雷雲の王と砂漠の縁の都市
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しばらく飛んでいると、進行方向に頂上が平らに広がった金床雲が見える。
雲の底は不気味なほどの漆黒で、そこから地表に向けて濃い灰色のカーテンのような雨柱が伸びているのが見え、雲の上部では幾筋もの雷が激しく煌めいているのが解る。
「これは避けた方がよさそうですね。風の向きは‥‥」
雨雲の動きを予測して事前に回避運動を取ろうとしていると、パットが『御霊のランプ』から出てきて人型を取り、雨雲の方を凝視している。
「急いで距離を取った方が良いな」
その言葉に『魔法の絨毯』を反転させ急加速で雨雲から離脱する。
「何かいますか?」
「ああ、距離があって解りづらいが、とても巨大な生命力と魔力を感じる」
「雷雲の中からという事は「雷竜:サンダードラゴン」かその眷属かというところでしょうか」
「そんなところだろう、どのみち近寄らないに越したことは‥‥」
その時、後方の雷雲で一際眩しい輝きが起こったのが背後を向けているのに分かった。
振り向くと銀色の何かが雲海を突き破って飛び出してきたのが辛うじて見える。
それは翼を羽ばたかせるというより、自身が発する磁力で空気を切り裂き、直線的ではなく、稲妻のように鋭角にカクカクと進路を変えながら、空間を跳ねるようにこちらに近づいて来る。
そしてこちらが急降下する暇も与えず、その形状が解るまでに迫ってきた。
間近に迫るその姿は、鏡のように磨き上げられた銀色の鱗に太陽の光と自身の放電を反射して、直視できないほど輝いている。膜を張った翼ではなく、プラズマの皮膜がパチパチと音を立てて広がっている。
それは私たちの直ぐ横を通り過ぎると大きく旋回し、翼を広げたまま空中で停止し「グルルル……」という唸り声を上げ、こちらに瞬膜のある理性的な瞳を向けた。
翼幅10mはある「雷竜:サンダードラゴン」が目の前にいた。
その体の周囲には、「バチバチ」と静電気が展開され私の髪の毛は逆立ち、『魔法の絨毯』の端から青い火花が飛び散ります。周囲の空気は激しい雷雨のあとに感じるツンとした独特の空気感で包まれる。
『魔法の絨毯』と「雷竜:サンダードラゴン」の飛行速度には雲泥の差があるので飛んで逃げる事は不可能だ。私一人なら何とか転移系の『魔法古物』で対処できないこともないが、二人一緒となると難しい。降参である。
ただ襲うなら追い越して前に来ることもないであろう『魔法の絨毯』を停止させた。
瞬膜を何度か瞬かせて「雷竜:サンダードラゴン」は人間の標準語で話しかけてきた。
「珍しい組み合わせだ。人間と霊魂とは」
ドラゴンと会話する時にいつも思うが彼らには体の作りとしては本来人間のような声帯は無いはずである。トカゲなどに人間と同じような声帯が無い様にドラゴンにも構造上声帯は無いはずである。
ではなぜ、いま会話できているのか? 創世神話では神が星を作り替えた時にドラゴンを使役してその仕事がさせたとある。その時、意思疎通するためにドラゴンにも発声器官があるという説がある。
実際、ドラゴンには声帯の代わりになる発声器官がある。それはまるでその器官のみ後付けしたようにドラゴンの喉部分に存在する。
「‥‥聞いているのか?」
現実逃避は良くない。現実に目を向けよう。
「初めまして、雷雲の王よ。私はメリッサ、こちらは旅の友パットです」
私が頭を下げるのに合わせてパットも青白い人の姿の頭を下げる。
「友か、変わった人間もいるものだ。それに付き合う霊魂の方もだが」
「彼女には永き夢より目覚めさせて貰いました恩がありますゆえ」
「ふむ、それで友か。なるほどな。ところで友と言えば我も懐かしき気配を感じたのだが」
「雷竜:サンダードラゴン」が私の右腰の小袋に視線を投げる。
私は大人しく小袋から『幻燐竜の卵』を出して掲げる。
