オモイノタネ8
今日はクリスマス。そんな日に、彼女達は……
世間的にはクリスマスと呼ばれている今日、私は誰かと過ごすこともなく、一人イルミネーションの施された街を歩いていた。
辺りにはクリスマスを楽しむ家族、友達グループ、彼氏彼女の組み合わせばかり、一人の人もいなくはないけど、きっと私とは違って、いっしょにこの日を過ごす人がいるんだ。
私が一人、一人だけ……
去年は違ったのに、去年はまだ、いっしょに過ごせる人が居たのに……皆、私を誘わずどこに行っちゃったんだろ。
そして、あの人はどこに行ったんだろう。
そんな時、ふと後ろを見た。
ほんとに、特に何かを見たかった訳じゃないのに、私は後ろを振り返った。
そこには……
「……寒いね」
「アタシはなんともないわ、なぜならアタシは…」
「ナビゲーターだから」
「分かってんじゃない、機械に寒さ暑さを聞くのはムダってもんよ」
「……そうだね」
「いったいどうしたのよ? 普段話もしない温度の話なんて」
「……それは…」
「水野葉さん!」
「……?」
こちらを振り返ったのは、やっぱり今私が名前を呼んだその人だった。
「ちょっとエリ、ダレよこの人?」
箱が喋った? いや今はそれどころじゃない。
「水野葉さんだよね? 私だよ、覚えてる?」
「……」
水野葉さんは黙っている。でも名前に振り返ったし、格好が少し変わってるけどこの人は絶対水野葉さんだ。
「ほら、去年同じクラスだった」
去年何も告げずに学校を辞めていった水野葉さんだ。
「……うん。覚えてる」
「やっぱり! こんなところでどうしたの? そんな格好して」
「……色々あった」
「いろいろって?」
「……色々」
なにがあったのかな? まぁいいやそんなこと。
「水野葉さん今ヒマ? ヒマだよね、こんな所一人で歩いてるんだもん。良かったらお茶しない? ほら、今日ってクリスマ…」
「……ごめん。それは出来ない」
え…? な…
「な、なんで? クリスマスに一人で出歩いてるなんてヒマだからでしょ? あ、もしかして仮想パーティーに行くの? だからそんな格好なんだね?」
「……そうじゃない」
「じゃあ……なんで?」
「……それは…………」
「エリ、反応があったわ」
そこに箱の声が被った。普通に喋ってるけど、アレは無線機か何かなのかな?
「目の前のソイツよ」
目の前の? てことは…
「わ、私?」
反応ってなに?
「……貴女、発明を持ってるね?」
発明? それってまさか、
「コレのこと?」
鞄からある物を取り出す。確かにコレは『発明の種』というものから作られたから、発明と呼んでもいいかもしれないけど…
「こんなの、みんな持ってるでしょ? 『発明の種』ってすごい売れたって聞くし」
「……そう、だから私はそれを回収してる」
か、回収?
「そんなの、無謀な数だよ? それこそここに居る人全員が持ってるかもしれないんだから」
「……それはない」
「そうね、今のところ反応はアンタからだけよ」
「だからって、なんで発明を集めてるの? コレは水野葉さんには必要ないものだよ?」
私が望んだものだから、水野葉さんが持ったところで役に立たない。
「……分かってる。でも、私はただ発明を集めるだけ。だから、それを渡して」
「……」
本気みたい、そこまでしてコレが欲しいんだ。水野葉さんには絶対いらないと思うのに…
「…分かったよ水野葉さん。コレあげる」
私は発明を差し出した。
「……ありがとう」
水野葉さんが手に持った瞬間、
「メリークリスマス、水野葉さん」
「え……?」
驚く顔を少しだけ見て、私は背を向けて駆け出した。
「…メリークリスマス…か…」
まさか今年も誰かに、同年代に言えるとは思わなかったな……
…さてと、これからどうしよっかな。
「…ん?」
等と考えていると、携帯が鳴った。
開いて見ると、電話みたいだ。
発信者は…
「…もしもし?」
『あ、もしもし? 今なにしてる?』
「別になにも、ただ街をふらふらとしてた」
『そっかー、もし良かったらさ…』
「……うん……うん……分かった。すぐ行くね」
「……メリークリスマス…」
「そう言えば今日、クリスマスだったわね、なんか時間の感覚が無かったから忘れてたわ」
「……」
「どうしたのよエリ? さっきの知り合いだったんでしょ? どうして断わったのよ?」
「……」
「そりゃアタシ達は休みも無く動いてるけどさ、こんな日ぐらい休んでも良かったんじゃないの?」
「……そうはいかないよビーケ、クリスマスだからと言って皆が誰かと過ごしてる訳じゃないんだから」
「まぁ、そうだけど」
「……だから」
「だから?」
「……ここでだけ少し。メリークリスマス、ビーケ」
「…えぇ、メリークリスマス、エリ」
恵理とビーケには、盆もクリスマスも無いんですね。
皆さんはどうでしょうか?
共に過ごす方がいるのは、嬉しい限りですよね
しかし、こんな可能性を持つ人も、一人はいるんですよ。
それでは、
何か一言でもよろしいので、お待ちしています。