表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/79

白猫でお散歩

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

 帰りの馬車の中でローブを脱いで元の格好に戻る。


「さて、どうしたものか? とりあえず、無駄だと思うが社交界と隣国の使節団にテーラー・シーモアという男の確認はこちらで入れてみよう。あとはその男とシャーロッテ嬢が繋がっているかの確認か」


「そうですね。聞くところによるとその高級娼館はこの街でも一番の娼館らしいですね。卿はお馴染みで?」


「そうだな。接待や何かに行ったことはある。今からなら連絡を入れて2,3日後には予約を入れられるとは思うが、個人的に利用したことは無いし訝しがられるかな? 直接犯罪を犯しているという話でもないので魔法公安委員会の調査というのも難しいな」


 向かいに座った衛士二人!行ったことがあるってところで羨ましそうな顔をするのは止めなさい。


「では、私の方で調べてみましょうか?」


 ベイトマン卿と衛士二人が微妙な顔をしている。


「メリッサ嬢、ちなみにどうやって調べるつもりかな?」


「そうですね。私も娼館に身売りされるというのは?」


 ベイトマン卿が眉を上げ、衛士二人は「えっ!」と声を上げた。


「需要が無いでしょうか? 歳ももうすぐ二十歳ですし‥‥」


 私は自分の体を見降ろして首を傾げる。


「‥‥いや、そんなことは無いが‥‥」


「「そうです。そうです」」


「そうですよね。カレンみたいなグラマラスな女性や、ウェンディみたいなスレンダーな女性が良いという人が大半だとは思いますが、中には多少趣味の変わった方もいらっしゃいますもんね」


「‥‥そういう事ではなく。とにかく君がそこまでする必要はない。似顔絵を元に宿屋などへの聞き込みを行うから一旦君はここまでだ。何か手伝ってほしい事があればこちらからまた、連絡する」


 何か最後は誤魔化された気もするがとりあえず、今日できる事はもう無いという事で家まで送ってもらった。




「そういえばスティアーズ子爵のご子息に随分好意的だった様子でしたが」


「昔を思い出しただけだ」


 昔、何があった?




 さて、今日は夕刻からカレンたちと戦利品の買取価格報告と祝勝会?が行われる。

『幻燐竜ダンジョン』踏破のお祝いという事でカレンは良い店を予約していた。この街で平民が使うには最上級の店で高級な繁華街の中でも一際立派な店である。

 そう高級な繁華街、一本通りを挟んだ裏側には高級娼館があるような。

 待ち合わせの時間まではまだ一時間以上あるが、店主に銀貨を数枚握らせ使う予定の個室を早めに開けて貰い、長椅子でちょっと休むので誰も来ないように言い含める。


『魔法収納袋』から30㎝ほどの『カラスの置物』を出し魔力を込めるとカラスの目が光り「カーッ」と鳴いた。

『レイブン・メッセンジャー』は簡単な命令を聞いてくれる『ゴーレム』である。戦闘等には向かないが手紙の輸送、偵察などに使え、簡単な文句なら発声させることも出来る。

 頭を一撫でして「扉の外に人の気配がしたら声をかけて」と命令しておく。


 二階の窓を開け『魔法収納袋』から『ネコ集め鈴』を出して「チリリン」と鳴らし、すぐ止める。

 この『ネコ集め鈴』は鈴の音の聞こえる範囲の猫を集める効果がある魔法の品である。鳴らし続けると周り中の猫が集まって来るので使い方は要注意である。

 近くにいた10匹ほどの猫が二階の屋根の上にやって来てきたので、毛並みが綺麗で上品な佇まいの白猫の首に『魔法収納袋』から出した『支配者の首輪』を取り付ける。最初は大型犬の首輪ほどの大きさだが白猫の首に通すと「スルルッ」と縮んでぴったりのサイズになる。

『支配者の首輪』は取り付けた動物の五感を共有し操ることができる魔法の品である。なお、過大な痛覚や匂いなどはシャットアウトする機能が付いている。

 私の本体は長椅子で横になり、白猫の体で二階の屋根の上を歩いて一本裏の通りに向かう。


 日暮れ前のまだ明るい時間ではあるが気の早い者たちは繰り出し始めているような時間で、裏通りもそれなりの人通りがある。

 白猫が歩いてゆくと声を掛けられるので、「ニャアン」と答えると「え、シロが答えた!」「人に触らせないブランが首輪している?」とか驚かれているのでどうやらこの白猫は「高飛車なお姫様」キャラらしいということが解った。あ、女の仔である。

 その後も「ユキ」「ミルク」「ブラン」「ビアンコ」「スノー」などなどと呼ばれながらも無視し通りを進む。みんな無視されても「ミルクは可愛いね」「スノーはいつも釣れないなぁ」などと温かい目で見てきて、下手に撫でたり抱っこしたりして来ないので順調に進むことができる。


 高級娼館の館には小さいながらも庭があり高い塀で囲われている。門の表には男衆が二人ほど立っているが、こちらは塀の隙間から入って行くのでフリーパスである。表の庭やエントランスは良く手入れがされており、植栽で表から直接エントランスは見えず、誰が馬車から降りて来たのかは分からないようになっている。

 勝手口に回れば使用人たちが仕事をしているが白猫が近づけば「あら、今日は早いわね。ビアンコ」などと言って餌の準備をしてくれたりするが、今はさっさと開いた扉から中に入ってゆく。「あら、お腹減っていないのね」という言葉を背に、ここでも顔を知られていることが確認できた。