水晶座布団の上に乗ったそれの見た目はただの『鶏の卵より二回りほど大きい卵』である。
幻燐竜から預かってから寝るとき以外は腰に吊るしているが、大きさはあまり変わっていないように思える。
「ほう、やはりミラージュの子か、久しいな。そうか、そうか。あ奴は帰ったか」
「はい」
「まだ、孵るには時間が掛かりそうだな。よし!」
という声と共に「雷竜:サンダードラゴン」が青く光り迸った『雷撃』が『卵』を撃った。
眩しくて目を瞑ったがあまり効果は無かった。焼くような青い光が網膜に残って何も見えないが手の上の『卵』は動かさないようにしっかりと掲げていた。私にダメージは無い。ちょっと掌がピリピリする位だ。
しばらく待って何とか目が見えるようになって『卵』を見ると『鶏の卵より三回りほど大きい卵』になっていた。
「余り急激に育てても良くないだろう。これ位で丁度よかろう。では汝らの旅に良き風を」
「雷竜:サンダードラゴン」は来た時と同じように稲妻のように飛んで雷雲に戻っていった。雷雲の中に私たちの前に姿を見せた「雷竜:サンダードラゴン」より巨大な何かの存在を感じたのはきっと気のせいだろう。パットも何にも言わないし。
呆けた顔で見送ってしまったが、横を見ればパットも青白い顔をしている。当たり前か。
「‥‥行きますか」
「‥‥そうだな」
それからパットに『幻燐竜の卵』を見せながら『幻燐竜ダンジョン』の詳細を語って聞かせた。
地表の景色もまた変わり背の高い木はほとんど姿を消し、遠くには岩と砂の混じった荒野に多肉植物やトゲのある枯れたような低木がわずかにみえる。
これから先は半砂漠地帯の荒れ地になる。もうじき日も落ちるだろう。今日はこの辺で泊まれるところを探すとしよう。
地表に僅かに見える道を辿ればそこそこの規模の城塞都市を見つける。
砂漠の前の最後の補給都市は砂漠の過酷な環境から市民を守るため、二重の城壁は厚い石造りで、都市のいたる所に風を捕らえて地下へ送り込む「風の塔」がそびえ立ち、冷たい空気を建物内に送っている。
都市の中央にはこの都市で一番重要であろう湧き出る泉があり、陽光を反射している。
砂漠に面した一角には風で砂の上を滑る「砂上帆船」のドックがいくつか見かけられる。
この辺りに徒歩の一人旅の人間が城門に現れては不自然そうなので、今回も入市税は免除させていただく。
裏路地で姿を現した私は上空から目星をつけていた古着屋に入り、現地の衣装を揃えます。
一般的な市民の格好として、直射日光を遮り、体温を一定に保つための「空気の層」を作る工夫が凝らされたものはサリーと呼ばれる。非常に薄く丈夫な絹で織られた布を体に巻きつけるスタイルは動くたびに布が泳ぎ、風を内側へ送り込みとても涼しい。
また、砂漠を渡る冒険者の格好として動きやすさと、砂漠の魔物に対処するため、全面を覆う鎧は熱がこもるため、硬いトカゲの皮をメッシュ状に編み込んで、細かな空気穴を開けた鎧を用意する。
アラジンパンツは足首をキュッと絞った非常にボリュームのあるズボンで砂の侵入を防ぎつつ、激しい足さばきを邪魔しない。
頭から肩までを覆う大きな布は戦闘時には口元を覆って防塵マスクにし、休息時には広げて日除けのタープにする。
コールのアイラインは上下のまぶたを黒く太く縁取り、砂漠の強烈な照り返しを吸収し目を守る。
香油は乾燥で肌が割れないよう、常にジャスミンやサンダルウッドの香りがする濃厚なオイルを肌に塗り込みます。
そんなこんなでこちらの冒険風の格好で珍しい物に目を奪われ買い物をしているうちに日は暮れてきましたが、街をぶらぶらした結果、目の前には何という事でしょう『魔法古物店』の看板が‥‥‥。
きっと王都とは違う品揃えで面白い物が有りそうな気配が‥‥‥。
「ちょっと、寄っていいですか?」
「ちょっとならな」
更新頻度は不定期です。




