少女のお願い
ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。
ある漫画家さんの猫漫画を見てたら猫の話を書きたくなりました。
今日は雨の多い季節の中休みで昨晩まで降っていた雨が通りに水溜まりを残しているが、空を見上げれば太陽の光が燦燦と降り注いでいる。
数日前には時間を忘れて魔法塔で夜更けまでレスター師と話し込んでしまったが、ここ数日は店を開いて静かな日々を送っている。
雨の季節はランニングの代わりに室内でのトレーニングを多めの朝のルーティーンを熟し、瞑想と買い置きで朝食を済まし身支度を済ませる。
午前中は「霊魂師グリーンブッシュの著書」を読み進める。そろそろお昼の四の鐘が鳴るかと思っているときに裏口でノックの音が聞こえる。ご近所のお裾分けや子供たちが手紙を持ってきてくれたりかと思いアパートメントの中庭に続く裏口を開けると、いつもの男の子たちと身なりが良い女の子がいた。
「メリッサさん、おはようございます。ミシェルの話を聞いて貰えませんか」
私の小さな便利屋さんたちの中ではリーダー格のジョージが帽子を取って挨拶し後ろの少女に道を開ける。
「どうぞ、中に入って。何か飲みながら話を聞きましょう」
扉を大きく開けて中に招き入れようとするも、俯いていたミシェルがガバッと顔を上げて叫んだ。
「体を小さくする魔法の品をください!」
同時に両手に持った小袋を差し出した。
「‥‥詳しくお話を聞きましょう。まずは入って」
いつもの子供たちからはジョージだけがミシェルと共に入って来た。店のソファーセットに案内するとミシェルは普通に座ったが、ジョージは自分の格好を見て遠慮している。
確かにこの辺の店としては上等な黒いシックな黒緑馬の臀部の皮のソファーを置いてあるので気後れするのも解る。ジョージはお世辞にもきれいな格好はしていない。まぁ、この辺の子供としては普通の格好だが。
『保存庫』からオレンジの果実水とクッキーを5人分用意する。裏窓から「今日は特別よ」と外にいる二人の子供にグラスと蜂蜜とシナモンのクッキーの皿を渡し、3人分をソファーセットへ運ぶ。
「そのソファーには防護の魔法が掛かっていて、傷や汚れは付かないわ。それにレディーの前で立ったまま飲み食いするつもり?」
テーブルにグラスや皿を置き、まだ立ったままのジョージにミシェルの方を見ながら言えば安心したように「はいっ」と言いながらミシェルの隣に座った。
ジョージはこの辺りの子供の中では歳が一番上で12歳だったと思う。そろそろ見習いで仕事を始める年頃である。短く刈り込んだくすんだ金髪に灰色の瞳、顔つきは年の割に精悍であり、こちらの頼んだことを他の子供たちに的確に伝え従えている。ズボンの膝やシャツの肘には当てがしてあるが丁寧に縫われており、母親の愛情が感じられる。手首に革紐で腕輪をしているがそこに「ホブゴブリンの牙」が結わえてあるのは見なかったことにしよう。
ミシェルは机の上に小袋を置き、両手でグラスを持つと勧めた果実水をくぴくぴと飲んでいる。歳は10歳ほどか、赤茶色の手入れのされた髪をお下げに結わえピンクの可愛らしいリボンをしている。深い緑色の瞳でグラスの果実水をじっと見て零さないように飲んでいる顔が可愛らしい。水撥ねが少しあるがサイズの合っている綺麗な革靴や、ふんわり広がったピンク色のおしゃれなワンピース、身なりから言って中堅以上の商店の子供かと思われる。
「では、お客様。お話を聞きましょう」
ミシェルはたどたどしく事情を説明し始めた。
話は時系列が行ったり来たりして何度か、聞き直したりしたが纏めると、今朝久しぶりに雨が上がっていたので数日前から気になっていた向かいの空き家に住み着いている猫の様子を見に行った。ブラウンタビーの雌猫でミシェルはシマシマと呼んでいる。それまでもご飯を貰いにミシェルの家にも来ており、三日前に見た時にはお腹が随分大きかった。そろそろ出産だが雨が続いているが大丈夫かと気にしていた。
ミシェルの自宅は貴族街に近い通りで乾物商の商店をしており、向かいに小さいが元貴族の邸宅が三年前の騒ぎで損壊し修復されぬまま売りに出されていた。
どうやらシマシマは応急処置した隙間から邸内に出入りしているらしい。
探し回りやっと見つけたシマシマはお腹がペタンコになっており出産は終えた様子である。ご近所でご飯を貰ったのだろう、通りを渡って空き家に戻ろうとしていた。
と安心したミシェルの目前で馬車の前に飛び出すシマシマ、「戻って!戻って!」と叫ぶミシェルの声も届かず。前に走るでもなく後ろの戻るでもなく止まって動かなくなるシマシマを馬の蹄が襲った。
