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アイアンゴーレム解体2

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

 さて、私は今作業場の隅の椅子に座って軽食とお茶をしている。出先でランチに困ることもあるのでお気に入りの軽食やお茶のセットは『魔法収納袋』にある程度ストックしてある。今日のランチはバターロールの中央に切れ目を入れソースを塗り野菜やハムなどを挟んだサンディと呼ばれるものだ。昔はもっと長ったらしい呼び名だったらしいが今は可愛らしい愛称で呼ばれている。ちょっとお口を開けて食べるのでお上品な方々の前では余り見せられないが出先でも手軽に食べられるので重宝している。

 レスター師にも声はもちろん掛けたのだが、ここ小一時間床に這いつくばって「ブツブツ」呟きながら広げた書籍を読んでいて答えてくれない。

 魔法塔の魔法使いの中では普通の行動である。

「ラテ」「モカ」「チャイ」はそれぞれ三か所の隅の止まり木に戻って静かにしている。


 机の上に置いてあるアイアンゴーレムの『核』を眺めながら食後のお茶をゆっくりと飲む。ひびが入り割れてしまっている為、本来の機能は失われているがこの『核』がゴーレムの本当の心臓部であり頭脳である。一概にゴーレムと言ってもこのような『核』を使用した『魔法核』タイプが一般的だが大きな意味では他にも幾つか種類がある。



 ・『魔法核』タイプ

『核』が魔力を貯める装置であるとともに行動原理・命令が刻み込まれており、体である素体の内部に魔力を通す回路が人間の血管の様に全体に張り巡らされている。その回路を魔力が伝わることで素材自体を「筋肉」のように収縮・膨張させ体を動かすタイプである。『核』の性能を上げることで複雑な命令も与えることが出来るがそれだけ手間暇、資金が必要になる。



 ・『パペット』タイプ

 ゴーレム自体が動いているのではなく、『テレキネシス』等の魔法でゴーレムを外側から動かすというものである。精巧に作られた人形で使用者が訓練されていれば様々な動きが可能で、下手をすれば人型の人形で人の可動域を超えた動きをさせることも出来、人型以外にも様々な形態の物を作りだすことが出来る。

 ただ、操っていない時はただの人形なのでダンジョン等で見かける機会は少なく、厳密には自立型ではないのでゴーレムと分類しないこともある。



 ・『精霊依代』タイプ

 石や鉄、木という「器」の中に精霊使いが契約した精霊を宿すタイプである。例えば『石の精霊』を召喚し形を指定すればその辺にある石で人型なり竜型なりを形作る。『精霊』本体の力でパーツにした石の体を動かしているので『核』や素体を用意する必要が無い。

 この手のゴーレムの厄介なところは物理的に石の体を破壊しても、その辺に代わりの石があればすぐ体を作り直してしまうので魔法で『石の精霊』本体を倒さなくてはならないところだ。また呼び出された『精霊』の知性によるがある程度複雑な命令を実行することが出来る。

 また、砂や水などの固体でない物に宿すタイプも大きな範疇ではゴーレムと分類することもある。



 ・『霊魂憑依』タイプ

 こちらは『精霊依代』と似ているが主に死霊術師などが取る方法である。一般的には生前の姿と似た人形なり、死体なり、精神の死んだばかりの生体なりを用意してそれに契約で縛った『霊魂』を憑依させる。憑依したものは生前の知識と意識、技術を持っているが、契約で縛られているので死霊術師の命令には基本的に逆らえない。

