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シマシマ一家救出作戦

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

「いた!仔猫です!仔猫!」


 と両手を叩きミシェルが喜びの声を上げた。


「どうやら、大事は無いようですね」


「で、でも足を引きずっていて‥‥」


「そうですね。一度お医者さんに見て貰った方が良いのは確かですね。でもミシェルさん、先ほど四の鐘が鳴ったのは聞こえていましたよね。お昼に居なくてご両親は心配しているのではないですか?」


 ミシェルは両手を口の前に持ってきて「あっ!」と声を上げた。


「取りあえず、ミシェルさんはお家に帰りましょう」


「でも小さくなる魔法の品は?」


「小さくなって柵を越えても、小さいままじゃ仔猫はともかくシマシマは抱えられませんよ。それに仔猫を護ろうとする母猫は狂暴になることもありますから」


「シマシマに襲われちゃう?」


「そうですね。その可能性もあります。でもミシェルさんの気持ちも解りましたから、シマシマたちは私が確保します。ですのでミシェルさんはお家に帰ってご両親を安心させてあげてください。そしてシマシマたちを保護していいか、お願いするんです。これは難しいミッションですよ。できますか?」


「で、出来る!」


「はい、ではジョージ、お姫様を無事お城までお連れしてください。できますね?」


「分かった!」


 ミシェルは立ち上がって裏口に向かおうとする。机の上に忘れている小袋をポケットに仕舞わせ、残っているクッキーも紙に包んで二人に渡す。


「お金は払わなくていいの?」


「あとで掛かった分だけ請求しますから今は仕舞っておいてください。私は準備してから行きますから大人しく家で待っていてください」


 ミシェルは一瞬考えたが私の顔を見上げ「うん!」と大きく頷いた。


 二人を見送った後、ソファーに戻って再び『水晶球』を覗き、邸宅の中のいくつかの部屋を確認した後、何通かの手紙を認め子供たちに配送と別件を依頼する。


 店の前の札を「CLOSE」にしてケイティにはちょっと出かける旨、声を掛ける。

 そういえば‥‥。


「ケイティさん、猫好きって言っていましたよね?」


「ええ、実家ではずっと飼っていたんだけど、引っ越してからは縁が無くて。もしかして里親探し?」


「まだ、確定ではないんですが、仔猫の貰い手を探すことになったら声掛けますね」


「うん、楽しみに待ってるわ」




 さて、途中で軽くランチを済ませ乾物屋の通りに歩いて行く。それ程の時間もかからず通りに到着すると周りを確認しつつ、先ほど『水晶球』で見かけた店構えもしっかりしている乾物屋に入る。

 店内は所狭しと商品が陳列されている。棚やテーブルにはシナモンや胡椒などの香辛料、岩塩や海塩のブロック、イチジクやナツメヤシなどのドライフルーツ類、クルミやヘーゼルナッツなどのナッツ類、保存の効く何種類かのハードチーズ、足元には樽でニシンやタラ、豚肉の塩漬けなど、大袋に入ってエンドウ豆やソラマメなどの乾燥豆、天井からはベーコンやシカのもも肉などの燻製肉、セージやローズマリーなどの乾燥ハーブなどなどが吊るされている。

 店内に入ると雑然とした匂いが鼻を刺激するが不快な訳ではない。若い店員に声を掛けハードチーズの味見をさせて貰う。いくつか試食して余り塩味の効いていないチーズを選び八分の一を切り分けて貰い籐のかごに入れる。他の香辛料やドライフルーツにも目が行ってしまうが買うのは帰りにしよう。

 店の奥からは男性の声で子供を叱るような声が聞こえている。


「どうかしたんですか?」


「ああ、お嬢さんが昼に帰って来なくて。帰ってきたと思ったら猫を飼いたいって駄々をこねてて、まぁ旦那様も奥様もお嬢さんには甘いんで飼う事にはなるでしょうね」


 店員は苦笑いしながら答えてくれる。


「まぁ、ネズミが好物の物が沢山あるんで猫には居て貰った方が良いってのもありますし、私も猫好きなんですよ」




 店を出るとジョージが建物の角で待機しているので、そちらに向かい合流する。籐のかごとチーズを渡し着いて来るように言い、向かいの空き家の裏通りに進む。

 通りを一本渡ると下位の貴族の小さめのタウンハウスが何件か纏まっている一角である。表通りに正門を配置している都合上、裏通りには通用門が配置され使用人や出入業者が通る道になっている。

