アイアンゴーレム解体1
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さて、カーツマン師と別れた後は「アイアンゴーレム」の解体で同じ一階にあるレスター師の作業場へ向かう。
レスター師の作業場であることを示したプレートが掛かった扉をノックすると、扉の向こうでバサッバサッと羽音がした後、扉が開かれた。扉を開けてくれたガーゴイルは脇にずれて室内に招き入れレスター師の声を発した。
「ちょっと待っていてくれ。すぐ行く」
ガーゴイルは私が作業場に入ると扉を閉め、作業場の角に飛び止まり木に留まった。
作業場の中央にはアイアンゴーレム、鉄で出来たと見られるその武骨なデザインの体は体長が4mほど、胸部と頭部に鉄球がぶつかって破壊された跡と、頭部の隙間から破壊された赤い『核』が覗いており、両手を広げた立ち往生の姿勢で鎮座している。
改めてアイアンゴーレムの周りを回りながら観察していると、二体のガーゴイルを連れて本当にすぐレスター師はやってきた。50歳くらいの灰色のローブに長い黒髪を後ろで結んで口回りには髭を蓄えた男性だ。二体のガーゴイルは最初にいたガーゴイルが留まった止まり木とは別の角にある止まり木にそれぞれ留まった。もしかしてそれぞれ留まる止まり木が決まっていて専用なのだろうか?
「こんにちは、レスター師。この度はアイアンゴーレムの解体に同席させて頂けるという事でお礼申し上げます」
「‥‥挨拶とか良いから、こっちも人間の助手がいた方が便利かと思っただけだから、始めるよ」
「はい」
今回、『石化解除』の為、魔法塔に来ることが決まった段階でレスター師にもアイアンゴーレムの解体はいつになるかお伺いを立てた。するとじゃあその日でという返事が来た。
いつもお忙しいようなので逆に実はいつでも構わなかったのではないか? という疑問が生じたが一度に済むならそれに越したことは無い。
「じゃあ、まず『核』の摘出から」
というと小さい声で呪文を唱え、これまた小さい魔法陣がアイアンゴーレムの上に出現する。呪文を唱え終えると小さな杖でアイアンゴーレムを指し示しその杖を振る。するとアイアンゴーレムはふわっと浮いて仁王立ちから仰向けの体勢になって床に置かれた。これで我々の腰位の高さにアイアンゴーレムの頭が来ることになる。
「おい」
とレスター師が声を掛けると最初にいたガーゴイルが解体道具の乗ったカートを飛びながら器用に押してくる。
他の二体よりちょっと小太りな体形をしているこのガーゴイルは「ラテ」と名付けよう。
後から来た方の標準体型? ガーゴイルの標準は良く分からないが三体の中では中間的な体形のガーゴイルは「モカ」とする。
最後の一体は痩せ気味で「チャイ」とする。
「ライト、照射」
とレスター師が声出せば天井の『魔法灯』がアイアンゴーレムの頭部に明かりを集める。
光が集まった頭部は鉄の外殻が大きく破壊され、内部構造である赤い『核』が露出している。直径10㎝程の『核』自体は半分ほど姿を現しており、丸い原型は何とか保っているが幾筋ものひびが入り、一部欠片が欠けている。取り出したら崩れてしまわないか心配だ。
「おい」
レスター師とは逆の方で一緒に『核』を覗き込んでいるとまた、レスター師が声を上げる。
「モカ」と「チャイ」がカートから白い皮手袋を持ち上げ、「モカ」がレスター師、「チャイ」が私の横まで飛んでくる。レスター師が両手を前に出し掌を自分に向けた格好で止まるとその手に「モカ」が器用に手袋を嵌めてゆく。
「チャイ」が私の顔を見ているので(ガーゴイルの瞳孔は動かないのでどこを見ているか本当は解らないが)私も手袋を嵌めて貰う。
レスター師が黙って右手を差し出せば「ラテ」がトングの様な器具を手渡す。横を見ればバールのような物を用意した「チャイ」がこちらを見ているので私も受け取る。
