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王城潜入

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 さて今日は王都地下、上水の地下貯水槽に来ています。

 壁にいくつか掲げられた『魔法灯』の明かりに照らされ、何本もの柱に支えられた貯水槽に湛えられた水の表面は揺らぎひとつなく、地下の冷気を吸い込んで「ピチャン……」と天井の石灰岩を伝って落ちた一滴の雫が、水面に波紋を広げる。

 その音はアーチ状の巨大な空洞に反響し、重く響き渡る。

 地下に居て外の明るさは解らないが、今の時間は真夜中である。

 昼間であれば上水の管理者などが施設や水質の点検をしているだろうが、今は誰も居ない。夜間の見回りもあるが今はその時間ではない。

 地下貯水槽は王都に暮らす皆の生活の基盤であり重要施設である。

 王都では王宮から貴族街、上流から中流の各家庭までは各家に上水が行き届き、街の至るところには噴水や水汲み場、防火用の貯水槽が有り下層の住民であろうが誰もがきれいな上水の恩恵に与っている。

 また、その水はパン屋が兼業している風呂屋や公共浴場にも供給され、衛生環境を向上させ王都では大きな疫病の発生はここしばらく記録されていない。


 そんな王都の重要施設に無断で入ることは施設の破壊や毒の混入などが疑われ重犯罪である。

 が、今日は王宮に用事があるのでちょっと失礼している。この地下貯水槽に来るまでも、うら寂れた教会の秘密の通路から侵入してきたのだが、ここから浄水施設の点検通路を王宮内まで進みそこからまた別の秘密通路に進む予定である。


 さて、何度か見回りをやり過ごし無事点検通路を王宮近くまで来ることが出来た。

 ちなみに今日は『透明マント』、『無音のブーツ』、『護符:アミュレット』、『猫目石のブローチ』という装備で、見た目にも魔法探知にも対策し夜目も効く。


 点検通路の脇道に外れたところに王城からの秘密通路の出口がある。ぱっと見はただの石壁だがここには王族とこの秘密の通路の保守点検を行っている家門の者しか知らない秘密の呪文で開閉できる出口がある。

 たまに物語やお芝居で「王族しか知らない秘密の通路」というものが出てくるが維持管理はどうしているのだろう? 王様や王子様が公務の終わった後、夜な夜な点検しているのだろうか? 保守点検していない場合はいざという時に使えないことにならないだろうか? とりあえずこの秘密通路は適度に掃除され保守点検されているので問題ない。


 ああ、私がなぜ王族と保守点検の家門しか知らない秘密通路の場所を知っていて、今まさに秘密の呪文で出口を開けているのかというと「お母さま」に聞いていたからだ。

 その話はおいおいしよう。


 秘密の呪文を石壁の前で唱えると光を発することも音を出すこともなく、石壁の一部が凹み通路が出現する。秘密通路に身を忍び込ませ再び呪文を唱えると静かに石壁は閉じた。

 さて、ここからは真っ暗だが、『猫目石のブローチ』の効果で真っ暗でも続く通路がはっきりと解る。


 そこから細く入り組み、分岐の多い地下通路を進む、行き止まりや罠のある通路は以前に確認済みなので記憶を頼りに30分ほど迷路の中を進み王城の地下までやって来ることが出来た。


 細い石組みの螺旋階段を上がると王族専用の礼拝堂に出る。他にも王様の寝室や執務室、謁見の間などの近くに繋がる通路もあるのだが、今日の目的地はこの王族専用の礼拝堂である。

 それに真夜中とはいえ王城内を悠長に歩き回るのも遠慮したいので直接目的地に来ている。礼拝堂は王城内の奥まった庭にあるので窓からは王城も見えている。


 礼拝堂は造りとしては小さく中は十人も入れば一杯であろう。建物は大理石の造りで頑丈そうではあるが装飾も少なめでステンドグラスなどの煌びやかな装飾もない。小窓から差し込む月の明かりが小さいホールを照らすがホールには椅子も置いていない。正面には大理石の台に『金属板』が乗ってその背後には王家の紋章の「四輪のユリの花と剣と盾、車輪、麦の穂」のタペストリーが下がっている。

 縦1.6m横1mほどの『金属板』は月明りを受けその表面に刻まれた文字を浮き上がらせているが、この古代文字の解読は今現在進んでいない。

 その材質不明の『金属板』の前には一つの『メダリオン』が置いてある。


 さて、この時間見回りも来ないはずであるが、速やかに目的を達成し立ち去ることにしよう。


『金属板』の前に膝を付き、両手を組み魔力を捧げる。

 私の体から石板に幾重にも白い細い光の帯が繋がり、魔力が流れ出るのを感じる。

 そのまま10分、20分とゆっくり魔力を捧げ、疲れを感じたところで終わりにする。


 王都には防護結界が張られている。

 この奇妙な古代文字の刻まれた『金属板』がその結界を張るための『魔法古物』である。その詳しい操作方法等は古帝国崩壊後の混乱期に王国でも失われており、それからの300年間も細々と王族により防護結界は張られていたが最低限のものであった。


 3年前の事件の折に王都に溢れた魔物を弱体化し壊滅できたのは、使用方法と共に失われていた鍵になる『メダリオン』が礼拝堂に戻り防護結界が本来の力を取り戻したおかげである。


 ただし、事件解決後に問題は残った。

 防護結界に魔力を流せる者は王の血脈である必要があったが、300年の間に血脈は薄まり魔力を捧げえるものが減り、更にその量も減ってしまっていた。

『金属板』は王家の魔力を蓄え、いざという時に結界を張る仕様である。

 事件の時にそれまでちまちま貯めていた貯蓄は底をつき、次に何かあった時には結界は作動しないことが確実視された。


 それでも王族は魔力を捧げえるすべての血族を集め、日々魔力を捧げている。


 さて、明日から王都を離れるのでその前に片付けることはこれで終わりだ。

 これでまた王都も当分は安全だろう。

 今日はもう帰ってゆっくり休もう。


 礼拝堂内の秘密通路の出入り口に向かおうとし、窓の外の王城がちらりと視界に入る。


 王様の寝室の窓に明かりが灯っている。

 こんな真夜中にご苦労な事だ。


挿絵(By みてみん)








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