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事情聴取と似顔絵書き

ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。

 始めて入った高級娼館に気押されているうちに、ラリーは一人の高級娼婦と二人きりになっていた。彼女はシャーロッテと名乗った。年の頃はまだ16,7歳、成人したてであろう、腰まである長い黒髪とどこか遠くを見るような灰褐色の瞳が小作りな顔の中で目を引き、落ち着いた雰囲気と所作から高貴な生まれであることが察せられた。

 勧められるままに酒を飲み、話をする。彼女は聞き上手で酒が進むまま、ラリーは自分の事や仕事の事、家の事などを話してゆく。ラリーが自分は仕事も家族関係も上手く行っていることを話していると、彼女の顔が微かに愁いを帯びている事に気が付いた。

 どうしたのかと聞いたラリーに彼女は自分の身の上話を始めた。

 彼女は元隣国の貴族の娘で、父親が投資に失敗して貴族籍を無くし没落したそうである。そして彼女は借金の返済のため、身売りされたという事だ。


 この辺りの国では借りた金が返せない場合に期間を取り決めて自分の自由を売る借金奴隷と犯罪を犯したものが鉱山などで労働を行う犯罪奴隷という奴隷制度は一般的に存在する。

 娼館などにいる女性は親の言いつけで自主的に身を売ったことにされる借金奴隷の事が多い。大体は5年なりの期間を務めあげれば自由になって家族のもとに帰るか、その期間に知り合った男の元に後妻や愛妾として行くか、街で他の仕事を探すかとなる。

 また、娼婦を気に入った客が借金の残額と謝礼を上乗せして娼館に払えば年季の開ける前に身受けすることも可能である。娼婦本人が希望すればだが。

 それに高級娼婦であれば客を取る頻度も低く、元貴族の令嬢ともなればその知性、教養、礼儀作法を元に多彩な話術やゲーム、楽器の演奏、詩の朗読などで客を持て成すことが多い。

 そして彼女はまだ初客の付いていない状態、客と話をし酒を交わすがそれ以上の関係にはならない。所謂、顔見せのパトロン募集期間であった。


 彼女は家族と離れ離れになったことを憂い、故郷に帰りたいと泣いた。

 しかしそれが叶わないのなら自分の話を親身になって聞いてくれたラリーのような優しい人にパトロンになってほしいと。


 娼館からの帰りに合流したシーモアとその話をしたところ、彼女は既に人気が出ており幾人もパトロンに名乗り上げようという男がいると言われ、ラリーは頭に血が上った。

 何とか自分が彼女のパトロンになることは出来ないか、しかし子爵家の次男にそんな自由にできる金があるわけもない。

 思い悩むラリーの耳元にシーモアは囁いた。


「そういえば、前に君が言っていた『ジャンピングブーツ』だけど、実は僕の知り合いが欲しがっていて、高値でもいいから手に入らないかと言われていたんだ」


 後になって考えれば可笑しい話の流れだがその時のラリーは「それは良い話だ」と答え、すぐさま家から『ジャンピングブーツ』を持ち出してシーモアに預けてしまった。

「じゃあ、すぐに金貨を受け取って来るから」と言ってシーモアとは別れた。

 翌日になって落ち着いてから家の財産を勝手に持ち出してしまって何てことをしてしまったんだと『ジャンピングブーツ』を返却して貰おうと彼の定宿を訪れればすでにチェックアウト済み、紳士クラブで彼を紹介してくれた友人に連絡先を聞いても「いや、あの日初めて会ったんだ」と、慌てて隣国の先遣隊に問い合わせても「そんな人間は先遣隊にはいない」と言われる始末。

 ラリーは途方に暮れながらも父親であるスティアーズ子爵に正直にその話をして今は部屋で謹慎しているという事である。


「ふむ、お話を聞くとこちらの『ジャンピングブーツ』がランドン侯爵家の件に使用された可能性が高いですな。実は他の持ち主の物は既に現物と使用履歴の確認が終わっておりまして、こちらの物が最後の確認になるのです。まぁ、未登録の物があれば解りませんが」


 既に子爵の顔色は蒼白になり、何とか面を上げていた顔も俯いてしまっている。


「子爵、『ジャンピングブーツ』を騙し取られてしまったのは子爵家の落ち度ですが、それが犯罪に使われたのは子爵家の責任ではありません。ランドン侯爵家にもこちらから説明いたしましょう。しかし、社会的に責任が無いかと言われれば、そうとも言い切れない。この度の調査に全面的に協力していただくことは可能ですか?」」