悲鳴を上げて両手で顔を覆ったミシェルが恐る恐る手をどけてみると、道端に横たわったシマシマがいる。
急いで走り寄ろうとしたが道は馬車が行きかう。ミシェルは馬車の通る道には出ないよう幼いころから教え込まれているので馬車が居なくなるまで通りを渡ることができない。
そうこうしている内にシマシマは弱弱しく起き上がり、右足を引きずって塀の鉄柵の間を抜けて空き家に入っていった。
ミシェルは鉄柵の手前から声を掛けたがシマシマが出てくる様子は無い。きっと中に生まれたばかりの仔猫が何匹かおり、そこに戻ったのだろう。
ミシェルは自分の店に戻り両親に事情を説明し空き家の中に入って怪我をしたシマシマと仔猫を保護したいと言ったが、元貴族の邸宅で今の持ち主も別の貴族の為、中には入れないから猫が出てくるまで待つしかないと言われてしまった。
途方に暮れたミシェルは空き家の子供には異常に高く見える鉄柵の前で「人間も小さくなれれば猫の様に柵の間を抜けられるのに」と考えていた。
その時、顔見知りの近所の少年に「魔法屋ならそんな魔法の品を売っているんじゃないか? 俺の知り合いに魔法屋に知り合いがいる奴がいるぜ」という事でお小遣いを全部持ってこちらに来たらしい。
さて、王都の土地は王の所有物なので建物の所有者はその土地の利用権を王国から買い、さらに利用料を毎年王国に支払う。そして借りた土地の上に自分で建物を建てることになる。
売買する時は建物と土地の利用権をセットで行われ、頻繁な売買が行われることもないので専門の業者がいる訳でもない。貴族の邸宅であれば貴族間のネットワークで探している者と売りたい者のマッチングが行われ、平民の間であれば所属しているギルドとかが仲介して行われることが多い。
今回の貴族の邸宅であれば門扉が閉じたところに連絡先が掛かれた「SALE」という看板が掛かっている訳でもない。その物件を見かけて買おうとしたら近所の人間に持ち主を聞いて、知り合いであれば紹介状を貰う、知り合いでなければ自分やその派閥の伝手で連絡を取る。例えば書面でその旨を使え、訪問の日程を決め、条件を話し合い折り合いが付いたら公証人同席のもと、売買の契約書類が整えられ契約の締結と支払いと鍵の受け渡しなどが行われる。
中堅の商人とはいえただの平民のミシェルの両親では問い合わせることも不可能だった。
話しているうちに足を引いて歩いてゆくシマシマを思い出したのだろうミシェルの目元に涙が溜まり始めている。
「なので小さくなる魔法の品を売ってください」
涙を大量に湛えながらも泣き出すことなくミシェルが小袋を差し出す。
「お話は分かりました。では、まずシマシマの状況を確認しましょう」
手招きして二人を私の左右に移動させて『魔法収納袋』から『水晶球』を出して魔力を込めると、王都を上空から眺める景色が映し出される。
燦燦と輝く陽光を真上から受け至る所にある水溜りが光を反射してキラキラと輝いている。
「おおおう!」
「きゃ!」
と二人が驚きの声を上げる。
「乾物商の通りですね」
『水晶球』の景色が商業地区と下位の貴族のタウンハウスが混在する地区に下がり、馬車が行きかう通りになる。二人は「おおーー!」「うわーー!」と驚きの声を上げたままだ。
一つのなかなか立派な商店の前では夫婦と思われる男女が何やら慌ただしくしている。「あ、うちのお店だ。パパ、ママ!」と、ミシェルが驚き以外の声を上げる。その景色から真後ろに振り向けば小さいが重厚なタウンハウスがあるが、残念なことに建物の一部が損壊しており応急処置した様子が痛々しい。
そのまま視界は馬車の行きかう通りを越えて鉄柵も難なく越えてゆく。馬車に当たりそうになったところで「ワッ!」とミシェルは声を上げて身を引く。
建物に近づくと「あ、その角の所から出入りしているみたいです」とミシェルが言うのでそちらに視点を移すと確かに応急処置した壁の材木の間に猫なら通れそうなわずかな隙間がある。
その隙間から入って行くと鎧戸が閉まった室内は暗く、応急処置の隙間から漏れ入ってくる明かりだけが頼りだ。室内は破損した壁とは離れた壁際に家具などが集められ白いシーツが掛けられている。その家具の山に当たりを付けて床に近い高さで視点を近づけていくと椅子の足の間にできた空間に僅かに動く物体がある。明かりがほとんど届かないので解りづらい。
ここで『水晶球』に再び魔力を通し能力の一つ『透聴:クレアオーディエンス』を開放する。
すると「ミャウ、ミャウ」という仔猫の弱弱しい鳴く声が聞こえてくる。
「いた!仔猫です!仔猫!」
と両手を叩きミシェルが喜びの声を上げた。
次回は2/12、18:00頃に更新いたします。