 ここまでくるとゴーレムなのかアンデッドなのか分類があやふやになってくる。



 ・『使い魔』タイプ

 異世界から召喚した存在を契約に寄り使い魔とするときに、依代を用意しておくことがある。生き物の猫やネズミ、ガーゴイルの像だったりする。

 さらにゴーレムの定義が怪しくなってくる。



 狭義には無機物で有形の体を持ち主人の命令に従う人型の魔法生物となるのだろうか‥‥古い文献には有機物で人工人格を生じさせるホムンクルスとかもあるが‥‥。

 まぁ、今回私が模索しているのは『霊魂憑依魔法核』タイプとなるのだが、これからまだ研究が必要だ。



 取り留めもなくなってきた思考をレスター師に戻すと、まだ書籍に首ったけだ。

 仕方なく「ラテ」が用意していた道具のトレイの上から透明な『水晶球』を手に取ってレスター師に近づく。


「レスター師、そろそろ折角準備していただいたこちらの出番ではないでしょうか?」


『水晶球』をレスター師と「鉄核の理・極性魔力に関する考察」の間に差し込む。

 ビクッと体を仰け反らせたレスター師の視線が『水晶球』に合う。それから徐に頭を上げて私の顔を眺め、不思議そうな顔をする。


「‥‥アイアンゴーレムの解体を始めませんか?」


 レスター師は「鉄核の理・極性魔力に関する考察」に視線を戻すとぱたんと閉じ立ち上がって何気ない顔で膝を掃った。


「あー、メリッサ嬢、貴方に貸している二冊はもう、読み終わったかね?」


「「グリアハーゲンの遺跡」の方は読み終わりました。もう一冊はまだです。よろしければ二冊ともまだ貸していただけると助かるのですが」


「ああ、もちろんだ」


「もし、よろしければ「鉄核の理・極性魔力に関する考察」は二冊のお礼にこちらがお返しするまでレスター師にお貸しいたしましょうか?」


「ふむ、貴方がそういうなら借りないこともない。あの二冊の返却はゆっくりでいいぞ」


「はい。ではこちらを」


『水晶球』をレスター師の前に掲げると、バサッバサッと近づいて来た「ラテ」に「鉄核の理・極性魔力に関する考察」を預け「慎重に保管しろ」と声を掛け『水晶球』を受け取る。

 アイアンゴーレムの頭に二人して近寄り、核を取り除いた窪みを覗き込むと「モカ」がそこを横から照らしてくれる。


「メリッサ嬢はこの『水晶球』の機能はどこまで解っている?」


「はい。この『水晶球』は『偽核』もしくは『基本核』ではないかと思います。『核』を使ったゴーレムはアヴェンタイン帝国よりも以前の記録のほとんど残っていない古代王国期に発祥があると言われています。細かい魔法回路の仕様などは時代によって変更されてきましたが、指令系の基本回路はこの時期の物がベースにしてそれ以降のゴーレムが製造されています」


「うむ、その通りだ。だから時代や場所が変わっても基本的なところはある程度、共通回路が使用できる。『偽核』は偽情報を流し本物の『真核』の代わりになりゴーレムを起動、指令を与えることが出来る物だが、これは『基本核』でメンテナンスの動作確認用の『核』になるので複雑な命令は出来ない」


「態々、このために用意してくださってありがとうございます」


「自分の研究のためだ。貴方が気にする必要はない。さて、これを嵌めて起動できればいいが、接合部が半分程度失われているから過大な期待はしないことだ」


 頷く私の前でレスター師は『水晶球』を掌に載せ魔力を込め始める。


「貴方も魔力を込めなさい。そうすればあなたも仮マスター登録される」


「はい」


 二人して魔力を込めていくと透明だった『水晶球』に白く輝く魔法回路の線が幾筋も伸び始め全体を覆う。


「十分だ。嵌めてみよう」


 レスター師が『水晶球』を接合部に嵌めるとそこから白い光がアイアンゴーレムの全身に伸びてゆき収まる。

 それから両手を広げ、足も踏ん張る様に広げていた格好がゆっくりと床の上で横になってだが、直立不動の「気を付け」の格好になってゆく。


「無事認識したようだ。右手を上げろ」


 シンッ


「立ち上がれ」


 シンッ


「ふむ、センサー系か動作系かが不良の様だ。指令回路の半分は死んでいるのだから仕方あるまい。時間をかけて確認作業をしてゆこう」


「私もよろしいですか」


 頷くレスター師の横で呟く。


「フル・パージ」


 途端、アイアンゴーレムの体を構成していた硬質の「鉄」がドロッとした流体に変化し床に垂れてゆく。


「おわっ」


 とレスター師が飛びのくのに合わせて私も数歩下がるが、垂れた鉄はまるでゴーレムのベッドの様に2m×4mで高さ20㎝ほどの大きさで広がるのを止める。

 解けた「鉄」の中からは図鑑等で見たことのある人間の全身の神経系と血管系を合わせた標本のようなものが浮いており、人間であれば頭の位置に『水晶球』が心臓の位置に30㎝立法の『黒い箱』がある。


「こ、これは指令系と運動系の魔力回路ではないか!それにこの『黒い箱』は!」


「レスター師、脇に磁力の魔法陣が刻まれています」


「なにーーー!」




 この日も帰りは遅くなった。

 三体のガーゴイルだけがその光景をじっと見つめていた。



挿絵(By みてみん)



次回は明日、18:00頃に更新いたします。

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