 時間帯はお昼御飯が済んで午後の仕事に取り掛かろうかという頃合いである。

 肉や魚、野菜などの生鮮品は早朝から午前中の早い時間に出入業者により納品され、乾物や布地屋、高級なワインを扱う専門業者などはその後の少し落ち着いた時間帯に出入し、その後の主人たちの昼食時間には邸内が騒がしくならないよう出入りが避けられる。

 よって今は裏通りには人気はない。


 さて、『水晶球』を出して再び部屋の中を探るとシマシマはまだ仔猫と一緒に寝ている。いや、具合が悪くて動けないのかもしれない。左手に『水晶球』、右手に『ネコ集め鈴』を出して「チリリン」と鳴らす。

 この『ネコ集め鈴』は鈴の音の聞こえる範囲の猫を集める効果がある『魔法古物』である。鳴らし続けると周り中の猫が集まって来るので使い方は要注意である。

『水晶球』を覗くとシマシマが耳をピクピクっと動かしているが腰を上げる様子はない。仔猫はまだ耳が聞こえないのだろう何の反応もしない。

 近くの路地から三毛猫が一匹姿を現し無警戒に近寄ってくる。

「チリリン」再度鳴らすとシマシマが前足を起こして立ち上がろうとするが腰が立たないようで元の姿勢に戻った。

 向かいの建物の屋根の上から黒猫と茶トラが飛び降りてくる。

 ジョージにすこし離れた所で三毛猫にチーズを千切ってあげるように指示する。あげるのは外側ではなく、内側の柔らかくて塩気がマイルドな部分だ。

「チリリン、チリリン」鳴らし続けるとシマシマは何とか立ち上がって仔猫を跨いで後ろ足を引きずり歩き出す。

 ジョージの足元を見ると三毛猫と黒猫、茶トラがチーズを食べており、更に路地から茶色のハチワレとサバトラ、グレーなど5,6匹が近づいてきている。ジョージは足元で立ち上げり催促する猫たちの相手で大変そうだ。

 しかしシマシマがここに来るまで『ネコ集め鈴』は鳴らし続けないといけない、鳴らすのを止めてしまえば多分シマシマは仔猫たちの所に戻ってしまうだろう。

 頑張れジョージこの仕事が終わった後、君が猫嫌いになっていないことを願う。


 五分後、何とかシマシマを確保した。

『ネコ集め鈴』を止めてもジョージの周りには20匹くらいの猫が居て、ジョージは何とかチーズ本体を取られないように両手を頭の上にあげてチーズの破片を千切っては投げている。

 ジョージから投げ渡されたチーズをシマシマに食べさせ、素早く様子を見ると右足を骨折しているようだ。


 一般に動物のお医者さんはいない。

 人間の医者は学院で医術を修めたエリートで、主に貴族や大商人などの富裕層を診るので動物を見ることは無い。神殿で治療も出来るが高額のお布施が必要であるため、軽い怪我や病気の治療などは医者の領分である。ちなみに一般人は大体、民間療法や薬草で対処するが、お産の時には教会の神官などが万が一のときの対処をしてくれる。この場合のお布施はその家庭での出来る限りの心づけで許されている。

 また、牧場等では牧場主などが牛、羊、豚などの家畜の簡単な怪我の治療や去勢、出産などは行い、蹄鉄工や馬の専門家などは蹄の手入れだけでなく、馬の病気や怪我の治療、投薬も行うが、ペットとして買われている動物も少ないので専用の動物の病院などは存在しない。


 では動物が怪我をしたときはどうするか‥‥、基本的には放置である。自然に治ればそれでよかったね。治らなければ残念だったね。で終わりである。


 チーズに夢中のシマシマに『支配者の首輪』を取り付ける。最初は大型犬の首輪ほどの大きさだがシマシマの首に通すと「スルルッ」と縮んでぴったりのサイズになる。『支配者の首輪』は取り付けた動物の五感を共有し操ることができる魔法の品である。なお、過大な痛覚や匂いなどはシャットアウトする機能が付いている。


