ピクニックと鉄球落下実験
ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。
今日は画像が二枚です。
泉のほとりで小鳥の囀りを聞きながらゆっくりご飯を食べ、食休みをしつつ世間話をする。日差しは木々が遮ってくれて木漏れ日が手元で揺れる。
話はカレンたちの次の仕事である『月光石』探索の準備の事や、王宮の来賓の噂話、カレンが魔法塔から人手が足りないので手を貸せと言われている事などを取り留めもなく話し合う。
小一時間ゆっくりした後、若鹿が泉の水を飲み終わって離れていくのを切っ掛けに次のやりたい事に移る。
「ウェンディに相談していた件ですが、〈ゴトッ〉こちらを上空から落として『魔法収納袋』へ納めたいのです」
下生えに直径30㎝ほどの鉄球を出す。重さは100㎏を超えている。
カレンが鉄球を指で突くがビクとも動かない。
「そのベクトル? が上から落とすことで獲得できるという事なのね」
ウェンディの小首を傾げながらの問いかけに、鉄球を撫でながら答える。
「はい、カレンに『クライミングロープ』で上まで運んで貰って落としてもらったものを地面に激突する前に私が触って『魔法収納袋』へ入れます。風の影響をどれだけ受けるかが読めなくて影響が大きい場合、ウェンディの力を借りたくて」
「んーーー、クロスボウの矢を実際入れているのは見て解っているけど、危険は無いの? この大きな鉄球って!」
カレンが眉を顰めている。
「はい。危険はあります。落下したものがちゃんと真下に落ちてくれるか? だからその実験をしたいんです。高さに比例してどれほど落下地点のずれが生じるのか? 風の影響はあるのか? 鉄球の重さを考えたらそれほどずれるとは思えないのですがこればっかりは実際やってみないと解らなくて。手伝ってもらえますか?」
「もちろん、メリッサの頼みだもの協力はするわよ。でもほらメリッサはなんかこう研究っぽいこと始めると‥‥‥」
「そうね。加減が効かなくなるというか、無茶するというか」
カレンとウェンディに研究バカみたいな言われ方をして、ちょっと納得できないが協力してもらう手前、大人しく報酬の提示をする。
「実験後には例の新店の新作、ヒンヤリ美味しい「白ワインゼリー × マスカット」のゼリーが用意されております」
「さぁ、始めるわよ! この鉄球を上まで運べばいいのね。ほらウェンディ、ぼさっとしてないで」
さて、まず鉄球を皮革工房で特注した袋に転がして入れる。
この袋は下部で布を蛇腹状に畳み、その上から紐でギュッと縛ることで、鉄球の圧力が全体に分散される仕組みになっている。
また、紐の結び方は引き解け結び(スリップノット)になっており、中身の重みがかかればかかるほど、布が押し付けられて摩擦が増し、勝手に解けるのを防ぐ結び方である。
そして紐を解いたときは結び目のロックが外れ、一気に開放されるようになっている。
ちなみにカレンの『魔法収納袋』は容量制限が100㎏なのでこの鉄球は入らない。
その鉄球の入った袋を『クライミングロープ』の片方に結び、腰にはただの細いロープを結んで貰いカレンには『クライミングロープ』を使って上空に上がってもらう。ただのロープには10mごとに赤い布が結ばれており高さの目安にする。
カレンが手元に纏めてある『クライミングロープ』を握って命じれば『クライミングロープ』は生き物の様にその片方が上空へ伸び始め、全体がピンと垂直に伸びたところでカレンが結わえてある輪っかに足を通し、握ったロープでバランスを取りながら上空へと上がり始める。
その足元では皮袋に入った鉄球が問題なく一緒に上がってゆく。高さ計測用のロープが10mを示すところで声を掛け停止してもらい、ロープが微風で揺れるのをピンと張って高さを確認し「20㎝上」「もうちょい、はいそこまで」という感じでぴったり10mを測る。
カレンが上り始めた地点には地面に枝で大きく円を描いてある。
念のためウェンディには『風の精霊』にお願いして落下地点以外には『風の障壁』を上部に張って貰っている。
「では行きますよ。はい!」
私の合図にカレンが皮袋の紐を解く、「ビュン、ドシン!!」という音と風が通り過ぎ、地面に鉄球が激突しバウンドすることもなく半分程度が地面にめり込んでいる。
合図してから激突まで1.4秒ほど、落下地点は地面の円にしっかり収まっている。どうやら10mでは風の影響はほぼないようだ。
その後、高度を10mごと変え何度か試したが、この辺りの樹高30mを超えた辺りで風が強くなり落下地点のずれが少しずつ出始め50mでは5~10㎝ほどのずれが出ることが解った。
