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第4話 未希のものがたり ②人形劇『しまえながちゃんときゅんちゃん による 水の話』

紙芝居が終わると、温かい拍手が起こった。

満足そうな未希の顔を見た凛は、そっとささやいた。


「はるえちゃん、本番はこれからだよ。」


――まるで舞台の幕が切り替わるように、昭和のカセットデッキのボタンがカチリと押された。


「じゃーじゃーン!」


鳥の鳴き声が、芝居の第二幕の始まりを知らせる。


未希は紙芝居をファイターズの紙袋にしまい、

指にはシマエナガちゃんとキュンちゃんの人形をはめ、動き出す。


一見アドリブに見える母の人形劇には、

プロデューサー役の凛のアイデアがいくつも詰まっていた。


《シマエナガちゃんとキュンタの公園劇場》

〜地下水と笑いとマイクラと〜


シマエナガちゃん「ねえキュンタ、公園では何を増やすお手伝いしてるんだっけ?」


キュンタ「え? えっと……なんだっけ?」


シマエナガちゃん「ちゃんと聞いてたの? もしかして……早く帰ってマイクラやろうと思ってたんじゃない?」


キュンタ「おもってないもん!」


シマエナガちゃん「未希さんが言ってたよ。キュンタ、最近公園に来ないのは、マイクラばっかりやってるからだって」


キュンタ「ちがうよ! ただ、マイクラのアイテムが気になるだけなんだ。君の兄弟たちも見かけないけど、大丈夫なの?」


(観客の子ども、マイクラ柄のトレーナーを着てニッコリ)


シマエナガちゃん(絵を見せながら)

「これ見て。山と畑、公園のまわりで、くまやしか、人間もみんなで笑って暮らしてる“マイクラの町”の絵だよ!」


キュンタ「うわ〜、いいねえ」


シマエナガちゃん「でも……ぼくら、絵の中にいないじゃない?」


キュンタ「定員オーバーだったんだ。だから、アイテム探してるのさ」


シマエナガちゃん「どんなアイテム?」


キュンタ「公園にある……あれだよ!」


未希(近くの子どもに)「なんだったか覚えてる?」


子ども「ちかすいー!」


シマエナガちゃん「こんなに大きな声で答えられるなんて、えらい! みんな拍手〜!」


キュンタ「あの〜、そこのおばちゃん! マイクラ知ってる? アイテムに地下水ってあったっけ? 早く帰って確認しなきゃ〜!」


シマエナガちゃん「ちょっと待って! 今はなくても、そのうちバージョンアップするかもよ!」


(急に声を張って)


シマエナガちゃん「さーて! ここで大事なクイズです!」


観客ざわざわ……


シマエナガちゃん「北広島の公園から、もし地下水がなくなったら……どうなっちゃう?」


子どもたち「うーん……」


(親の顔をチラ見、でも親は苦笑い)


シマエナガちゃん「よーし! ここで三世代チーム対抗クイズ!」


キュンタ「大吉さーん、どうぞ!」


(帽子をかぶったシマエナガ大吉が登場)


大吉「アタック……チャンスです!」


(観客くすくす、笑い始める)


キュンタ「もう一回! どうぞ!」


大吉「アタック……チャンスです!!」


(会場、爆笑)


キュンタ「はい、今笑ってるのが昭和世代〜!」


シマエナガちゃん「ポカンとしてるのが令和世代?」


キュンタ「付き合って笑ってくれるのが……平成!」


(会場、子どもも大人も笑いの渦)


未希「ねえ、シマエナガちゃん。そのおじさん、昭和でしょ?」


(観客がうなずく)


シマエナガちゃん「ほら、当たった〜!」


キュンタ「チーム分けしてたんだね!」


シマエナガちゃん「そう。北広島のお笑い指数を調べてたの」


キュンタ「で、どうなの? お笑い指数は?」


(少しの“間”)


シマエナガちゃん「……どうでしょう?」


(観客、くすくす)


シマエナガちゃん「どうでしょう……銅でしょう!」


(銅メダルを掲げる。会場 大笑い!)


シマエナガちゃん「大阪だったら、最初の『アタックチャンス!』で『アタックチャンス!』の大合唱だよ。あそこは“金賞”レベルだからね!」


(ラジカセからアナウンス音)

「今日のシマエナガちゃんとキュンタの公演は、これでおしまいです〜」


シマエナガちゃん「じゃ、宿題だね!」


キュンタ「でも、おちがないよ?」


シマエナガちゃん(力強く)

「おちは……おちています!

 おちは……ちゃんと準備しています!

 ほら!」


(シマエナガ、足元に置いていた水のペットボトル、木のセット、銅メダルをさしながら)


シマエナガちゃん「おち は、あります」


キュンタ「おちてた!」(水のボトルをひろう)


シマエナガちゃん「おち はちゃんとあります」


キュンタ「おちてたー!」(銅メダルをひろう)


シマエナガちゃん「おち はかならずあります」


キュンタ「おちてたぁ〜!」(木のセットひろう)


シマエナガちゃん「じゃあ、地下水は?」


子どもたち「ちかすい〜!」


シマエナガちゃん「ちゃんとつながっているはずです。それは……宿題!」


キュンタ「地下水はどこだ?」


(ふたり、紙袋の中へ戻る)


未希「キュンタとシマエナガちゃんに、もうちょっと会いたいお友だちいるかな?」


子どもたち「はーい!!!」


(子どもたちは指人形を順番に握って)

「アタックチャンス!」

「お水!お水!」

「木を植えたらいいんじゃない?」

など口々に言いながら、未希を笑顔で囲んだ。


昭和のカセットデッキから流れるアナウンスのあと、

「手のひらを太陽に」がかかる。


この曲は、未希の劇の定番。

懐かしく口ずさむ親たちの姿もあった。


「この曲、アンパンマンのやなせたかしさんの作った曲なんだよ。」


劇を見た親子たちは、令和も昭和もひとつのチームになって、

広いエスコンフィールドにゆっくりと散らばっていく。


娘・凛と夫・卓夫がプロデュースしたこの劇には、

「キュンタ 水を探して迷子になる」

「シマエナガちゃん・住所は玄関フード」

など、いくつものバリエーションがある。


今日は義母も見に来るということで、

初作をアレンジしたものを披露した。


「凛、どうだった?」と未希がたずねる。


「82点。地元でやるの2回目なんだし、“地下水ジュース”の話も入れたらよかったんじゃない?」


「やっぱりそう思う? でもさ、“地下水ジュース”って名前、子どもたちにピンとくるかなあ?」


「それなら、シマエナガちゃんに、もっと焦らせるとかさ。」


「凛ちゃん、厳しいのね。でも、本当に素晴らしかったわよ、未希さん。」

春江は、あたたかなまなざしで未希を見つめながら、やさしく続けた。


「聞いたわ。お母さん、長旅から戻られたって。

わたしのことは大丈夫よ。

せっかく北広島まで来たんだから、凛ちゃんと二人で、お母さんの顔を見に行ってらっしゃいな。」


未希は、伸子の家の方をそっと見やり、

凛の手をやさしく引きながら言った。


「きっと、父と母の“水入らず”の時間もいいはずだから。」


「凛、寿司太郎のお寿司、買いに行こうか?」


凛は、春江と未希の顔を交互に見て、にっこり笑った。


「水、いるよ。……みずは、いるよ。」


お気に入りのかばんを小さく揺らしながら、

足元を見つめて言った。


三人は、秋の風に吹かれながら、

伸子の家を横目に見て、

ゆっくりと寿司太郎へと向かった。


第4話 おしまい

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