捕縛と消火活動
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「ご苦労様です」と振り返って操作員に声を掛けたところで、その先のシマシマがいた空き家の2階が炎を上げ吹き飛んだ。
「ドォォォーーーーン!」という爆発音、『火球:ファイヤーボール』だ。
弾け飛ぶ屋根瓦や木片、窓は枠ごと弾け飛び通りにガラスの破片がパラパラと降り注ぐ。
石造りの外壁などは原形を保っているが膨れ上がって一部が飛んだ屋根材などは一瞬後には内側に崩れてゆき、炎が壁や屋根で燃え上がり黒煙を上げる。
爆発した部屋の向きは魔物役の冒険者と緑の騎士団が訓練していたのとは逆の通りだったため人影はなく外部では人的被害はなさそうだ。
と、爆発した部屋の近くの窓が勢い良く開けられ、中から一人の男が飛び出した。2階の窓から飛び出した男は空き家の敷地に配置されていた白い鎧の騎士団の近くに着地するとそのまま、再び跳躍し高さ3mほどの鉄柵を飛び越えた。爆発に気を取られていた騎士団は対応できない。
そのまま男は裏路地に走り込‥‥‥、めず裏路地の物陰からふらっと現れた衛士が刺股で襲い掛かるのを再び跳躍し裏路地の中に飛び込んだ。
しかし、着地の直前すぐ横の物陰から飛び出した刺股が男の胴体を激しく襲い、男の体が妙な角度でくの字に曲がりそのまま側面の壁に激突、頭を激しく石壁にぶつけてぐったりとなった。
二人の衛士が男に縄をかけ、『ブーツ』を脱がせ所持品を押収している様子を手を叩きながら眺めていると横の隊長さんが「やりますな」と二人を称賛している。
空き家の方から合流した白い騎士団と共に男を引っ立ててゆく二人の衛士がこちらに親指を立てるので同じように返しておく。
「お知合いですか?」
「はい。お茶友達です」
白い騎士団の方から「ピュイイーー、ピーー!」と事態収束との笛の音が上がり、櫓の鐘も訓練終了を鳴らし始める。
「では、失礼します」と耳を塞いで階段を降り始めたところで隊長さんがこちらを向いて鐘の音に負けないよう大声で言った。
「メリッサさん、今日の功労賞はうちの班になると思います。夕方、褒章の酒が振舞われると思いますので飲みに来てください」
飛竜を撃退した櫓の衛士隊や素早く鎧戸を閉め防御態勢が取れた街区などには褒賞が与えられることになっている。例えば住民の中に何も状況が解らない風の旅人などに変装した観察官が紛れ込んでおり、住民たちが速やかに対処できたかどうか査定しているのである。
王都全域で2,3か月に一回は予告なくこの襲撃対応訓練が行われている。黒の印を付けているのは魔物の代わりの冒険者達であり、緑の騎士団と刃を潰した剣などで打ち合っていたのである。
これも訓練だ。
終わった後に骨折や打撲、打ち身などなど派遣された神官がこの日は無料で治してくれるが、その列に並びながら冒険者と騎士団が一触即発の感じに見えるがこれは訓練だ。
この魔物代わりの冒険者たちは王都内にあと3,4か所出没して騎士団と同じように模擬戦をしていたことだろう。
飛竜乗り、ワイバーンライダーは数も少ないので大体2,3体しか参加しないが、偶に5体くらいの時がありその時は迎撃もなかなか大変である。
この街区で迎撃されてなければ後、いくつかの街区を回る予定だったはずだ。
まぁ、今回1体だったのは急遽決まった訓練だったので用意が間に合わなかったのだろう。
なお、バリスタの矢で建物等に危害が出たら保証されることになっている。
空き家の周りでは衛士と地元住民による消火活動が始まっている。街区ごとに配置された消防ポンプが運び出され、広場の噴水や地下の貯水庫の蓋が開けられ牛革と麻布で作られたホースが速やかに差し込まれてゆく。空き家の敷地に設置された消防ポンプには一台に付き左右2人ずつの計4人が付き、シーソーの様な長いハンドルを「えっほ!えっほ!」と左右交互の上げ下げし始めると別の二人が空き家の2階の火元にホースを向け放水が始まる。