 開店準備に忙しい使用人の足元を抜け、上階に上がってゆく。一般に娼館では上階の方が格が高くなる。通りの馬車の音や騒音から離れられるし、眺望も良くなり、防犯対策も取りやすい。中にはいざという時のために「隠し階段」などが備わっている娼館もあるようだ。

 この建物は外から見た限り四階建てなので階段の各階ごとに男衆はいるがその横をとととっと上がってゆく。男衆も白猫を優しい目で見守ってくれている。

 さすがに四階に上がるところで「ここから上は駄目だぞーー、ブラン」と言って抱き上げられそうになったので、「ニャアン」と不満を表し離れる。大人しく三階の廊下を進み、適当に空いている窓からバルコニーに出て手すりに飛び乗り壁を覆うアイビーの蔦を登る。人間の重さには耐えられないだろうが猫には良い足場である。

 ガーゴイルの彫像を足場に四階の部屋のバルコニーに飛び移り各部屋を回り、黒髪の女性を探す。四階の各部屋は高級娼館の中でも格の高い娼婦の控室といくつかのスイートルームで構成されているようで、控室では着替えや化粧で忙しそうにしている女性たちがいる


 いた!

 他の部屋の女性たちは忙しそうに準備しているのに一人、長椅子に横たわり冊子を読んでいる黒髪の女性がガラス窓の向こうに見えた。

 シリンダーグラス(円筒法)で作られた歪みのない綺麗で透明度の高いガラスが使われている。高級品である。

 一般の家庭ではクラウングラス(円盤法)で作った真ん中に歪みがあり、円盤状に波紋が残る普及品のガラスが使われることが多い。

 うちの店も前面には店内が良く見えるようにシリンダーグラスが使われているが、店の裏側とか二階以上の居住区にはクラウングラスが使われている。


 バルコニーに降り立ち「ニャアン」と鳴きガラス窓をカリカリと引っ掻くと、冊子から顔を上げた女性が窓に近寄ってくる。

 ガラス窓を開けた女性は優雅に膝を折り目線を下げ、「あら、首輪?」と白猫の首輪に気が付き手を伸ばそうとして止める。灰褐色の瞳と小作りな顔という特徴からシャーロッテ嬢で間違いないだろう。

 シャーロッテ嬢が首を傾げているうちにするっと室内に歩を進める。


「珍しいわね。あなたから入って来るなんて」


 シャーロッテ嬢が窓を閉めて室内に戻りベルを鳴らし使用人を呼んで猫のご飯を命じている。元貴族の令嬢らしく指示する姿は自然で慣れている。また、娼婦とはいえ専用の使用人が付けられ、ある程度の地位が約束されていることが伺えた。


 室内は広くはないが家具や、色、デザイン、様式が統一され雰囲気は落ち着いている。シャーロッテ嬢は長椅子に戻り、冊子を再び開いた。顔見知りで室内に入れてくれたが、構う事は無いらしい。普段から勝手気ままなお姫様な猫なのであろう。


 白猫は室内を歩き回り棚や、机の上を見て回る。


「‥‥どうしたの? 今日は落ち着きがないわね」


 ふむ、普段はどこかお気に入りのところで丸まって寝てでもいるのだろう。

 棚にも机の上にも特段変わった物は無かったので彼女の足元に擦り寄る。


「本当にどうしたの、普段は触れもしないのに」


 使用人がミルクにパンを浸したものを持ってきてくれたので、口を付けることにする。

 残り物とかでなくて良かった。

 シャーロッテ嬢は食べている白猫の腰のあたりを優しくゆっくりと撫で始めて独り言ちた。


「ヴィートも首輪をして、そうあなたも囚われてしまったのね。私と同じ、いえまだ好きに歩き回れるあなたの方が自由ね‥‥」


 白猫が食べている間、シャーロッテ嬢は白猫の腰を撫でながら自分の境遇や思いを誰に聞かせるでもなく呟き続けた。


 解ったことはラリーが聞いていたシャーロッテ嬢の話が本当だったという事である。

 なんと、ラリーに淡い思いを抱いているのも本当だった。


「あの人もあれ以来、顔を見せてくれない‥‥、やっぱり‥‥」


 ご飯を食べ終えた頃にはシャーロッテ嬢の呟きもひと段落していたので部屋の扉に近づき、振り返って「ニャアン」と鳴くと、「仕方ないわね。あまり人に見つからないようにするのよ」と言って扉を開けてくれた。


 それから四階の間取りを確認し、人々の話に耳を傾け情報を仕入れて三階に降りようとしているところでカラスのレイちゃんに「カーーー」と起こされた。

 長椅子から上体を起こし扉に意識を向けるとカレンとダブスが入ってくるところだった。


「さぁ、今日はお腹いっぱいまで食べて、飲むわよ」


 カレンの宣戦布告にミルクパンのお陰で「お腹は減っているのに何故か満腹感がある」不思議なお腹を擦った。




 なお、白猫さんはその後無事戻って首輪を外して、何か食べ物を上げようか考えているうちにいなくなっていた。

 今度、改めてお礼の食べ物を持ってこよう。

 またね、ハク。




挿絵(By みてみん)


次回は明日、18:00頃に更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