 ベイトマン卿の問いかけにパッと顔を上げた子爵は口早に答えた。


「もちろんです!我が家で協力できる事があれば何でも仰ってください」


「では、まず謹慎しているご子息にいくつかの『魔法古物』を使う事をご了承いただけますか?」


 ベイトマン卿の言葉で一歩私が前に出て、『読心のメダル』を出して子爵に見えるように掲げる。


「そ、それは?」


「『読心のメダル』と言われる心を読む『魔法古物』です。これを使用しながら私からご子息にいくつか質問をさせて貰いたい」


「わ、解りました。ラリーを呼んで来てくれ」


 執事が了承して部屋を出ると部屋は重苦しい空気が支配した。

 私がベイトマン卿の横に移動し耳元に囁くと、ベイトマン卿が子爵に話しかける。


「ご子息ですが『ジャンピングブーツ』を渡してしまった時に薬物なり魔法なりで『魅了』されてしまっていた可能性が高いようです。『魅了』されていると相手の提案がさも正しい様に誤認させられることがあるそうです。その場合、ご子息の社会的責任はそこまで責められることは無いでしょう」


「本当ですか?」


「ええ、この後の私の質問に真摯にお答えいただければ」




 幾ばくかして部屋に入ってきた若い男は子爵に似た真面目そうな顔立ちで今は顔色もそっくりの蒼白であった。

 魔法公安委員会のバッジを胸に付けたベイトマン卿を紹介され挨拶を交わすと、不安げにその横に立つ黒いローブの私と後ろに無言で立つ衛士二人に目線を流す。

 口元をキッと結んでソファーに座ると、まっすぐにベイトマン卿に目線を向ける。


「私にご質問があるという事で、なんでも素直にお答えいたします」


「いい心がけです。ではまず、そのシーモアという男と出会った時の事から‥‥」


 そこからベイトマン卿が子爵から聞いた事を確認するための質問をして、ラリーがそれに答えベイトマン卿は時たま私に確認を求める。


「では、『ジャンピングブーツ』の事は出会ってすぐに話題に出ていたのですね?」


「はい、筏衆が器用に材木の上を跳ねて移動するのは一部では人気になっていまして、貯木場にも一緒に見学に行ったことがあります」


 ・・・・・


「お話のあったシャーロッテ嬢とはそれから会いましたか?」


「‥‥いえ、会うためにも大金が要りますし、あの後すぐ父から謹慎を言われましたので‥‥」


「会ったときには彼女にとても心惹かれていたようですが、今はどんな気持ちです?」


 ラリーは横に座る父親をチラッと見てばつが悪そうにしながらも答えた。


「今はもう、そんな気持ちはありません。あの夜は酒も入りそんな気持ちになってしまっていたんだと思います」


「身の上話で同情を引き男の方が自主的に金を出すように誘導するのが彼女たちの常套手段ですからね」


「‥‥はい」


 ・・・・・


 ベイトマン卿の合図で私はサイドテーブルに『水晶球』と紙と『ガラスペン』を出して用意をする。


「では、その男シーモアの容姿や特徴を教えてください。髪の色と長さ、髪質は‥‥」


『透視の水晶球:クリスタルボール・オブ・クレアボヤンス』は知っている場所や人物、物品を離れた所から見ることができる『魔法古物』であるが、人の心の中の映像を『水晶球』の中に映し出すこともできる。


 ラリーが口頭で答えるとともに『透視の水晶球』でラリーの心の中の男の特徴を見つつ、似顔絵を描いてゆく。


 ラリーが魔法使いであればこの『透視の水晶球』を使ってシーモアの居場所を探ることもできるし、『ジャンピングブーツ』が特徴的なものであった場合は売り元の私がその場所を見ることもできるのだが、今回はどちらも不可能であった。

 透視したい場所や人物、物品は特徴をよく知っているものしか透視することは出来ない。遠くの名前しか知らない街や一度しか会ってない人物、同じような見かけの物品などは透視する目標を特定できないのである。


 とりあえず、三ヵ月ほど良く会っていたシーモアの似顔絵は完成した。


 一通り聞き取りと似顔絵の作成を終えてラリーは部屋に戻った。


「それでは、本日の調査は終わらせていただきます。追加で聞き取りが必要なことなどが出ましたら、また連絡させて頂きますのでご協力をお願いいたします」


「はい。いつでも何なりとお問い合わせください」


「では、私たちはこれで失礼しますが、最後に一つだけ。ご子息ですがこちらの質問には嘘偽りなく真摯に答えていただき、誠実な青年であることが良く分かりました。ですが最後に一つだけ噓を言っていました。シャーロッテ嬢の事をもう何とも思っていないというのは噓でした」


「‥‥そんな、まだそんなことを言って‥‥」


「ご子息もまだ若い、一概に責めることも出来ないでしょう。その嘘をついた事で何か罰せられることはありませんのでご安心ください」


「お気遣いありごとうございます」


 我々はスティアーズ子爵家を後にした。






挿絵(By みてみん)




次回は明日、18:00頃に更新いたします。

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