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幻影投影装置デモ

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 今日もしとしとと雨が降っている。

 もう四日ほど続く雨に太陽の日差しが恋しくなってきている。

 辻馬車の中から眺める街並みも薄ら暗く、傘を差し道行く人々の足取りもどこか重たい。中央劇場の裏口で辻馬車から降りてベルを鳴らすと、係員がドアを開け案内してくれる。

 今日は劇場の演目はお休みの日である。劇場内に人気は無く案内された先の観覧席には劇場の支配人と演出家、大道具長、魔法大型工房の製作担当者が顔を揃えていた。

 大型舞台装置の製作監修の仕事で今日は劇場を訪れている。

 以前にも打合せを何度もしているので軽い挨拶を済ませ、早速本題に入る。


「『幻燐竜の鱗』から幻影装置に使う成分の分離が終わり、事前に製作していた各種装置と魔法陣の方への付与も無事完了しました。設置も昨日済んだという事で今回、関係者のみのデモを行います」


 私の立場は舞台装置の発案者でアドバイザーというところだ。元々付き合いのあるこの劇場のパトロンであるランドン侯爵と支配人から観覧席を含んだ劇場全体に幻影を投射できないかという相談を受けたのが始まりだ。

 これまでも背景や演出の一部では描き出しで描き切れない動きのある背景や剣から炎が出る演出等で幻影の魔法は使われている。そのために専属の魔法使いを雇ったり、『魔法古物』を使ったりしていたが劇場内全体となると魔法使いの魔力が足りなかったり『魔法古物』の性能が追い付かなかったりしていた。

 相談を受けて横50㎝縦20㎝奥行10㎝のミニチュアの舞台背景を読み込み100倍にして舞台上に投射する装置、劇場内のあちこちに複数の小型の『幻影投影装置』を付けてそこから妖精などの幻影を観客の側に投影し動かす装置の案を提案した。

 ただし、その装置を作っても魔力の高い魔法使いが専属で着く必要があり、運用コストが高く常時使用が出来ない代物だった。

 その問題を解決するために幻影を生み出す力のある『幻燐竜の鱗』の幻影成分が必要だったが、S級の品質の物が丸々一枚分必要という事で困っていた。そこで色々あったが今回この問題が解決され、無事開発が進められたという事である。


「では、お願いします」


 本来は舞台裏に設置されるべき『幻影投射装置』が今は観覧席の中央に配置されており、装置の前には製作担当者が座っている。

 私が横から合図を出すと製作担当者が小さい『水晶球』がいくつか嵌った手元の装置に魔力を流し『水晶球』の中に光が瞬くと、無事舞台に背景の幻影が投射された。


 通常の書き出し、背景画では平面の絵や多少の建物や塔などの道具で凹凸を再現していたが、今目の前にある背景は王都の街並みをリアルに再現し奥行も感じられる。王都の市場通りの店々の看板や並んだ商品などまで詳細に再現されている。


「おおおおーーー!」

「これは、なんとも!素晴らしい!」

「‥‥‥」


 支配人と演出家から驚きの声が上がり、大道具長は黙ったままである。

 投影された背景は製作担当者の右手の装置の棚に置かれた街並みのミニチュアそのままである。ちなみにミニチュアを置く棚は縦に4か所用意されている。


「実際のお店の店内の様子や看板、カフェのメニューなどを映し出したら見終わったお客さんが買い物や食事に行かれるんじゃないでしょうか?」


「良いですね」


「それで料金を貰うなんて言うのはどうでしょう?」


「‥‥‥」


 私の提案に支配人と演出家は乗り気だ。


「次です」


 製作担当者が次の水晶球に魔力を流す。

 と、それまで建物などの街並みだけだったところに動く人々や行きかう馬車や荷車、店先で寝ている猫などまでが登場し、がやがやと会話する声やガラガラという車輪の回る音までが立ち始めた。


「おおおおーーー!」

「これは革新的です。演劇の歴史が変わりますよ」


 興奮した支配人と演出家から驚きの声が上がる。


「しかし、背景の人物がはっきりしすぎている。雑踏の音もデカい。どちらも劇の邪魔だ!」


 ここでそれまでむっつりと黙っていた大道具長が声を上げた。


「そうですね。では調整しましょう」


 製作担当者に目配せすると手元の水晶球を調整し『水晶球』の中に光が瞬く。すると人々の輪郭が少しぼやけて顔などの詳細が判断できなくなり、音も控えめに変わった。


「どうでしょう。ぼやかし度合いや雑踏の音も個別に調節可能です。こちらにセットしたミニチュアの街並みを100倍にして投影し、人々の幻影は『遠見の水晶球』の技術を応用し思い描いたものを記録用の『水晶球』に記録してありますから、同じ映像を何度でも使えますし、『水晶球』の数があればバージョン違いも用意できます」