騎士団の隊長の指示のもと3台の消防ポンプが稼働しだせば火元に向けて大量の水が注がれ、雨の時期で乾燥している事も無かったので火勢が強まることもなく火は大人しく鎮圧に向かった。
途中からは「うちの方が高く水を飛ばせてるぜ!」「なんだと!野郎どももっと力込めろ!」とかポンプごとに競い始めた。消防の班は街区の区画ごとなのでこういう機会があるとご近所の別の班とのライバル心が煽られる。
ちなみに秋の乾燥した時期にある水の祭りでは区画ごとの放水の高さを競う出し物もある。
消火の野次馬の中を抜け、空き家の正門の方に行けば魔法公安委員会のベイトマン卿と騎士団、衛士隊が縄を掛けた4人ほどの男たちを護送馬車に乗せているところだった。よく見ればスティアーズ子爵家のラリー氏もいる。
囚われた内3人は普通の平民の格好だが、1人の男はほぼ下着の姿で靴も履かせて貰えず両側から騎士に支えられぐったりとしている。
スティアーズ子爵家のラリー氏を騙して『ジャンピングブーツ』を盗んだテーラー・シーモアである。
さて、なぜ彼がここにいるのか? 魔法公安委員会や衛士による似顔絵を使った宿の聞き取りでも足取りがつかめず、ベイトマン卿からは既に王都には居ないかもしれないと知らせが来ていた。
しかし、ミシェルのお願いを聞いてシマシマの状況を『水晶球』で確認した時、「ミャウ、ミャウ」という仔猫の弱弱しい鳴く声に紛れて男たちの話声が微かに聞こえたのである。
空き家で話声? 訝しんだ私がミシェルたちを返した後、空き家の他の部屋を調査したところ使用人用の勝手口から階段にうっすら積もった埃に真新しい足跡をいくつか発見した。2階に上がってみれば男たちの声は次第に大きく聞こえ「いつまでこんなところで!」「温かい飯が食いてえよ」などの愚痴が聞こえてくる。
その声が聞こえる部屋を覗いてみれば4人の男たち、そしてそのうち一人はラリー氏から聞いて作った似顔絵通りの男であった。
そこからベイトマン卿と衛士のマシュー、スティアーズ子爵家のラリー氏にシーモア発見の手紙を認め、捕り物するなら周りの家々に迷惑が掛からないよう襲撃対応訓練をするのはどうかとベイトマン卿に進言しておいた。
『火球:ファイヤーボール』の『スクロール』か『魔法古物』かを持っていたのは想定外だったが、念のため住民を各家に退避させて置いてよかった。
ベイトマン卿たちに目礼だけして、あちらも軽く返したのを確認したら一旦近くのカフェでお茶をしよう。
オープンカフェが速やかに再開店し幾人かの客がもう座って午後のお茶をし始めている。その中でお茶を待ちつつ、自然に『モノクル』を出し周りを眺める。
『モノクル』は魔法の掛かった品や人物などが光って見える『魔法古物』である。
ベイトマン卿や騎士、冒険者たちの何人かの装備が光っているがそれは無視して、通りの護送馬車を取り囲んでいる野次馬や、カフェのお客、道行く住民たちを観察する。
身なりの良い商人や反応した数人の動きを追うが、特段怪しい動きの人物は発見できない。
ちなみに私は雨の時期というのもあるので、麻のシャツにズボン、膝までの長さのあるマントを着ているので腰の『魔法収納袋』とかは外から見えないようにはしている。
今現在は『モノクル』を嵌めているので同じような能力のある『魔法古物』や魔法を使われていたら『モノクル』は光ってしまう。使用後は速やかに仕舞うことにしよう。
と思っていると、魔法の反応は無いが野次馬の中に怪しい動きの男を見つける。
他の野次馬は護送馬車が動き出すと興味を失ったようにその場を離れていくのにその男は馬車をずっと目で追っている。それからキョロキョロと周りを見回して足早に路地に向かう。
ベイトマン卿の方を見れば騎士たちに男の入った路地の方を向き何か指示を出している。
これ以上、この場では何もないだろう。
帰って近所の猫を捕まえて、猫の姿でチーズを食べてみよう。
いつもより美味しいか検証だ。
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




