表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/105

空の旅とトライ・バイソン狩り

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

 今日も空の旅を楽しんでいます。


「そういえば、『鹿の角』は何か珍しい物だったのかい?」


「あれはただの鹿の角ではなく『崖鹿:クリフディア』の角ですね。人が到底登れない高山地帯の急峻な崖に居を構える大型の鹿で魔力を帯びたその角は薬の材料として珍重されています。あの一本だけであの応接室にあった全部の調度品の合計より高価なはずです」


「ほう、それをほったらかしにして来て良かったのかい?」


「私は泥棒ではありませんので。帰りにフライを食べに寄りますから、その時に売りにでも出されていたら考えます。あ、あそこでハヤブサが上昇しています」


「ふむ、上昇気流があるなら避けた方が良いな」


「そうしましょう」


『魔法の絨毯』は涙型の結界に守られているが、風や気流の影響を受けない訳ではない。短い時間であれば弱い魔力を流しながら常に自分でコントロールすることも出来るが、今回の様に長時間長距離の飛行の場合はそれでは疲れてしまう。なので目的地を大まかに指定して半自動的に飛んでもらう事になる。例えば東に真っすぐ100㎞飛んでというようにだが、ここで風や気流などの影響で向きや高度が変わると100㎞進んだ結果、望んだところに着いていないこともある。

 という事で半自動で飛行して貰いながらも時たま向きや高度のチェックと修正、上昇気流の回避等をすることになる。

 ただ、のんべんだらりと景色を見ながら無駄話をしているだけではないのだ。


 さて王都から1,000㎞も離れてくると眼下の景色も森林地帯から随分様相が変わってきた。木々がまばらになり背の高い大木が減り、乾燥に強い低木や地面を這うような草が増えて、地面は腐葉土のような黒い土から、次第に乾燥した茶色の土が見えるようになり、高度を落として見れば点在する水場に草食動物の群れやそれを狙う豹などの肉食動物、遊牧民の移動用テントなどを目にすることが出来る。

 王都では見慣れない動物や植物につい高度を下げて観察しているとパットに注意される。


「下の遊牧民から見られているぞ。もうちょっと高度を取れ。弓を射かけられても知らないぞ」


「そうですね。無駄に驚かせてもいけませんね。本当はそろそろお茶でもしたい時間ですが」


「なら、あれを討伐すればお茶位招いてくれるのではないか」


 本当にレイスの生命力感知能力は便利だ。


 パットの青白い炎が先を尖らせて地表の一端を指し示す。

 そこには頭の左右に大きな湾曲した二本の角、正面の眉間の少し上鼻先に向かって突き出す第三の角を持ったトライ・バイソンが10体ほど山のような巨体で悠々と草を食んでいる。

 全長4mほど全身が硬質の岩のような外殻に覆われており、下手な弓矢では傷一つ与えられそうにない。

 そのトライ・バイソンの風下から20人ほどの遊牧民が投げ槍を手に腰を屈め、近づこうとしている。


 トライ・バイソンの真上まで移動し『魔法の絨毯』から身を乗り出し左目を閉じ、突き出した右の親指で、眼下の黒い塊の一体を捉え位置を微調整します。トライ・バイソンの巨体が親指の爪の中にすっぽりと収まりました。風は西から微風、視界の外れで遊牧民たちがチラチラと動いてこちらを見ているのが解ります。ゴーグルを装着し『御霊のランプ』のシャッターを閉じる。


「では、行きます」


『魔法の絨毯』を『魔法収納袋』へ収め、垂直に出した「丸太」に右手を添え一緒に落下します。高度100mから丸太が地表に到達するまで約4.5秒。地表では三本の角を誇示する巨獣が草を食み、こちらには気づいていない。

 丸太は空気を切り裂き、垂直に落下していく。「ヒュゥゥゥ……」という高い風切り音が、地上へ近づくにつれ「ゴォォォ!」という地響きのような唸りに変わる。

 野性の感だろうか、風切り音が聞こえたのかトライ・バイソンが頭を左右に巡らすが頭上に上げることはない。

 風の分の僅かな調整を「丸太」にして3秒で私は『空中浮遊の指輪:レビテーションリング』を発動させ落下の勢いを殺す。「丸太」はそのままトライ・バイソンの頭上の第三の角に直撃した。最後の瞬間にトライ・バイソンは頭を頭上に向けようとしていたように見えた。


