ピクニックとクロスボウ
ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。
今日はカレンとウェンディと一緒に王都近郊の林にピクニックに来ている。途中までは荷馬車に乗せて貰い、今は人気のない林の中だ。
徐々に暑くなって来ているがまだ初夏というには早い時期で、木漏れ日の中を歩いている分にはそれ程暑くはない。
もう少しすると雨が多い時期になり、それが過ぎれば本格的に暑くなってくる。
王都に近い林の中はオークやブナなど薪になる木々が多く、枝などが落とされたものが見受けられ、下生えも余り無く歩きやすい。
なお、王都近郊の林は王家の所有物であるので、落ちている枝や手の届く範囲の枝を落としたり、果実をもいだり、薬草を取ったりして持って行くのは構わないが、木を切り倒すと重罪になる。
また、鹿や猪、鳥などを取ることも許可を得た猟師以外は密猟となりこちらも重罪だ。
猪や熊など人を襲う凶暴な動物の場合は打ち取っても問題ないが森林監督官に届ける必要がある。
王都の近くの森は魔物の討伐が頻繁に行われて土地が開かれていった。さらに騎士団が定期的に見回っているので魔物が出ることは少ない。
なので万が一だが魔物が出た場合はもちろん倒して構わない。
さて、ウェンディにちょっと開けた場所が無いか尋ねれば、「こっちよ」と道案内をしてくれる。小さな小川の側を登ってゆくとこれまた小さな泉があり、その周りが多少開けている。一頻り見渡し十分な広さがあることを確認する。
「ここにしましょう。今準備するのでちょっと待ってください」
地面が平らなところを選び『魔法収納袋』からクロスボウと据置台、遠隔発射の仕組み一式を出す。
据置台とは砦等の城壁の上などにクロスボウを設置する時に使う台である。今回のものは通常城塞等で使うものとは構造から異なり、木製の太さ20㎝の柱で縦横高さが1mほどの立方体を作り、厚さ5㎝程の板で囲い、その中に切り出した四角い御影石を入れて2tほどの重さになっている。
よって一度『魔法収納袋』から出してしまうと大地にずっしりと鎮座し、自力で移動することは困難だ。今居る三人で力いっぱい押してもビクともしないだろう。
その上部の頑丈な鋳鉄製の固定具にクロスボウを設置し、クロスボウの引き金に穴を開け結わえてある細く丈夫なロープを据置台に取り付けられたいくつかの滑車に通す。
ロープを持ったまま据置台から3mほど離れ、足踏みのペダル部材の四隅の穴に杭をハンマーで打ち込みこちらも地面に固定する。
四隅をしっかり固定されたペダルにロープを結わえて張りを調整しペダルを踏んでみると、クロスボウの引き金が連動して動いた。
これで遠隔クロスボウ発射装置の設置完了である。
王都の木工・金物・石工・縄師工房には本当にお世話になった。
カレンとウェンディが邪魔にならないよう少し離れた所で「ほー」とか「ふむふむ」とか言いながら見ている。
「では、次にこちらを設置して大体は終わりです」
据置台と同じ要領で作った重たい矢留台をクロスボウの着弾点に設置する。一面に縦2m横1m厚さ10㎝程の藁を丈夫な糸で厚く束ねた敷物を固定したものである。
これが矢留めになって、失敗した時に遠くまで矢が飛んでしまったりすることを防ぐことが出来る。
「最後に照準の調整をしますので、もうちょっとお待ちください」
クロスボウの据置台の足掛けに片足を掛け、弦を引き爪に引っかけ、矢を番え、狙いを矢留台の真ん中に描いてある直径3㎝程の円に合わせ発射すると、ちょっと右上にずれた。矢留台に刺さった矢を『魔法収納袋』へ収納し何度か調整する。普通に矢を抜こうとすると深く刺さっていてビクともしないので『魔法収納袋』へ「矢」だけを一旦納める事で引き抜くことが出来る。
真ん中に当たる様になった後は矢をセットしたままペダルまで移動し、ペダルを踏む。
しっかりと的の真ん中に的中することを確認し、カレンたちに声を掛ける。
「お待たせしました。これで準備完了です」
「おおーーー、パチパチパチ!」と口で言いつつ拍手して近づいてくるカレン。
「なかなか、緻密な調整が必要なのね」とウェンディがその横で感心したように。
いや、確かに手間取りました。