 ジョージはまだ猫たちに纏わりつかれているのでその手からチーズの残骸を受け取り『魔法収納袋』に収める。猫たちは名残惜しそうに私たちからちょっと離れて様子を見ている。もう、『ネコ集め鈴』は鳴らしていないが去っていく様子はない。

『魔法収納袋』から出した『ヒーリングポーション』をジョージに預ける。


「いいですか。今から私はシマシマに乗り移ります。まず、その『ポーション』を10分の1ほど飲ませてください。その後、空き家に入って仔猫を連れてきます。その間、私の体は無防備になりますから何かあったらお願いしますよ?」


「はい?!分かりました」


 ちょっと返事は頼りないが、やれば出来る子である。ここは信頼しよう。

 私は裏通りと近くの建物の窓などに人気が無いことを確認し蹲り、足元でチーズを食べているシマシマの首の『支配者の首輪』に魔力を流した。

 最近、何度か猫に乗り移っているので感覚的には慣れたものだが、右足に違和感を感じる。『支配者の首輪』の効果で痛みは感じないが上手く動かすことが出来ない。蹲った私の本体を心配そうに覗いているジョージの足元に行き、「ニャアン」と鳴いて見せれば慌てたように『ヒーリングポーション』を飲ませてくれた。

 ジョージの手に付いたチーズの匂いがとても美味しそうに感じた。後で猫のままチーズを食べてみよう。いつもより美味しいかもしれない。

 何度か屈伸? して足を延ばしたりしてみたが完治しているようだ。

 もう一度ジョージに鳴いてシマシマの体で鉄柵を越えて空き家に向かう。

 四足歩行も慣れれば二足歩行よりも安定しているし、接地個所が増えて体重負荷も分散されているので歩くのも静かだ。


 さて、空き家を見上げ角の応急処置の隙間から建物に入る。

 室内は隙間からの明かりしかないがそれで十分だ。猫の視力は問題なく室内を見渡せて仔猫たちの匂いもあるので寝床はすぐに見つかる。

 四匹ほどの仔猫が中央がすり鉢状に窪んだシーツの底で身を寄せ合って丸くなっている。

 仔猫を舐めたい衝動に駆られるが、我慢して一匹の首の後ろを咥えて持ち上げる。足を丸めて脱力し、じっと静かになった仔猫を咥えたまま隙間から外へ移動する。

 柵の外ではジョージが私の本体とこちらを交互に見ており、私?シマシマに気が付くと喜びの顔をした。

 チーズが入っていた籐のかごに仔猫を入れ、その後輸送を三往復した。


 その後無事本体に戻り、乾物屋で両親を泣き落としたミシェルに仔猫を預ける。

 かごを受け取ったミシェルは目元が盛大に腫れた笑顔を浮かべるとともに、足元で足を引きずることもなくかごに向かって鳴いているシマシマに話しかけた。


「おケガは大丈夫なの?」


「大したことは無かったみたいですよ」


「良かった!」


 店番をしていた若者が相好を崩してかごを覗き込んで来る。


「仔猫の世話は任せてください。何度も世話したことありますから。まずは母猫が安心する暗くて静かな寝床の用意からですね」


 慣れているようなので安心して任せることにした。

 話中、足元ではシマシマがかごの方を見て心配そうな鳴き声を上げているので速やかに寝床の作成をお願いしたい。


「お姉さん、お金は幾らですか?」


 本当は『ヒーリングポーション』が金貨5枚分を10分の1使ってしまっていて、もう人間用としては使用できないので価値がなくなってしまっている。


「猫さんたちにあげたチーズの代金銅貨3枚と、出張料金が銅貨1枚で全部で銅貨4枚になります」


 ミシェルは小袋から出した銅貨4枚を私に渡して満面の笑みを浮かべ頭を下げた。


「ありがとうございました」


 ご両親も店番の若者もジョージも温かい目でミシェルを眺めている。


 さぁ、残りの仕事を片付けよう。


挿絵(By みてみん)




次回は明日、18:00頃に更新いたします。

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― 新着の感想 ―
商売としては完全に損なんだけど、子どもとかのお願いに応えたいときは採算度外視でも応えられるのが、働く大人の楽しいところだなあと思います。優しいお話だ。
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