表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/105

ある街の子爵の悲劇

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

 ランチの後は市場をぐるっと見て回って、ナツメグやクミンなどの香辛料や絹製品が安かったので購入しておく。


 腹ごなしが終わったら再び裏路地で姿を消して上昇、十分な高さで『魔法の絨毯』に搭乗し東を目指す。当面は北に延々と山脈が聳えているのでそれを左手に進めば間違いない。


『御霊のランプ』のシャッターを開けて、左右に視線を振れば地平線の端から端までが緩やかな弧を描き、星の丸さを実感できる。自分たちが大きな球体の大地の上で生活していることを我々は知っている。


 一部の創世神話でも伝わる通り、最初の人たちは神々の船に乗ってこの星に降り立った。神々は私たちが降り立つ前に大地に雨を降らせ、緑を芽吹かせ動物を放った。我々が必要なものは全て用意され、楽園に降り立った最初の人たちは当初平和に暮らしていたが、その内内輪もめを始め楽園を追放された。そして楽園の外には魔物が跋扈しており、そこから人々は自分達の領域を護るため魔物と戦う事となった。

 それ以外にもいろんなバージョンの神話があるが概ねこんな感じである。


 それから景色を眺めながらパットと雑談をして夕方まで飛んだ。

 一度、上空にドラゴンの陰を見たが、こちらが早々に地表近くまで高度を落としたら追っては来なかった。パットがレイスの生命力感知能力で教えてくれたので先に手を打てた。なかなか役に立つ能力であることが証明された。


 夜に飛行してもいいのだがパットがいるとはいえ夜間に飛行モンスターに襲われると発見、対処が遅れる懸念がある。また、地形も読み取り辛いので大人しく夜は休むことにする。

 さて本日の宿を決めなければいけない、目を凝らせば右手前方に街の明かりが目に入る。既に隣国のパラタイン王国も過ぎて、ここは多分クイリナル王国であろう。街に近づき過ぎると魔力探知に引っかかる可能性があるので手前の街道に近い林の中に降りて、『魔法の絨毯』を仕舞い、旅行用のマントを羽織り、ダミーの背負い袋を背負い旅人装束となる。


 町に向かう荷馬車に同乗させてもらい、おじさんに砂糖菓子を渡して一緒に食べながら街の噂を聞き取る。

 城門ではすでに日も随分傾き、閉門時間近くで立て込んでいるようだ。門の左右には篝火が焚かれ荷馬車や衛士、人々の顔を照らしている。

 荷馬車を降りて並んでいた私の番になり、冒険者ギルドのギルド証のタグを見せ入市税を払い、にっこり笑って銀貨一枚袖の下を渡すと最初訝しんでいた顔もどこへやらすんなりと通してくれた。

 私が見せたのは隣国の隣国の隣国の冒険者ギルドのギルド証である。通常のギルドはその都市内でしか基本機能していないが商人ギルドや冒険者ギルドは他の都市や国の外ともある程度繋がりがあり身分証明書として機能はする。

 例えば商人ギルドであれば他の国に行くときに大金を持ち歩くのは危険が伴うので手形にして持ち歩き行商先で手形取引をするなどの安全策を取ったり、問題が起こった時の後ろ盾になってくれたり、市場への出店を優先してくれたり、入市税や関税に特権があったりする。まぁ、デメリットもあって会費や上納金がやたらと高かったり、商売する場所や時間、品質などに制限があったり、同じギルドの商人が下手を打った時には尻拭いする必要があったりもする。

 冒険者ギルドの場合も大体同じだが、他国への商人の護衛や他国のダンジョンに挑むときなどは所属する国を離れることはままあるので城門の衛士も三つ隣の国の冒険者を少し訝しんだが、珍しいものではあるが銀貨一枚握らせれば態々詰問する必要もないという事だ。


 さて、荷馬車のおじさんのおすすめの食事宿「川縁の三日月亭」を目指し街中をぶらぶらと歩いてゆく。私たちの国より魔法に力を入れていないのか日が暮れた街中の通りに『魔法灯』の明かりは少なく薄暗い感じがする。

 国を三つも移動すると多少、異国感が出てくる。街行く人々の服装もこちらの国の方が色遣いが派手で目を引くものが多く、表情も無駄に明るく感じる。道を歩いていると男性から不躾な視線も感じるし、「一杯行こうよ」と肩に手を掛けてくる輩もいる。すんでで交わせばそれ以上、しつこくして来ることもないが鬱陶しいのでフードを被っておく。


 日が沈んだ運河沿いの道を進んでいると裏路地から「きゃあ、やめて!」という女性の悲鳴が聞こえた。曲がり角から覗き込めば狭く薄暗い路地で3人の男が若い女性を取り囲んでいる。


「衛士さん!こっちです!」


 ドタドタドタとその場で足音を派手に立てるとなんと『御霊のランプ』からも男性の声が発せられる。


「おい!その路地だ!一人も逃すな!!」


「やばい!にげるぞ!」

「お、おう」


 三人の男たちが路地を奥に逃げていくのを確認し、フードを外して顔を晒して若い女性に近寄る。


「大丈夫ですか?」


 15、6歳くらいの栗毛の可愛らしいお嬢さんが潤んだ瞳で怯えた様子だ。


「は、はい‥‥あ、ありがとうございます?」


 衛士の姿が無い事を不思議がっているようだ。


「嘘ですよ。衛士はいません」


「え、でも男性の声が??」


 腰の『御霊のランプ』に視線を投げると青白い炎がゆらっと揺れた。


「‥‥ああ、声真似です。さぁ、お家はどこです。送りましょう」


 お嬢さんの手を取って表通りに連れ出す。


「私はメリッサと言います。お嬢さんは?」


「はい、ボニーと言います。本当にありがとうございます。あの男たち本当にしつこくて」


「そう、詳しく話を聞かせて貰える?」


 ボニーの話ではボニーの家は中規模の商店をやっているが、領主の子爵がボニーを気に入ったという事で奉公に出さないかという話を断ったらあの男たちが差し向けられたらしい。