ですが本当はうちの店の『空間拡張』の魔法で作った縦横30m×30mほどの空間に据え置いてあって、いちいち調整する必要はないんです。今回は再設置したので時間が掛かってしまっただけで‥‥、ですが『空間拡張』の事はちょっと言えないので‥‥。
「では、実際にやってみますので離れてください」
再度、クロスボウに矢をセットし二人が離れたことを確認し右手に薄手の皮手袋を嵌め、矢留台の前に立つ。的の中央から30㎝程横にずれ、クロスボウに体の左を向け斜に構え左足をペダルの上に乗せる。
一度目を閉じ深呼吸した後、ペダルを踏んだ。
「ビシッ!」と弦がストッパーを叩く鋭く高い音が聞こえるのと同時に、私の横を飛びすさる矢が「チッ」と小さい音を立てて消えた。
矢留台には何も刺さっていない。
これでベクトル、「速度」と「向き」を持ったまま「矢」は収納され『魔法収納袋』の中で停止した。
「矢」は『魔法収納袋』の中の架空の棚に収められ次に取り出されるまで静かに待機する。そして必要な時に矢印の「向き」を「逆」にして微調整し取り出すと「矢」は収納された時と同等の「速度」を持って『魔法収納袋』から飛び出して行くことになる。
習得には飛んでくる「矢」を目で捉える動体視力と、「矢」に触れる反射神経、そしてある程度の期間の訓練が必要になる。
私がやっているのを見て以前から自分もやりたいとカレンが言っていた『魔法収納袋』の使用方法の応用編である。
「「おおおおおおーーーーーー!」」
パチパチパチと拍手をして二人が近寄ってくる。
「ほぼ何も見えないんだけど?」
「確かに手の動きは見えなかったわね」
「20本ほど補充したいので矢のセットをお願いできますか?」
「OK、任せて」
「‥‥できれば、ウェンディに」
「なんで?私だって矢を番えるくらいできるわよ」
「「‥‥‥」」
「見てなさい。よっと‥‥‥ ギャン!!」
私がやっていたのを真似てカレンが据置台の足掛けに片足を掛け、弦を引いたがクロスボウの爪に引っかける前に手を放してしまい、勢いで後ろに転げ後頭部を強打した。
「ううう、ううー」
両手で後頭部を押さえ左右にゴロゴロ転げるカレンを止めて、後頭部を確認する。
今のところ異常は無いようだが後でたんこぶが出来るかもしれない。
「『ヒーリングポーション』飲んでおきますか?」
「‥‥いらない。これくらいで薬に頼っていられないわ」
カレンは右手で後頭部を押さえたまま立ち上がり、動きを止めた。
私たちがちょっと話しているうちにウェンディがクロスボウのセットを終えていた。
何か悲しそうな目でクロスボウとウェンディ、私を見てカレンは最初に見学していた場所に戻った。
それから、ウェンディに矢をセットして貰って20本の矢を『魔法収納袋』へ納めた。ウェンディが居るので発射までしてもらうことも出来るが飛んでいる矢に触ることは集中力とタイミングが重要であり、ペダルを踏むことと右手で矢に触ることを一連の動作として習得しているのでセットだけを頼んだ。
その後は、クロスボウの種類を変えて小さい鉄球、バリスタに変えてバリスタ用の大きな矢も補充しておく。
さて、私の分が終わったのでクロスボウを威力の低いものに変えて、何度か発射し照準調整を行う。矢は頭を潰し矢留台にぶつかっても刺さらず、下に落ちる程度にクロスボウの威力も落としてある。手にぶつかっても痛いで済む威力である。
「さぁ、カレンもやってみます?」
腕まくりしたカレンが鼻息荒く近寄って来るので、厚手の皮手袋を渡し場所を空ける。
「良いですか、クロスボウに向かって半身になり、 そうです。でペダルに左足を掛けて、最初はまだ右手は出さないでくださいね。はい。踏んで」
ビシュ、ドッ、コロ、スカッ、カレンの右手が矢が矢留台に当たって地面に落ちてから振られた。
「最初は右手出さないよう言いましたよね。まずはタイミングを掴むことが大事です」
「‥‥はい。解りました」
その後、何度かタイミングを取った後は実際に手を出してみたが、早すぎたり遅すぎたり偶に手に矢が当たって「ギャン!」と悲鳴をあげながらもカレンの練習に付き合った。
ちなみにウェンディは低速のものはものの五分で習得した。
カレンが息を上げたあたりで泉のほとりでご飯にした。
次回は2/2、18:00頃に更新いたします。




