表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第6話 エルコンフィールドの手前で

台所でせかいをかえる

Revolution Starts in DAIDOKORO

第6話

エルコンフィールドの手前で


〜世界でいちばんすてきなところ〜


アジアの鎌が、

空を切った。


それは、

偶然ではなかった。


毎朝、

キッチンの前で広げる

地元紙が、

それを教えてくれる。


北海道の球場の歴史は、

台所横の戸棚に積まれた

新聞の束の中に、

静かに眠っている。


響香は、

そんな日常の中に、

いつのまにか芽吹く

物語を思った。



この地に住みはじめた頃、

響香は思っていた。


雪深い土地の野球が、

全国区になることは、

きっとないのだと。


「日和ハムって、

 テレビ中継されてた?」


「野球場といえば……

 やっぱり神宮でしょ?」


そんな記憶は、

新聞の文字によって、

少しずつ

塗りかえられていった。


札張(さっぱり)ドームが

できたのは、

娘が小学生の頃。


それと同時に、

日和ハムは

北海道へやってきた。



『北海道新聞』――

通称・道新は、

次の球場、

エルコンフィールドの構想を、

ずっと見守ってきた。


それは、

強豪の陰に隠れていた

チームの夢であり、

長い年月をかけて集めた

小さな希望の束だった。


「奇想天外」と

笑われた計画は、

やがて人の思いと結びつき、

土の中で

芽を膨らませていく。


芽は、

何度も折れた。


陽を浴びられず、

嵐にさらされることも

あった。


それでも、

不確かさごと抱えて

育っていく。


それが、

夢というものなのだと、

響香は思った。



札張で進んでいた

新球場計画は、

反対の声に押され、

立ち消えた。


そのとき、

北広嶋市が

手を伸ばした。


ほんの数人の、

市民の発案から始まった話。


けれどそれは、

春の芽吹きのように

町へ広がっていった。


響香は、

市民の寄付で建てられた

広島市民球場を

思い出していた。


――熱は、

ここにあったのかもしれない。



やがて、

人口五万の町に、

クレーンが立った。


まだ色のない未来が、

空へと伸びていく。


伸子と響香は、

連れ立って

工事現場を見に行った。


車を停め、

並んで見上げたクレーンが、

秋空を

ゆっくり横切っていった。



そして、

2023年3月。


エルコンフィールドが

誕生した。


初めて足を踏み入れた日、

響香は思った。


――これは、

本物だ。


球場には、

温泉があり、

ホテルがある。


壁には、

歴代選手たちの

肖像画。


なかでも、

ひときわ目を引くのが、

大谷翔平と

ダルビッシュ有だった。


静かで、

強いまなざし。


野球を知らなくても、

その名を知らない

日本人はいない。


世界へ羽ばたいた

選手たちが、

ここを見つめている。



この場所に立てば、

誰もが思い出すだろう。


自宅のテレビで見た、

あの瞬間を。



エルコンの工事は、

三年。


2023年3月14日、

プレオープン。


そして一週間後――

WBC決勝。


日本は、

世界一になった。


その瞬間、

世界のどこかで、

日本という国を

初めて知った子どもが

いたかもしれない。


ボールを転がして遊んでいた

その子が、

夢を見るようになった

かもしれない。



八回。

ダルビッシュ有。


最終回。

マウンドに立ったのは、

大谷翔平。


二アウト。

走者なし。

フルカウント。


放たれた一球。


それは、

アジアの鎌となり、

トラウトのバットを

空へ振り抜かせた。


稲穂を刈るように、

風が走る。


一瞬で、

世界が

ひとつになった。


この球場は、

未来を知っていたのだろうか。


――いや、

きっと、

導いていたのだ。


第6話 おしまい


→ 第7話

水仙のつぼみ へ

◇◆◇ あとがき ◇◆◇


ここまでお読みいただき、

本当にありがとうございます。


この物語は、

どこかでそれぞれが立つ

「台所」から、

小さなせかいが

動きはじめる――

そんな思いを込めて

書いています。


日々の暮らしの中にある、

記憶や香り、

ふと耳に残る音。


そのひとしずくでも、

どこかで

感じていただけたなら、

これ以上の喜びはありません。


本作は、

『台所でせかいをかえる

Revolution Starts in DAIDOKORO』を、

スマホでも

読みやすくなるよう

再編集したものです。


もし、

この物語を

もう少し辿ってみたいと

思っていただけたなら――


本編

『台所でせかいをかえる

Revolution Starts in DAIDOKORO』

にも、

ぜひお立ち寄りください。


物語は、

まだつづいています。


◇◇◇


感想・ブックマーク・評価などで

応援していただけると、

とても励みになります。


一言でも、

そっと置いていって

もらえたら嬉しいです。


あなたの言葉が、

つぎの物語を

運んでくれます。


ここで出会えたことに、

心からの感謝をこめて。


―― 朧月おぼろづき みお

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