 ボニーの家では生真面目そうな両親に何度もお礼を言われ、お礼を渡したいともいわれたが急ぎの用事があると固辞してその場を無理やりに去った。

 さて、時間も遅くなりこのままでは夕飯が混んでしまう。急ぎ足で運河に迎うべく、通りを進んでいると後ろから尾けられている気配がするので、徐に路地に入って行く。まぁ、それ以前から尾けられていることは解っていたが。


「へへ、さっきは良くも騙してくれたな。この辺の裏路地を俺らの庭みてえなもんだ」

「な、やっぱり旦那の好みだろ」

「そうだな」


 二人の男が先を塞ぎ、背後にも一人、先ほどの三人組だ。


「あのーー、夕飯の時間に遅れてしまいそうで、急いでいるのですがお時間かかりますか?」


「はぁ、飯だったら世話になった礼に俺達がたらふく食わせてやる。一緒に来な!」


「本当ですか? こちらの街は川魚のフライが美味しいと聞いたのですが」


「‥‥ああ、本当だ。付いてこい」


 三人が前後を固めてエスコートしてくれるのを裏路地で偶々見かけた人たちは目線を反らせて見送ってくれる。

 しばらく歩くと、この街の領主館と思われる屋敷の裏口が見える。見張りに挨拶して中に入り、執事らしき男と三人のうちのリーダーがちょっと話した後、応接室に案内される。


 部屋には執事とリーダー、私の三人だが椅子を勧められないので室内の調度品などを見て回る。どれもこれも派手派手しく質が悪く、当主の趣味の悪さが滲み出ている。

 マントルピースの上の『鹿の角』だけは目に留まりじっと見入ってしまう。そんなことで時間を潰していると扉がバタンと開き、この部屋にとても似合う男性が入ってきた。

 40歳位緩んだ体と緩んだ頬が特徴の男性で目には期待を込めた輝きがある。


「ボニーちゃんの代わりの子というのはこの子か?」


 と言って私のつま先から頭の先までをじっとりと眺める。

 私が何も言わないでいると執事がその男に近づき小声で耳打ちする。


「はい、少々おつむが弱いようで、自分が連れてこられた理由も解っていないようですが、どうでしょう旦那様のお好みと思いますが?」


「うん、うん、いいんじゃないか、ところで君は何歳かな?」


 当主らしき男が猫なで声で尋ねてくる。


「‥‥‥二十歳です」


「‥‥‥無しで!」


 リーダーの男も執事も驚いた顔をしている。

 確かに平均女性より背は低く、どちらかというと童顔で、体の凹凸も控えめで若く見られることが多い。ボニーと同じ16歳位と思っていたのだろう。

 どうやら対象の女性の年齢に拘りがある方の様だ。


 左腰の『御霊のランプ』がカタカタと揺れているのは何故だろう。

 私はゆっくり『御霊のランプ』のシャッターを上げる。すると青白い炎がゆらりとそこから滑り出し私の顔の周りを一回りする。

 目の前で何が起こっているのか理解していない三人の目は青白い炎を追っている。


「やっちゃってください。手加減なしで」


 レイスのパットの青白い幽体が怯えて逃げる当主の体をすり抜けると、当主は驚愕の表情を浮かべ、体がびくびくと痙攣し前に倒れこんだ。レイスの攻撃は肉体的なダメージだけでなく精神的にもダメージを与える。


「だ、旦那様!」

「うわーーー!」


 倒れた当主に駆け寄る執事と、扉に向け逃げ出すリーダー。

 応接室の天井付近で一回転して今度は執事に襲い掛かるパット、扉を開けて逃げ出そうとしたリーダーは私が『魔法収納袋』から出して投げたボーラが足元に絡まり大きく転倒する。

 執事を始末したパットはそのままリーダーも片付ける。私は当主と執事の懐から鍵束を回収し執務室と思しき部屋を目指す。


「屋敷内の制圧は任せます」


「承った」


 その夜、ケネディ子爵家の屋敷ではいくつもの悲鳴が聞こえた。




 翌朝、「川縁の三日月亭」で目覚め、朝ご飯を食べようと階下に降りれば、食堂は昨晩の噂話で持ち切りだった。


 なんでもこの街を納める子爵家の屋敷から、昨夜悲鳴が聞こえ衛士たちが駆け付けた時には当主から使用人まで全員が気絶していたそうだ。

 死んでいる者はいなかったそうだが意識を取り戻した者たちは青白い幽鬼が襲ってきたと声を揃えて言い、一様に怯え震えていたそうだ。

 当主は青白い幽鬼とそれを従えた魔女が襲ってくるとブツブツと呟き続け、今は教会が身柄を保護しているそうだ。

 また、夜半にこの街の商業ギルドに子爵の諸々の不正の証拠書類が投げ込まれており、ギルドは王都への報告を急ぐという事だ。


 美味しい朝ご飯を頂き、ランチ用に川魚のフライをパンに挟んだものを用意してもらい「川縁の三日月亭」を後にある。


「次来るときは揚げたてのフライを頂きますね」


挿絵(By みてみん)




更新頻度は不定期です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