神官石化解除
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今日は魔法塔に来ています。
最近はやっと落ち着いてお店を開いていたのですが今日は朝から冒険者ギルドの馬車のお迎えがあり霧雨の中、神殿経由で魔法塔に来ました。
馬車には買取責任者のデヴィッドと事務員のエリカが乗っており、神殿ではご遺体を預けた時に対応し下さった高位神官さんとデヴィッドさんたちがお話をした。
安置した10体のご遺体のうち6体は何とか遺族が見つかり引き取りがされたそうだが、残りはあと一月様子を見て申し出が無い場合、神殿の無縁墓地に埋葬になるそうである。
「発見者所有権帰属の原則」からご遺体の所持していた物は原則発見した我々パーティの所有物となるのだが『魔法古物』以外の遺品はパーティの総意として遺族に引き渡して貰っている。
『魔法古物』は我々が有効利用させて貰うことになる。既に分配済みである。
さて、魔法塔の作業場には神殿からは高位神官さんと他に神官二名、冒険者ギルドからデヴィッドとエリカ、魔法塔からカーツマン師と弟子のブランドン、冒険者パーティ代表の私が集まっている。
目の前には私たちが回収してきた石化したベンジャミンさんを『魔法収納袋』から出したところである。石化した魔法使いは一旦別のところに移してある。
各自の紹介が済んだところでデヴィッドが話し始める。
「では、僭越ですが私が進行をさせていただきます。まず今回、神殿から神官ベンジャミン氏の『石化解除』の依頼がありました。ベンジャミン氏におきましてはこちらのメリッサ嬢が全権委任されている冒険者パーティが発見、回収してきましたので石化遺体も通常の遺体と同等に「発見者所有権帰属の原則」が適用されます。ですので『石化解除』された場合もその身体以外の全ての所持品の帰属は彼女らのパーティにあります。ただし今回は『石化解除』の費用、金貨200枚を教会側が負担するという事で所持品の帰属は神殿と彼女らで半分ずつというお話になっております。間違いございませんか?」
「間違いない」
「間違いございません」
高位神官と私の同意を確認しエリカが近くの机に契約書類を用意する。
「また、付属情報ですがベンジャミン氏と同じパーティだったと思われる魔法使いに付きましては持っていた杖が当時東の隣国でよく使われていた『炎の魔法杖』と判明しており、そちらからの流れの魔法使いの可能性が高くなっております。戦士一人とスカウト一人に関しましては10年前の記録から当時の王都の冒険者だったことが解っておりますが、大剣の戦士のみ素性はまったく解っておりません」
デヴィッドは追加情報の公開も行う。
「では、本来メリッサ嬢たちのパーティのリーダーであるダブス氏がサインするところですが、彼らパーティは仕事で王都におりませんので全権委任されているメリッサ嬢が行います」
お互いに契約内容を確認しサインした後は、神殿と魔法塔の『石化解除』の呪文の行使の契約書も取り交わされる。
全ての書類が整った後は作業場の中央の石像の後ろに長椅子が用意され、カーツマン師がその横に立ち、その周りをそれ以外の人々が囲う。
カーツマン師が長い木の杖を出し呪文を唱え始めると、石像の前に白く輝く魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は一般人には意味不明の文字と図形を輝かせながら最初はゆっくりとだんだんと早く回転し始めカーツマン師が杖を床にトンッと立たせたところで、石像の頭から足元まで移動して行き最後に眩く光って消えた。
すると石像は頭の先端から徐々に石化が解除され石の灰色から栗色の髪が目に入り、顔が肌色に戻り、全体の鎧や持ち物も元の色と質感になっていった。
本人は意識が戻った様子はなく、ぐだっとしており両側に控えていた神官が体を支え長椅子に座らせる。
部屋の端から衝立が持ってこられ私とエリカは衝立の向こうに移動する。二人の神官が鎧や装備を外している音が聞こえ、近くの机の上に全て並べられていくのをデヴィッドが監視している。
しばらくすると衝立は取り除かれ、真新しい神官服を着て長椅子の横たわっているベンジャミン氏と机の上に並んだ装備一式が見られた。
エリカはファイルと『ペン』をもって机の上の品目を記録し始める。こちらの所持品の査定は冒険者ギルドの仕事の範疇なので今は余計なことはしないでおく。
「『石化解除』後に意識を取り戻すのは個人差が大きい、意識が途切れておらず戦闘途中の意識のまますぐに切りかかってくるものも居れば一週間意識が戻らないものもおる。今日のところは神殿に戻ってゆっくり養生することじゃな」
カーツマン師の声に高位神官が頷きながらベンジャミン氏の顔を覗き込む。
「ふむ、顔色も多少悪いな。神よこの者に癒しを与えたまえ」
高位神官が呪文を唱えるとベンジャミン氏の体が淡く光り顔色は良くなった。
デヴィッドもベンジャミン氏の様子を伺い高位神官に伝える。
「まずは意識を取り戻されることを一番に考えていただき、お話が出来るようになりましたら面会できる日時をご連絡ください」
エリカが書き上げたリストと現物を神官と確認しながら、用意してあった箱に全て詰めてゆくのをデヴィッドと高位神官も確認する。
「こちらの品に付きましては冒険者ギルドで責任をもってお預かりし査定させていただきます。こちらが預かり証になりますのでご確認ください」
冒険者ギルドと神殿の面々が帰った後、私は魔法塔に残っている。
「ブランドン、あなたにちょっとお話があります」
「はい、何でしょうか」
黒いローブをすっぽり被り顔が見えない魔法使いであるが声は若い男性である。
「あなた、以前に魔法公安委員会で会った時に顔を反らしましたよね。それに王宮の裏門で会った時も挨拶もせず」
「公安の時は魔法古物商と魔法塔の魔法使いという立場でしたので、王宮の時も私は警備要員で配置されていたからです。仕事中に余計な事は言えません」
「どうなんでしょう? カーツマン師、この愛想の無さは?」
「あなたに言われたくありません」
ブランドンは顔を背けた。
「まぁまぁ、とりあえずお茶でもせんか」
応接室に移ってブランドンの入れたお茶を三人で飲む。この男細かい性格でお茶を入れるのも上手く、カーツマン師のサポートを良くやってくれているが私に対する当たりが素っ気ない。
「カレンは次の仕事に出かけたんじゃな」
「はい、『月光石』の探索チームです。魔法塔からもアレックスが参加してくれていますね。安心です」
「そうじゃな。学者風なのにカレンとも相性がいい珍しいタイプじゃからな」
それから魔法塔、王宮、冒険者ギルドのことなど情報交換を行った。
「して神殿の動きをどう見る?」
「そうですね。ベンジャミン氏は中堅の冒険者だったようですから金貨200枚で『石化解除』すること自体は不自然ではないですよね。神殿での地位もそれなりに高かったでしょうし、ですが魔法使いが東の隣国の出身らしい事が関係していますか?」
「うむ、わしもその線が濃い気がするのう。今のタイミングで王宮や隣国に恩を売るか弱みを握るか出来たら儲けもんとか思っているんじゃないかの」
「それに大剣の戦士の身元が解らないというのも気になります。魔法使いが隣国の者なら戦士もその可能性があります。先ほど神殿に寄った時にもう一度よく観察してみたのですが、石像を見た限りは鎧や剣は普通の冒険者の物でしたが、ブーツやベルトなどの小物は質の良い物を使っているように見えました。まぁ石化しているので確かではありませんが、それに顔立ちが余り平民には見えませんでした」
「ふむ、やはり神殿は何か掴んでいると思っていた方が良さそうじゃな」
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