また、50mからの落下の場合、「ドスン!」という鈍い音と共に、周囲の地面に振動が伝わり鉄球は40㎝程地面に潜り込み、表面の土は横に弾け飛び直径60cm程のクレーターが出来た。
よって、風の影響もほぼなく、落下地点の誤差がほぼ生まれない高さ20mを安全係数をとり実用に入る。
20mでは約2秒で落ちてくるのでタイミングを取るのも取りやすい、何度か試し擦過熱で皮手袋を一枚駄目にしたところで何とか習得できた。途中からウェンディが上空に上がる係を替わった。
思ったより時間が掛かってしまい二人にも随分時間を取らせてしまったので、午後のお茶の時間にすることにした。
いくつかクレーターが出来てしまった辺りを避けて敷物を敷きなおしバスケットに入れた「白ワインゼリー × マスカット」のゼリーと紅茶道具一式を出す。『魔法収納袋』に入れていたのでゼリーはヒンヤリだし、『魔法瓶』の中身も適温だ。
ゼリーは外でも食べやすく、マスカットの緑が美しいため初夏のピクニック? に最適だ。
紅茶を傾けゼリーをスプーンで掬い口に運び、一息つく。
「でも、凄いわね。ものの20分で成功するとは思わなかったわ」
「本当、本当、だって地面にめり込んでいるのよ。あの鉄球!」
ウェンディとカレンの問いかけにスプーンを軽く回しながら答える。
「横か縦かの違いと矢か球かの違いだけですし、球の方が速度自体は遅いですから慣れてしまえば接触面が広い鉄球の方が簡単ですよ」
「えーーー、そんなもの? じゃあ私も鉄‥‥」
「「止めときましょう!」」
「カレンも今回、自分でやってみてクロスボウの矢はすぐには無理なことは解りましたよね。ベクトルを持った物を出すのは「向き」の調整が必要ですし、下手したら味方へ誤射することもあります。」
カレンが何度か矢をぶつけた右手を振り振り、不承不承頷いた。
「実はクロスボウの矢でなくとも、もっと基本的で使いようによってはもっと役立つかもしれない技があるんです」
「な!なに? それ?」
私は『魔法収納袋』から取り出したものを5mほど離れた木立に向かって放つ。それは真っすぐ飛び、木立にぶつかると「パンッ」と軽い音がして弾け、白い粉末が飛び散る。
「?? 今のは何?」
「小麦粉です」
「小麦粉?? なぜに?」
?顔のカレンにウェンディが説明してくれる。
「なるほど、小麦粉の代わりに胡椒やトウガラシなどの刺激物だったら下手に目に入ったり吸い込んだりしたら戦闘不能にすることも可能ね」
「ただの砂だけでも使う時と場所を考えれば目潰しとして有効な場合があります。基本はまず『魔法収納袋』に入っている物を素早く取り出して投擲できるようにすることです」
「でもーーー、クロスボウの方がカッコいいし」
「段階を踏みましょう。クロスボウの矢などは応用編と最初に言ったと思います。まずは『袋』の中のものの配置を理解し素早く仕舞って取り出す事です」
「でも、他にも使えるわよね」
ウェンディは解っている。
「そうです。「細かいガラス片」を使えば目の角膜を有効に傷つけますし「生石灰」を使えば眼球や鼻の水分と反応して焼くような激しい痛みを相手に与えることが出来る非常に攻撃力の高い武器になります。」
「な、なるほど、じゃ、じゃあ、やってみようかな」
「では練習用にこちらを渡しておきます」
女性の手の中に納まるくらいの薄い革製の小袋?を10個ほどカレンの掌に載せる。
中に小さい豆が入っていて遠くの国では子供の手慰みに使うものらしい。
それに50㎝四方の的を出す。同心円状に色違いの丸が書いてあり、真ん中10㎝には穴が開いている。一つカレンの手からお手玉を取り、一旦自分の『魔法収納袋』にいれてから的に投げ真ん中の穴を通す。
「良いですか。この的に向かって日々練習してください。最初は2m位から上手く出来るようになったらだんだん離していってください」
「う、うん」
「5mで10回中、8回真ん中に入れられるようになったら実戦で使用する私の特製「パウダーボム」を進呈しましょう」
「し、師匠! 頑張ります」
「良いですか。それが出来るまでは実戦で使うことは禁止します。解りましたね」
「はい!師匠」
カレンが「うおーーー!」と言いながら練習を始めた。
「ウェンディ、今度の仕事中よく見ていてあげてくださいね」
「ええ、しっかり監督しておくわ」
本当は破城槌の代わりの丸太とかも用意してきて、鉄球と同じようにやろうかと思っていたが今日はなんか疲れてしまったので今度にしよう。
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




