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子爵令嬢の相談

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

 林でピクニックしてから一週間が過ぎた。

 数日前にはダブスたちの戦利品の鑑定書発行もされ、各自に戦利品と鑑定書の引き渡しも無事終わり、昨日には早々に魔法塔と魔法工房の『月光石』探索チームと旅立って行った。

 ジョナサンは神殿の方が貴族の呼び出しに対して何とか調整を付けてくれたようだ。見送りに行ったときに久しぶりに見た顔は少しやつれていたが、王都を離れることができる事で晴れ晴れしているようにも見える。


 今回は王都から南西に二週間ほどの伯爵領での探索になる。探索自体は『月光石』が見つかった河原から川を遡って渓谷や深い森に分け入ることになる。森の中に村落もなく魔物の目撃情報も上がっている地域だけに探索隊はダブスたち冒険者を護衛に雇い、装備等も十分準備している。

 魔法塔の魔法使いも探索隊に入っているので心配はしていない。装備を整えるという事でうちからも『ポーション』や『スクロール』をいくつか、それ以外の『魔法古物』も購入して貰っている。最近店の売り上げはほとんど無かったので助かった。


 カレンは最後まで一緒に行かないかと誘ってくれていたが、また近いうちに仕入れの為に店を休む予定があるので今回はお断りした。

 その代わり探索隊には魔法塔の魔法使いが『魔法収納袋』を持っていたので、双子ちゃんに手伝って貰って作った携行食を大量に持たせた。2,3か月は掛かる仕事だろう、帰ってくる頃には王都の噂も落ち着いていると良い。




 今日も天気は良く、少しずつ暑くなって行く気候に体を慣らす時期である。

 店を開け「OPEN」のプレートを掛けて店番を始める。

 読みかけの本を開いて少ししたところで店前に馬車が止まる音の後、「カラララランッ」と店の入り口の『ドアベル』の音がして、お客さんに明るく声をかける。


「いらっしゃいませ。メリッサ・スー魔法古物店へようこそ」


 歩道に置かれたテラコッタの鉢植えや窓辺を赤く染めるゼラニウムの少し癖のある香りがふわりと店内に流れてくる。


 お客さんはお忍びと言うには主張の強い、つばの広いピクチャー・ハットで顔全体を覆い隠した貴族令嬢と侍女のようだ。ここのところ日差しが少しずつ厳しくなってきてはいるので日除けには最適だ。絶対お嬢様を日焼けさせないという侍女の心意気が感じられる。

 走りゆく馬車は辻馬車ではない、それなりに高級ではあるが貴族の紋章などの飾りが無い馬車であった。


「何かお探しですか? それともお売りいただける魔法の品をお持ちでしょうか?」


 お嬢さんは店内を一通り見まわすとその大きな白い花とも見える帽子の中の小さな可愛らしい顔をわずかに傾げて口を開いた。


「私、レスリー・オルセンと申します。こちらで魔法的なことの相談に乗っていただけるという事を聞いたのですが本当でしょうか?」


 お嬢さん改めレスリー嬢はその小さい顔を僅かに傾げ、真っすぐ見つめる青い瞳に微かな不安を覗かせて尋ねて来た。


「はい。私は店主のメリッサ・スーと申します。当店は基本的には『魔法古物』の販売買取を生業としておりますが、それに付帯する様々なご相談にも乗っております。まずはお話をお聞きいたしますのでこちらへどうぞ」


 カウンターの壁の『魔法古物商』のプレートを指差しながら説明する。


 レスリー嬢をソファーセットに案内し、お茶の準備をする。

 カウンター裏へ移動し、『魔法瓶』からお湯をカップへ移し温めておく、『魔法瓶』の温度を確認し『ティーポット』にお湯を入れ、棚にいくつもある『保存缶』からお客さん用の中でも高級な茶葉をティーセットへ、昨日焼いておいた大麦とナッツのドロップクッキーをソーサーに二枚ほど置く。


 オルセン家は王国の東に領地を持つ子爵家である。領地は主に丘陵地帯で流れる穏やかな河川の恵みもあり、主産業は小麦、大麦の生産である。王都に近い事もあり王都の人々のパン用の小麦、大麦の供給源である。現当主は四十代後半で一男三女、嫡男も二十代後半でそろそろ代替わりの話が出ている。上の二人の娘は既に嫁ぎ、末っ子の三女も婚約しておりそろそろ婚姻という話を聞いている。


 応接セットに戻ると帽子を取って豊かで煌びやかな金髪を背中に流したレスリー嬢と、その後ろに帽子と鞄を前に持って黙って控えている侍女という構図がある。

 レスリー嬢は淡い紺色のチュニックドレスにウールの肩掛けを銀のブローチで留め、子爵家の家格を考えると上等過ぎることもなくされど安っぽくもなく、派手さは無いが上品で纏まった服装をしている。

 侍女は灰色のドレスに栗色の髪は後ろに纏め、服装の乱れなど何一つなくスッとした姿勢で立っている。


 勧めたお茶に口を付けつつ、まずは季節や出した紅茶の茶葉の産地の話、クッキーの話などをする。


「こちらのクッキーは今まで食べたことが無いですね」


「はい。大麦とナッツのドロップクッキーになります。生地を丸めず、スプーンで上から天板に落として焼いていきます。ですので形も一つ一つ違い、中身も様々でナッツのどれが入っているかは口に入れてからのお楽しみになります」


