用がないので、切ってください 〜魔導ナッツクラッカーと転生令嬢〜
私の髪は黒く、目も黒い。
きらきらもしなければ、発光もしない。魔力反応で色が変わったりもしない。
それが理由で――私は婚約破棄された。
「君は……金髪碧眼ではないからな」
そう言って私を捨てた男は、三日後に金髪碧眼の令嬢と結婚式を挙げた。
この世界ではそれが「正しい選択」らしい。
金髪碧眼=高貴=善。
黒髪黒目=地味=劣等。
(あーはいはい、知ってます)
なぜなら私は転生者だからだ。
ここは表向きは「多様性を尊重する王国」。
だが実態は、肌・髪・目の色で人の価値を決める、わかりやすい差別社会。
そして――
この世界のルールを、私は全部知っていた。
■ この世界の真のルール
婚約破棄は自由
だが「理由」が差別的だとアウト
アウトな場合、男側が処刑
処刑方法は「象徴的制裁」
そして象徴的制裁の代表例が――
「上映します。
魔導ナッツクラッカー」
法廷に設置された巨大水晶が光り、動画が再生される。
魔導技術で生成された教育用映像。
それはかつて差別を繰り返した英雄(自称)が、
「自分の偏見の象徴」を失っていくまでを、
コミカルに編集した啓発動画だった。
コミカルであることが重要だ。
この国は基本的にギャグで罰する。
■ 法廷での私
「俺が悪いと言うのか!?
美しいものを好むのは本能だろう!」
「はい、差別的発言を確認。
記録に残します」
裁判官が淡々と言う。
私は一歩前に出て、静かに告げた。
「私が金髪碧眼じゃないからといって
婚約破棄して他の女と結婚した男に、用はありません」
法廷が静まり返る。
「用がないので、切ってください」
「被害者の明確な意思を確認。
処刑レベル、最大」
◼️ 魔導ナッツクラッカー、発動
動画のラスト、ナレーションが流れる。
『人を色で選ぶ者は、
未来を残す資格を持たない』
映像はそこでフェードアウト。
現実では、眩しい光とともに象徴的な「去勢処理完了」の判定音が鳴った。
詳細は誰も語らない。
語る必要がないからだ。
男は「もう偉そうな選別はできない存在」になった。
後日。
私は処刑後、何事もなかったように紅茶を飲んでいた。
「派手じゃないな」と言われる顔で。
「つまらない」と言われる黒髪で。
「価値が低い」と言われた黒い瞳で。
けれど私は知っている。
この国で本当に価値があるのは――
他人を人として見る能力だ。
色じゃない。
血筋じゃない。
まして、股間についてるものでもない。
(用がないものは、なくていい)
私はそう思いながら、次の人生イベントフラグを折りに行くのだった。




