襲撃
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さぁ、残りの仕事を片付けよう。
まずはこちらのお店でお買い物だ。
甘い香りとほのかな苦味があるサクランボの種の中身のマフレップや香りが凝縮された野生のフェンネルの花粉のワイルドフェンネル、見た目は黒胡椒だが強烈なレモングラスのような香りがするマーガオなどあまり見かけない香辛料をいくつか選ぶ。
また、外見はブラッドレッドで中身は黒い種のプチプチした食感のレッドドラゴンフルーツや見た目はポップコーンのようで濃厚な優しい甘みが特徴のホワイトマルベリーのドライフルーツなども合わせて購入する。
クッキーや行動食の新レシピがいくつか頭に浮かんでいるので、今度お出かけするまでにもう一度双子ちゃんに会いに行こう。
交易の盛んな王国でもなかなか見ない香辛料やドライフルーツなので、どこから仕入れた物か聞いてみたところ南大陸からの交易船と伝手があるということだった。
2,3か月に一度は交易船がやって来るのでまた真新しいものがあったら連絡をくれるという事なので頼んでおいた。
そうこうしているうちに五の鐘が鳴った。次の用事もあるのでジョージとはここで別れて通りをぶらぶらと歩き始める。通りは久しぶりの晴れ間の間に用事を済ませようという人や荷車、馬車が行きかい賑やかにしている。
そんな時、鐘が鳴った。先ほど五の鐘が鳴ったので本来なら次の鐘は二時間ほど後の六の鐘のはずである。だが、遠く一か所で鳴った鐘の音は段々と街中の教会や櫓に伝播しすぐさま街の隅々までけたたましい鐘の音が行き渡る。
通りに面した店の窓は鎧戸が「バタンッバタン!」と閉まり、近くを通る買い物客や遊んでいた子供たちが手近な店の扉をくぐる。鐘の音の意味と周りの騒ぎが何なのか理解できずに通りで右往左往している旅人を近くの店の店主が自分の店に引っ張り込む。
衛士は衛士詰め所から飛び出してきて人々の誘導に当たる。
貴族のタウンハウスも正門を開けて、馬丁や使用人が近くにいる馬車や荷車を敷地内に引き入れ厩舎や空いた倉庫などに誘導する。
市中の見回りをしていた緑の鎧の騎士団が通りに整列する。
うちの店も今頃、ケイティが預けてある予備のカギで店内に入って、鎧戸を閉めてくれているはずだ。何かお土産を買って帰ろう。
大通りの先にある広場の中央に聳える高さ15mほどの櫓が目に入る。櫓は木製で頑丈に作られ、上部の見張り台には4人ほどの衛士が対角に設置された小型の二台のバリスタの巻き上げを行っている。
王都の建物は現在、3階建てで10mまでの高さ規制があるので一部の公共施設や教会を覗いて櫓からは王都全体を見渡せることになる。
通りからは人や馬車などの姿が消え、全ての鎧戸を閉めた家々の扉が用心深く開かれ各家から数人ずつが通りを探る様に出てくる。腕や首には黄色の腕章やスカーフが巻かれており、何人かは槍や剣などの武器を持っている。その人々は少しずつ数を増やしそのまま櫓の下まで移動すると櫓の下部の倉庫で衛士から武器や盾などを貸し出され広場に円陣を作る。
20人ほどの緑色の騎士団が警戒している通りの先の角から武器を抜刀したこちらも20人ほどの集団が姿を現した。明らかに風体の悪い集団は腕や首に黒い物を巻いており、下品な笑みを見せながら騎士団との距離を縮めてくる。
「遠慮はいらねぇ!野郎どもやっちまえ!」
右頬に大きな傷のある巨漢の男が飛ばした檄を皮切りに男たちは騎士団に襲い掛か‥‥、ろうとしたところで通りの左右の建物の2階の壁にサッと開いた狭間からクロスボウの矢が男たちに放たれる。
勢いよく放たれたクロスボウの矢であるが半数は見当違いの方角に飛んでおり、残りも盾や剣で受けられて実質当たったのは数本である。
「総員、掛かれ!」
騎士団の小隊長の掛け声で騎士団も迎撃を始め、二つの集団は乱戦に入った。
と同時に近くの櫓では先ほどのけたたましい鳴らし方ではない意味のある「カン、カカカン、カン」と鐘が鳴らされ、遠くで返信と思われる音が返る。
私はそんな光景を視界の端に捕らえつつ、薄紫色のスカーフを首に巻き近くの櫓に向かった。櫓の下で指揮を執っていた衛士隊隊長は私のスカーフを確認すると敬礼してくるので目礼で返し、「状況を確認します」と言って櫓の階段を駆け上がる。