「‥‥いいんじゃないか‥‥」


「そして、今は街並みのミニチュアですが店の中や貴族の応接間、舞踏会の会場、ダンジョンの中などミニチュアを変えればそれぞれの場所の背景になります。精巧なミニチュアの製作は必要になりますが大型の舞台装置は少なくて済みますし、舞台転換の手間も減るのではないでしょうか?」


「そうですね。テラスや塔の上など演者が実際に立つ場所が必要な大道具は必要ですが、それ以外はほぼ必要なくなると思います」


「このサイズのミニチュアなら多少、数があっても保管場所に困りません。早速手先の器用な職人を確保しなくては」


「‥‥‥‥」


 演出家と支配人が声を上げ大道具長が黙る。


「まあ、待ってください。最初の案では背景はこのミニチュアを使った固定型を考えていたのですが、先日一つ閃いてしまいました」


 製作担当者に目配せすると手元の水晶球を調整し『水晶球』の中に光が瞬く。

 舞台の背景が王宮の渡り廊下になる。

 背景は成人女性くらいの視点の高さで映され、左右に首を振ったかのようにその先の綺麗に手入れされた庭園の背景も移動する。

 その後、移動し渡り廊下を進み両側に立つ近衛騎士の間を抜けると王宮で一番大きな舞踏会場が目の前に広がる。

 何処からともなく楽団の演奏が流れ始め、天井から下がった大きな『魔法シャンデリア』の下で着飾った貴族の男女が周りを取り囲んでいる。視点はその中央まで移動し目の前には煌びやかなタキシードを着た男性が間近に見える。彼の出した手に視点の女性も手を添えて、男性のリードでワルツの音に合わせて踊りだすと背景もそれに合わせてクルクルと変わってまるで自分が本当にそこでワルツを踊っていると錯覚する。

 周りでも男女が踊り始め、いくつものドレスの花が咲き乱れる背景が映し出される。

 一曲終わるまで皆が静かに見守った。


「おおおおーーー!」

「ブラボーーーー!」

「‥‥‥」


 支配人と演出家が立ち上がって拍手しながら声を上げ、大道具長は黙る。

 しかし大道具長の今回の沈黙は口があんぐり開いた沈黙だった。


「どうでしょうか。最初は既存の固定型の背景を考えていましたが、演者の視点連動型にすると演者の気持ちが良く分かるようになると思うのですが?」


「おおおおーーー!

「素晴らしい!まさに踊っていた本人のような気持ちでした」

「‥‥‥視点の動きや上下動は調整した方が良いな。馬車酔いと同じで観客は座席に座ったままで視点だけ動くと気持ち悪くなる者が出るだろう」


 支配人と演出家が声を上げ、大道具長は持ち直した。


「そうですね。そこは調整いたしましょう。これは私の思い描いた映像を記録用『水晶球』に記録した映像になりますので、私の創作です。詳しく知っていてしっかり思い描いたものほど詳細にリアルな映像になります。また実際の現場を見ながら記録する手もあります」


「これは舞台の構成や演者の演技も何もかもを一から変えなければいけません。今までやりたくても出来なかった演出が出来るようになります。いや、今までの演劇は一度全部捨てて考えないと‥‥‥」


 演出家さんが俯いて自分の世界に入ってしまった。


「まだ、これからですよ」


 私は次の指示を製作担当者に出すと手元の水晶球を調整し『水晶球』の中に光が瞬く。

 すると観客席の上に小さな妖精や小鳥、ペガサスなど幻影が現れ、光の帯を纏いまき散らしながらホールの広い空間を飛び回り始めた。

 しばらく、それが続いた後妖精たちは天井とかに消え去り、舞台上の背景がいつの間にかダンジョンの中に変わっている。

 そこから大きな足音を響かせてオーガーが舞台上に現れ、大きな棍棒を振り上げ襲い掛かってくる映像や、ブラックゼリーへ打ち込む『火球:ファイヤーボール』、石化するバジリスクなどを流し最後には幻燐竜のドラゴンブレスが観客席に放たれる。


 までをリアルに再現した映像を流した結果、支配人と演出家、大道具長、製作担当者まで茫然自失で呆けてしまった。


挿絵(By みてみん)


次回は明日、18:00頃に更新いたします。

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