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『マジックアイテム屋』とスナハダネコ

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。


前話に「雷竜:サンダードラゴン」の言葉が人間の標準語だったという描写を追加しました。

 砂漠の入口の『マジックアイテム屋』は店名を「砂渡りの棚」と言い、店構えは頑丈な石造りの倉庫兼店舗の様です。

 倉庫を改装したような天井の高い石造りの建物で、入り口には「マジックアイテム販売・下取り。付与はギルドへ!」と書かれた看板が立てかけられており、店舗の半分は在庫の木箱が積み上がって、残り半分が店舗となっています。


『魔法古物』の登録や管理は私たちにいたエスクイリン王国の仕組みなので遠く離れたこの土地では古くからあるものは『マジックアイテム』簡易的なものは『魔法付与品』と呼んでいるようです。


 店内の棚には商品が雑然と並んでおり説明書きが有るものもない物も一緒くたで、少し埃っぽいけれど、不思議とワクワクする空間です。

 カウンターの中には日焼けしてひび割れた肌を持つ、がっしりした体格の50代の親父さんが居ます。かつてはキャラバンの護衛か何かをしていたのでしょうか。

 カウンターの前には『小瓶』や『小石』などが籠に入って陳列してあり、店主は「これはギルドの最新ロットだよ」なんて気軽に話しかけてきます。


 店内を見て回れば店主の目の行き届くところには値段の張る『マジックアイテム』が並んでいます。


『魔法水袋』は100リットルの水を収納することが出来る水袋で、時間経過無効の効果で水が悪くなることもありません。


『水霊の羅針盤』は方位磁石の機能に追加で近くに水場やオアシスがあればその方角を示してくれます。


『調温の旅装』は着るだけで体感温度を常に適温に保ってくれる魔法の薄衣で、昼間の灼熱と夜間の凍えるような寒さの両方から身を守ってくれます。


『浮遊の靴』は砂に足が沈み込まなくなります。体力の消耗を劇的に抑え、砂丘をスイスイ進めるようになります。


 他にも多数の商品が並んでいますがこれらの『マジックアイテム』は効果が永続的であり、一品物で金貨10~100枚程度の値段が付いています。

 別の棚やカウンターの前には銀貨から金貨数枚で買える『魔法付与品』が多数並び、「付与はギルドへ!」の張り紙が有ります。


『夜露の小瓶』は一晩外に置いておくだけで、周囲のわずかな湿気を集めて清らかな水で満たしてくれる小瓶です。


『冷却の小石』は握りしめると、ほんのりひんやりする不思議な石で、首筋に当てたり、水筒の中に入れて飲み物を冷たく保つのに最適です。効果は数時間で切れますが、夜の冷気で一晩休ませるとまた冷たさが復活します。


『砂除けの風霊』は数時間の間、服や靴に砂がつきにくくなる魔法のネックレスで、装着していると砂漠の細かい砂が服の隙間や靴の中に入り込むのを防いでくれます。


『遮熱クリーム』は肌に塗ると数分で乾き、外部の熱をある程度遮断し日焼けを防ぐ魔法のクリームです。効果は12時間ほど持続し汗をかいても落ちにくく、効果が切れるとパラパラと乾いて落ちるため、後片付けも簡単です。


『砂蜥蜴のマント』は砂漠のトカゲの皮を素材にしたマントで、太陽光を反射するだけでなく、周囲の砂の色に同化して熱を逃がす性質があります。


『魔法付与品』は籠に盛られたり、棚にサイズ毎に吊られたりしており、数も揃っているようです。


 そんな店内を親父さんの随時してくれる商品説明を聞きながら見て回っていると、積み上がった在庫の木箱の上に、毛の短い猫が丸まっているのを発見します。



 極端な「短毛」と「大きな耳」が特徴のスナハダネコです。毛並みは非常に短く、ベルベットのような手触りの毛を持っています。色は砂漠に溶け込む砂色で背中にはキジトラのような薄い縞模様があります。

 大きな耳は体温を効率よく逃がすため、普通の猫よりもひと回り大きく、尖っています。砂漠のわずか獲物の動く物音などを察知します。

 木箱からはみ出ている足裏の肉球の周りには長い毛が生えており、これが「天然の靴」の役割を果たして、灼熱の砂の上でも火傷せずに歩けるようになっています。


 こちらに気付いたのか長い尻尾を「ペタンペタン」と動かして薄っすら目を開けこちらを見降ろしています。あまり鳴かず、鋭い目つきで客を観察する「門番」のような雰囲気を持っています。

 親父さん曰く、水の貴重さを知っているため、無駄に動き回らず、日中は店の影や木箱の上でじっとしており、夜になると砂漠のネズミやトカゲを狩りに出かけるそうです。

 賢く、自立心が強く、完全に人間に依存しているわけではない様です。


 王国にいる長毛の猫さんたちとは違い、ミステリアスな見た目と生態です。是非お友達になりたいところですが‥‥。


「触らせてくれそうもないですね」


「そうだな」


 などと会話していくつか買い物しようとカウンターに向かい、親父さんと話していると足元に猫さんがいて体を擦り寄せています。


「珍しいな。俺にも月に数回しか近寄って来ないのに」


「チーズをあげても良いですか?」


「ああ、少しならな」


 腰を起こし『魔法収納袋』から出したチーズを小さく千切って左手の掌の上に乗せると、クンクンと匂いを嗅いだ後、大きな耳を後ろに伏せて警戒しながらハクハクと食べ始めました。

 ゆっくりと右手で背中を撫でると抵抗もせず撫でさせてくれますが、毛の柔らかさよりもその下にある引き締まった筋肉のダイレクトな弾力を感じます。無駄な脂肪が一切なく、しなやかな野生動物に触れているような感覚です。

 ベルベットのような短毛は毛足が非常に短いため、指先が地肌に近い温度を感じ取ります。また、毛の隙間には砂漠の細かい砂が薄く入り込んでいて、撫でると少しだけ「ザラッ」とした乾いた感触が指に残り、それがまた「砂漠の猫」らしいです。


 ああ、私の脳裏にもチーズの香しい匂いの幻臭が‥‥‥。


 そういえばもう夕飯の時間ですね。親父さんは気にしていないようですがもうきっと閉店の時間は過ぎている事でしょう。

 腰の小袋に頭を擦り寄せている猫さんには悪いですが立ち上がって買い物を済ませます。


 親父さんに美味しい食事宿の場所やいくつかの情報を教えて貰い、猫さんに別れを告げます。名残惜しいですが、帰りにまた立ち寄らせていただきましょう。


 さて、すっかり日も落ちて家々の外壁に設置された『魔法灯』の光が通りを照らしています。異国情緒ある街中を、異国風の格好で歩いていくのはちょっと気分が高揚します。


 紹介して貰った宿では既に夕食の忙しい時間になっていたようで、女一人という事で訝しがられもしましたが、親父さんの紹介ということで何とか部屋と食事にはありつくことができました。親父さんに感謝です。



挿絵(By みてみん)





更新頻度は不定期です。

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