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第1話 台所とアンジェラ〜ただいまの薔薇

台所でせかいをかえる


Revolution Starts in DAIDOKORO


第1話 台所とアンジェラ〜ただいまの薔薇


◇◇◇


トンネルを抜けると、雪国ではなかった。


朝の白さが、秋の青い空へとぬけていった。


道は、限りなく高い空へとのびていた。



この二年で、町には信号機がずいぶん増えた。


赤信号で停まったとき、赤い自転車がすっと目の前を通りすぎる。


見覚えのあるその自転車は、次第に小さくなり、やがて角をまがって見えなくなった。



――北海道北広島市に住む伸子は、つい先日、長旅から帰ってきたばかりだ。


その旅の疲れを感じさせることもなく、再び慌ただしい日常へと戻っている。


北広島の某水道会社で事務室対応にあたり、

帰り道には作業服のままスーパーに立ち寄り、

相棒の軽自動車で家に戻る。


作業服でなくてもいいのだが、

水道インフラの一端を担う伸子は、いつでも現場に出られるよう、作業服で過ごしている。


だから、彼女の作業服にはきちんと折り目がつき、

胸には「北広島市ニコニコ水道管理株式会社」の文字。


腕には、彼女のイニシャル「NA」が刺繍されている。



四十年間続く伸子の日課は、家に着くとまず台所に立つことだ。


サザンオールスターズの「いとしのエリー」を歌いながら、

“エリー”の部分を家族の名前に変えて楽しげに口ずさみつつ、


朝洗うことのできなかった食器を手際よくあらい、

こうして台所仕事をはじめる。


その姿には、伸子らしい明るさと温かさがにじみ出ている。



ふと窓の外を見ると、庭のバラ「アンジェラ」が風に揺れていた。


ピンクの可憐な花ばなが、

順に咲いてきた時間を映すように濃淡を重ね、

まるで「おかえりなさい」と微笑んでいるようだった。


伸子はそっと庭に出て、


「ああ、元気に咲いてくれたんだわ」


と、ゆっくりとアンジェラを見つめた。


旅のあいだ、ずっと気になっていたアンジェラ。


初心者でも育てやすいと聞いて購入したバラだったが、

ここ十数年、忙しい時間を縫って庭の手入れを続けてきた伸子にとって、

この花は特別な存在だった。


――その花の姿が、ようやく帰ってきた日常の光を映していた。


◇◇◇


第1話 おしまい


後書き


◆◇◆◇◆


→ 次話 第2話 アンジェラと?(メモ)


◇◆◇◆

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