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『魔法収納袋』御開帳1

キーワードから「ほのぼの」を外し「ダーク」を入れました

 今日は王城に近いところにある魔法公安委員会の建物に来ている。


 石造りの武骨な建物の中の飾りっ気のない会議室、中央の長テーブルに四人ほどの人間が座っている。

 窓の外は春の麗らかな街並みが見えるが室内はピリピリとしている。


 まず上座に座っている胸に魔法公安委員会の委員バッチを付けた四十歳くらいの身なりのかっちりした男が口を開く。


「本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます。私は魔法公安委員会の委員ジョー・ベイトマンと申します。これから先日メリッサ・スー魔法古物店に持ち込まれた盗品の疑いのある『魔法収納袋』の内容検分をいたします。まずは立ち合いの皆さんのご紹介をいたします。まず助手のバルソン、本日の記録係を務めます」


 ベイトマンの後方右に控え、布の被ったトレイを持ったバルソンが軽く頭を下げる。


「次にベリア地方の領主マーリン・ベリア子爵、本日はわざわざ領地よりお越しいただきありがとうございます」


 ベイトマンの右手の一番目に座っている四十半ばの優しそうな風貌の貴族の男が口を開く。


「いやいや、社交シーズンも近かったのでね。少し早く王都に来ただけで問題はない。関係者の皆さんにはうちの問題につき合わせて済まないと思っている」


「こちらこそ、問題ございません。魔法古物の取扱いについては王国では喫緊の問題でございますので。では次に今回、通報いただき容疑者の捕縛に協力いただいたメリッサ・スー魔法古物店店主メリッサ・スー女史」


 ベイトマンの左手に座り、ちょっと余所行きの恰好をした私は軽く頭を下げる。


「メリッサ・スー魔法古物店店主メリッサ・スーと申します。本日はよろしくお願いいたします」


「メリッサ女史、この度はご協力感謝する。あなたのおかげであやつを捕まえられことが出来たと聞いている。ご厚情、忘れることはない。いずれ、しかるべき形でお返しをさせていただく」


「お気になさらないでくださいませ。魔法古物商として怪しい依頼者の通報という義務を果たしただけでございます」


「それでは、こちらの気が済まない。必ずお礼はさせていただく」


 あまり固辞するのも貴族の矜持を傷付けてしまうので受けることにする。


「分かりました。では後程」


「メリッサ女史には今回、『魔法収納袋』の内容検分を依頼しています」


 中身の不明な『魔法収納袋』の内容確認には罠とか色々と注意が必要なので今回、専門家? という事で同席している。

「次に衛士隊から今回の捕縛の担当者、マシュー・ミルズ」


 私の左で普段の常装の衛士服ではなく、正装の衛士服を着て緊張したマシューが挨拶をした。


「衛士隊マシュー・ミルズです。よろしくお願いいたします」


「ああ、君達衛士隊の者たちにも礼を言っておく」


「ありがとうございます」


「最後に魔法塔より万が一の時の為に、魔術師の方に来ていただいております」


 ベイトマンは部屋の隅の角に佇む黒いローブの人物を紹介した。

 背丈は160㎝ほど、すっぽり被ったローブとフードで性別年齢等は不明である。ベイトマンの紹介を受けても返答はせず、軽く頷いただけである。

 チラッと視線を投げたが、軽く顔を背けられた気がする。


「では、これから『魔法収納袋』の内容検分をしていきます」


 助手のバルソンが持っていたトレイを私たちの前に置き布を取り外すし、テーブルの下手の席に着く。テーブル上にはそれ以外にも四つほど空のトレイが置いてある。

 布が外されたトレイの上には何の変哲もない『小袋』が置いてあり、ベリア子爵はじっと凝視している。


「間違いない。うちの『魔法収納袋』だ」


 傍目には小袋の違いなど分からないが持ち主にしてみれば形、色等慣れ親しんだものが分かるのであろう。


「まだ、お手は触れないで! 中に何が入っているか分かりません」


「ああ、わ、分かった」


「では、メリッサ女史。お願いします」


 私は自分の腰ベルトに付けた『魔法収納袋』から『モノクル』を出し左目に嵌め、テーブル上の『魔法収納袋』を観察する。羊皮であろう何の変哲もない『小袋』であるがレンズを通してみるとうっすらと光って見えることから魔法の品である事は確認できた。一度、店で確認をしたものだが念のため、再度確認を行った。


 私は胸元の『ブラックオニキスのカメオ』を確認し念のため、薄い皮手袋をはめて『魔法収納袋』に中にゆっくりと手を入れた。

 ベリア子爵から提出を受けた「内容物リスト」は事前に見せてもらい罠は二つしか仕掛けていないという事であったが、盗まれた後に容疑者が仕掛けた可能性もなくは無いので慎重に中身を探る。

 まずはリストの一番上にあった非常用の財布の小袋を取り出す。小袋は上質の山羊皮で留め具にはベリア子爵の印章が刻まれている。


「おお、私の財布だ」


 テーブルの上の空のトレイに財布を載せ『モノクル』で見るが反応はない。下手の席の記録係バルソンがリストにチェックを入れリスト記載の中身を告げる。


「中身は金貨、銀貨、銅貨各20枚と記載されております」


 私は手元が全員にしっかり見えるように中から更に小さい小袋を三つほど出す。その小袋から金貨を数えながら20枚出し、銀貨、銅貨と続ける。トレイの上には積んだコインがきれいに並ぶ。


「財布の中身は無事ですな。どうやら、容疑者は罠に掛った後は中身を確認する勇気は出なかったようですな」


 ベイトマンは問題なく最初の財布が確認できたことで肩に入っていた力が少し抜けたようだ。


「ふむ、よろしい」


 ベリア子爵も喜ばしそうに声を上げる。


 続いてリスト順にトレイに出してチェックを重ねてゆく。小袋に入った小粒の換金し易いサイズのルビー10粒、『ヒーリングポーション』一本、貴族服一式、平民服一式、身嗜み道具一式、毛布一枚、片手剣一本、短剣一本、ベリア子爵領周辺地図、コンパス、ランプ・油・ほくち箱一式、携帯用筆記具、封筒・便箋一式、保存食・ワイン三日分。

 どんどんトレイの上がいっぱいになり、マシューが一杯になったトレイから脇にずらしてくれる。


『魔法収納袋』の中身を取り出す時には中に入っている物を意識して出すことが重要である。


 自分の部屋の棚を考えれば、棚の一番上段の左端には裁縫箱、二段目の右端には手鏡が置いてあると分かっていれば直ぐに取り出すことができる。ちゃんと整理整頓できる人間が自分の慣れ親しんだ『魔法収納袋』から物を出す時は、時にマジックのように素早く出すことができる。


 ところが整理整頓出来ない人間というものが世の中には一定数いる。持ち物を大きなチェストに無造作にしまって、この中のどこかに入っているというタイプの人間である。その場合、チェストに手を入れ一つずつ確認しないと見つけることができない。


 今回は何が入っているかはリストで分かっているのでそれを意識しながら棚を一段一段確認して出してきたのでそれほど大変ではなかった。いくつかの場所は飛ばしたが。



 私が小休止している間に記録係バルソンがリストを再度チェックする。


「提出いただいたリストの全てのチェックが終わりました」


 バルソンはチェックリストを丸め、紐で留めている。


本日18:00頃に続きを投稿いたします。

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