「ガチィィィン!!!」


 金属同士がぶつかったような耳を劈く音が草原に響き、丸太は粉々に砕け散り木片が周囲に飛び散った。音と破片を浴び驚いた周りのトライ・バイソンたちが闇雲にその場から走りだし逃げてゆく。「丸太」を受けた巨獣の首は地面にめり込み、自重を支えきれなくなった胴体が膝をついている。


 脳震盪、いや脳自体が破壊されているかもしれないが、早々に喉元などから血抜きすべきでしょう。

 木片を空中で躱した私はトライ・バイソンの傍らに着地しゴーグルを外し遊牧民の方々に手を振る。


 最初は警戒し遠巻きにしていた遊牧民の方々も「手伝ってください。血抜きしましょう」と声を掛けると徐々に近寄って来て最終的には一緒に解体し始めた。


 人間は神々からこの星を与えられたときから共通語を使用しているので地域や国によって言語には多少の方言はあるが、基本的には会話に困ることは少ない。


 巨体を誇るトライ・バイソンだ。20人からの慣れた男たちに掛かっても2,3時間は解体に掛かるだろう。「お茶」を一杯貰いたいと伝えれば年嵩の男性が簡易テントを張り、小さい絨毯を敷き、手慣れた様子で小鍋を火にかけ始めた。


 ほどなく木彫りの器に注がれたミルクたっぷりのバター茶が手渡された。表面には家畜から採れた新鮮なバターの油分が黄金色に浮いており、一口含めば茶葉の渋みとミルクの甘みそして少量の岩塩が効いている。


 バター茶を傾けつつ、先を急ぐので解体はお任せすると告げればトライ・バイソンを狩った時の一番槍はその三本の角を貰う事出来るそうだ。遠慮したが「いや駄目だ!」と言われてしまって、帰りに寄るのでその時にと何とか納得してもらった。


 それからバター茶のおかわりを二杯頼み、『魔法の絨毯』を出し飛び立った。


 解体の手を休め、驚いた顔を上げている遊牧民の方々の上をぐるりと一周し手を振って高度を上げる。帰りに必ず寄る様にと年嵩の男性が大声を上げていた。


 上空には既に残り物を狙ったハヤブサたちが舞い、地表でも解体しているところを取り囲むようにハイエナやオオトカゲたちの姿が見えるが、大物はいないようなので大丈夫だろう。


 上空に上がってまた巡行飛行に入ると『御霊のランプ』のシャッターを開け、『魔法収納袋』から温かいバター茶の器を二つ出す。


「どうぞ、茶葉の渋みとミルクの甘みが独特で美味しいですよ」


 しゅるんと出て来た青白い炎が人型になり、私の横に胡坐をかいて座る。

 手渡した器を「フーフー」としてからパットは一口含んだ。


「我が国には親しみの無い飲み物だな」


「そうですね。この辺りは夜間とか冷え込みが厳しそうですから栄養補給や体温維持のために飲んでいるのかもしれませんね」


 もちろんアンデットであるパットが飲み物を飲む必要はないのだが、この方は当初から食べ物はともかくお酒は嗜んでいた。今も美味しそうに?飲んでいるので飲む必要はないが嗜好品として必要なのだろうか?

 ゆっくり遠くの景色を眺めながら二人で器を傾ける。


「ところで、私の目から見て、その、随分気持ちが緩んでしまっているように見えるが‥‥」


「‥‥‥そうですね。自覚はあります。王都から随分離れましたし、この辺なら『魔法の絨毯』の目撃情報が流れても問題ないだろうとは」


「まぁ、先ほどのは私が唆したと言えないこともないが、昨晩の街での一件もそうだ。普段の君はもっと慎重で計画的という印象なのだが」


「それはパットの買いかぶりです。確かに普段はあまり目立たないように注意はしていますが、本来私は迂闊な質なんです。街を離れて私を知っている人がパットしかいないという事で箍がちょっと緩んでいるんでしょうね。カレンたちといる時は『魔法古物商』のメリッサ、冒険者のメリッサとしてしっかりしなきゃという気持ちでいるのが、パットにはその壁が低いというか」


「それは気を許してくれているという事で男としては光栄な事なのだろうね」


「ふふ、そうですね。旧帝国のお話をし合えるのはパット位ですから」


「彼らには話したりしないのかな」


「みんなには重たい話ですから‥‥‥」


「なるほど、では君が話せる相手が新たに見つかるまでは私がその役を一手に引き受けるとしよう」


「お願いします」


 それからまた、昔話をいくつもしているうちに地表の景色もまた変わっていった。



挿絵(By みてみん)



更新頻度は不定期です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