「面白いですね。小麦で作った物とは違い「サクサク」ではなく「ホロホロ」で好きな食感です。貴族のお茶会では見ないものです」


「はい。高級なものではございませんが、素朴な大麦の味と素朴な作り方と見た目で私も好きなクッキーです。大麦はオルセン領のものを使っています」


「まぁ」




 多少打ち解けた後に本題に入る。


「では、ご相談をお聞きいたしましょう」


「はい。実は‥‥」


 話の内容を纏めると最近、誰かに見られている視線を感じるという事だ。部屋で一人読書をしているとき、友人宅の庭園でお茶会をしているとき、兄嫁と観劇を見ているとき、しかし部屋で視線を感じたカーテンの裏を確認しても誰も居ない。庭園や劇場でもその時の相手以外は侍女やメイドがいるだけでその者たちは基本視線は伏せて令嬢を直視はしていない。

 両親や兄は婚姻を半年後に控え、ナーバスになっているだけだと相手にしてくれない。兄嫁だけが親身になって話を聞いてくれて、何か魔法的なものかもしれないという事でこちらを紹介されたという事だった。

 確かに2年ほど前、オルセン次期子爵夫人からちょっと面倒な相談を受けた覚えはある。


「それから、こっちは本当に気のせいとは思うのですが、婚約者が私の行く先に偶然姿を現すことが良くあって‥‥」


「解りました。少々お待ちください」


『保管庫』から『ワンド』を一本、トレイに乗せてソファーセットに戻り、『魔法収納袋』から『モノクル』を出して右目に嵌めた。


「魔法や『魔法古物』を使ったいくつかの可能性がありますのでご説明いたします。詳しい説明は省かせていただきますが『見えない目を飛ばす』魔法がございますが、こちらはそこそこ高位の魔法使いでないと使えないものになります。心当たりはございますか?」


「‥‥いえ、高位の魔法使いの方はお知り合いにはいません」


「では、次に『透明化の魔法古物』というものがいくつかあります。指輪やマント、『ポーション』などです。これらは現在、悪用されないように魔法公安委員会への登録が義務づけられているのですが、未登録のものが無いとも言い切れないところです」


「ではその『透明化』した何者かが近くにいるかもしれないという事でしょうか?」


 レスリー嬢と侍女は周りを不安げに見回す。


「その可能性はあります。対策としては『透明を見破る杖:ディテクトインビジブルワンド』というものがあります。失礼ですがお嬢様の魔力はいかほどでしょうか?」


 貴族に高い魔力保持者は多い、貴重な戦力になるので学院や魔法塔で学んだあとは王宮の魔法使いになることもあるし、それぞれの貴族家に囲われることもある。女性であれば魔力の高い母親からは魔力の高い子が生まれる傾向があるため、嫁ぎ先に困らないという事もある。なので貴族子女に魔力の有無、高低を聞くのはセンシティブな問題なのである。


 後ろで侍女が眉を上げているのを制してレスリー嬢は答える。


「高くはございませんが魔法小物を発動させるのには不自由しない程度はあります」


「よかったです。ではこちらの『ワンド』も使用できると思います。今度視線を感じた時にはこちらを起動させてみてください。『透明化』したものが光り姿を現します。ああ、周りに護衛のものがいるときにお願いします。えい」


『ワンド』に魔力を込めて発動するが周りで何の反応もない。


「このように使います。今は何もいません」


「解りました。こちらはいかほどでしょうか」


「販売となりますと金貨25枚ほどになりますが‥‥、貸出しという方法もございます」


 金貨25枚と聞いたところでレスリー嬢の顔を陰りが生まれた。貴族の娘が自分の裁量で動かせるお金はさほどない。子爵家であれば猶更である。

 行きつけの宝飾店や服飾店であればツケで買い物もできるが、婚姻を前にナーバスになっているだけなのにそれを解決するために『魔法古物店』から金貨25枚の請求書が行ったら親御さんはどう思うだろうか。

 貸し出しも出来ると聞き少し明るい顔になる。


「一週間単位で週、銀貨2枚になります。あとは保証人を立てていただくことになります」


 彼女は成人しているので契約自体は自分で行う事が出来るが、自分の財産や仕事が無いため保証人が必要になる

 スッと後ろに控えていた侍女がファイルに挟まれた書類をこちらに向けて机の上に置いた。


 そこにはオルセン次期子爵夫人の名前で保証人の書類が完璧な状態で用意されていた。ああ、確かに完璧主義の女性だった。

 彼女は次期子爵夫人であり、嫁ぐときに持参金も持って行っているはずなので保証人として何も問題ない。


「解りました。では貸し出し手続きの書類を作成いたします。紅茶を入れなおしてきますのでクッキーと共に少々お待ちください」




 さて、契約書類のやり取りが済み引き渡した『ワンド』を侍女が持って別れの挨拶をする。


「本当にお世話になりました。わたくしの話も否定せずに聞いていただけて嬉しかったです」


 来た時よりも顔色を良くして彼女は帰って‥‥行く前に声を掛けた。


「忘れていました。まだ他の可能性があります。お時間は大丈夫ですか。今一度ソファーにおかけください」


挿絵(By みてみん)

次回は明日、18:00頃に更新いたします。

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