ。

 子よ。孫よ。千代つづけ。

 法よ。剣よ。神の子よ。我らを導き給へ。


 楽園は、我らの祈りで生まれた。

 我らが祈りが絶える日に、楽園は失われるであろう。






 あなたの目の前には、一冊の、古ぼけた本がある。

 革で装丁され、背表紙を紐で(つづ)った本だ。

 あなたは、それを手にとってみる。

 経年劣化からか、表紙の革はざらりと音を立てて、肌に(さわ)る。

 乾いている。けれども重い。

 おもむろに開いてみる。破けてしまいそうな、薄い、羊皮紙で書かれた本だ。

 色あせてしまい、黒々とした表紙とは違う。

 鮮やかなものだった。

 赤。緑。青。ときには黄色や朱色といった、鮮明な息吹が、(とどろ)きだしてくる。

 この本はまだ生きているのだと、あなたはここで知る。

 美しい本だと、あなたは感じ入る。

 ひょっとすると、思わずといった風に、指の一つひとつで、線をなぞらえているかもしれない。

 文字を、見る。読む。

 異国の文字だ。当然のことであるが、文化を異とするあなたには理解できないものだ。

 右から書くのか。それとも左からなのかもわからない。

 あなたは、時間をかけて、翻訳書や辞典を片手に、解読していった。

 どこの章で、第何番の節にあたるのかも、わかってはいない。


 (まぶた)を、そろりと、下ろしてみた。


 見知らぬ異国だ。

 風が吹けば、たちまち砂埃が舞い上がる土地だ。

 不衛生と眉をひそめる者もいるだろう。かくいうあなたも、そういう一人だ。

 豊かな暮らしをして、教育を受けた者として、当たり前の感性だ。

 しかし不思議なことに、あなたは、そのような心持ちとなる気配がない。

 胸に翼を生やそうとまでしていることを、知る。


 神の死んだ時代に、それが息づく歴史を紐解くという快感に、あなたは、震えてならなかった。


 法と剣で治められた、燃ゆる園(アハト)の都市並みが、現実のものとなる。


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