腕章やスカーフの色には意味がある。
冒険者や一部民間人の内、戦える者、戦力として考えて良い者の判別である。
黄色は槍などで集団戦が何とか出来るレベル、大体の市民はこのレベルであるが、各街区の自警団の認定が必要なので黄色のスカーフを持っているだけで街では一目置かれる。
魔法使いは赤色、戦闘職は青色、それ以外の精霊使いやスカウト、弓使いなどは緑色、薄紫色はその場の指揮権を任されることがある特殊色である。
ちなみに神官は恰好で解るので特に色は使わない。
中には肉屋の親父さんが青色のスカーフを、その辺の公園で座っているお爺さんが緑色のスカーフをしている事などもある。
櫓の見張り台まで一気に駆け上がり「状況は?」と衛士に声を掛ける。
増員され7名ほどいた内の隊長格が返答する。
「はっ、南東50高度200に飛竜1を確認。上空で旋回中です」
太陽は背後で邪魔にはならない。そちらに右腕を伸ばし親指を立て片目で親指の爪の幅と比べる。翼を広げた時の長さが僅かに爪から出て見える。
「良い目をしていますね。観測手向きです。段々高度を落としてきましたよ。このままだとここ含めて四つの櫓の中央にくる感じですね」
2台あるバリスタは巻き上げが終わり発射準備完了である。それぞれ左右180°仰角45°を射撃範囲とするよう設置されている為、撃てるのは一台のみである。
「1番射撃準備!」
バリスタの照準は四つの櫓の中央、仰角30°辺りに合わせてある。他の三つの櫓とタイミングを合わせて一斉に射撃するなら正解の場所である。
「教会の鐘楼の右3、仰角5°に合わせて!」
四つの櫓の中にある街区には3階より高い建物は教会しかない、そちらを指差して隊長に指示を出す。
「‥‥鐘楼の右3、仰角5°照準合わせ!」
一瞬の躊躇ののち隊長が操作員たちに命令を下す。
二人が大きなレバーを使いバリスタの方向を大体鐘楼に合わせ「ガチャリ」とバリスタがロックされる。照準器を覗いている残りの一人が「右へ4、仰角マイナス25!」と叫び、別の操作員が歯車のハンドルを「カリカリ」と回し、「右4、仰角マイナス25!合わせ完了」と叫び微調整がされる。
射撃手の後ろに移動し照準器を覗き「左に1戻して」と指示を出しハンドルが回され「左1合わせ完了」と声が返る。
「固定!」と隊長の叫びに発射の反動で照準が狂わないよう「ガチガチ」と掌ほどのネジが回されバリスタが固定される。
照準を合わせているうちに飛竜の高度はだいぶ落ちてきており100mを切っているようだ。微かに背中に人影のようなものが確認できる。
飛竜はそこから一気に右に躰を傾けて街区の中央、仰角30°辺りに降下してくる。のを見越して、他の三つの櫓のバリスタが発射された。瞬間さらに体を捻った飛竜は降下予想地点の上空で横ロールで一回転して、三本のバリスタの矢はそれぞれ彼方に消えた。
微かに他の櫓から「なにっ!」「馬鹿な!」などと聞こえるが飛竜はそのまま教会の鐘楼の裏に回ろうとする。
「鐘楼の陰に頭が入った瞬間に発射です。‥‥‥‥はい!」
射撃手の肩を私の手が叩くと「ガキッ」という音と共にトリガーを引くと「バツンッ!」という極太の弦が空気を切り裂く鋭く高い破裂音、「ドォン!」という木製のアームがストッパーに叩きつけられる腹に響くような衝撃音、「ビィィィィィィン……」という発射後、弦が激しく震え続ける金属的な唸り音の残響が立て続けに耳を襲う。櫓も衝撃で揺れている。
放たれた矢は一直線に飛びさり飛竜の正面胸部に着弾し‥‥‥、掛けたところで不思議な力でグンッ上昇しベクトル殺した後、地面の落下していった。
『対空防御:プロテクションフロムミサイル』の魔法である。この魔法は魔法の掛かっていない通常の弓矢や投槍、投石などを外される魔法である。
と同時に飛竜の乗り手から「ピュイイーーー」という笛の音が鳴らされる。
魔物襲撃訓練の終了の合図である。
「ご苦労様です」と振り返って操作員に声を掛けたところで、その先のシマシマがいた空き家の2階が炎を上げ吹き飛んだ。
次回2/16、18:00頃に更新いたします。