レスター師が慎重に『核』をトングで挟み持ち上げようとする手元をアイアンゴーレムの胸の上に留まった「モカ」が手持ちの『魔法灯』で照らす。
微かに出来た隙間にバールのような物を差し込み僅かに力を入れると、「パキッ」と音がして『核』の手前が崩れ、レスター師のトングが『核』を持ち上げた。
すかさず柔らかい布が敷かれたトレイを「ラテ」が差し出しその上に『核』が載せられる。
「ふーーー」と肩の力を抜いたレスター師の額の汗を「チャイ」がハンカチで拭いている。
取り出した『核』は幾筋ものひびが入り、一部欠片が欠けているが丸い原型は何とか保っている。乾きかけの血のようなブレッドレッドの『核』は天井からの明かりを受けて怪しく光を反射している。
「こちらの『核』は別途、時間をかけて詳細に分析しないとな。さてゴーレムの仕組みに関心があると言っていた君の意見を聞こう。『核』以外では次にどこを調べたい?」
「‥‥そうですね。『核』の嵌っていた台座部分、接合部を調べたいです」
レスター師は顎を上げ顔を微妙に反らせてから目を眇めた。
「ふんっ、良いだろう」
改めて二人で「モカ」が『魔法灯』で明かりを調整してくれた『核』を取り除いた部分を覗く。
10㎝程の半球程の窪みには六角形と五角形で仕切られた区画がいくつもあり、その中に魔法文字と図形がびっしりと刻み込まれている。いくつかの特徴的な図形の場所を指し示しレスター師が「ブツブツ」と呟いている。
その一つに見覚えがあり、よく観察してみる。
「こちらの六角形の部分ですが、思念伝達の魔法の魔法陣と似ていると思うのですが?」
「んん!」
始めてレスター師の驚いたような声を聴いた。
「君!ゴーレムの研究はしたことはあるのか?」
「いえ、専門で学んだことはありません。いくつか専門書は読んだことはありますが」
ガバッと上体を起こしたレスター師が私を冷めた目で見降ろした。
「専門家でもないのに何を分かった風なことを言っているのか! 良いね!とても良い!先入観の無いそういう素人の発想が新しい発見を生み出すのだ。そう君が目を付けたようにこのセクターは『核』からの命令伝達のための魔法回路に違いない。今まで分解したほかのゴーレムにも似たようなセクターを見たことがある。他にも見たことがあるものがある。こちらの五角形のセクターも基本的な魔法回路だ。何か解るかね?」
レスター師は再び窪みに顔を近づけにっこりと笑いながら(ちょっと怖い)窪みの一か所の五角形を指し示した。
「‥‥周囲のマナの吸収と変換でしょうか?」
「良いね。実に良い! 君、名前は何と言ったかな? 冒険者など止めて俺の助手になれ」
「メリッサと申します。いえ、冒険者を止める予定はありません。ところでこの一つ横のセクターは少し変わっています。磁力の魔法陣の特徴があります」
「どれ、なるほどこれが磁力のコントロール用の魔法回路の可能性が高いな。しかし磁力の魔法陣などレアなものをどこで知ったのか?」
「昔の研究書で目にしたことがあります。確か500年ほど前の「鉄核の理・極性魔力に関する考察」という研究書だったと思います」
「なんだと、伝説の研究書ではないか。王立図書館にも蔵書されていないはずだが、どこで見た?」
レスター師は露骨に訝しげな顔をした。
「‥‥あぁ、街の古書店で見つけて」
「街の古書店? そんな馬鹿な! 君、いや貴方が持っているのか?」
「は、はい。こちら今日参考に見るかもと思いまして」
『魔法収納袋』から古そうな書籍を取り出す。
「おおおおおおおーーーーー!!」
ご老体とは思えぬ素早いしかし丁寧な動きで私の手元から「鉄核の理・極性魔力に関する考察」を奪ったレスター師は表紙の書題を目で追い、ゆっくりと表紙板を捲り内容を目で追い始めた。
こんな貴重な書籍が街の古書店で見つかるはずはないが、そんな些細な疑問は既にレスター師の心に一片も残っていない様子だ。良かった。
次回は2/9、18:00頃に更新いたします。




