『幻燐竜の鱗』買取金額‥‥
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「おはよう諸君、よく来てくれた」
明るく挨拶をくれたのは四十位の顎髭の王都冒険者ギルド長ショーン、その横に顔色の悪い買取責任者のデヴィッドが立っており、皆が挨拶を済ませソファーに腰掛けるとエリカが楚々とした仕草でお茶を並べてゆく。
「メリッサ、派手にやっているみたいじゃないか噂は聞いたぞ。『魔法収納袋』に花の箱を倉庫一杯分入れたって!名前は伏せられているがお前さんだろ」
「まぁ、ばれるわよね。聞く人が聞けば一目瞭然だもの」
ギルド長の言葉にカレンも呆れた風にこちらを見て、他の人たちも頷いている。
「何か他の話でさっさと上書きされないですかね?」
「まぁ、噂が出回っているのは花き業界とその周辺だけだからな。隣国の王族方の晩餐会やなんかの話題の方がデカいな。それに『幻燐竜ダンジョン踏破』の方はアーレイが貴族のお茶会とか夜会で大忙しらしいぞ」
「事前にお断りするよう頼まれていましたから、あなた方への貴族家とかからのお誘いは断っていますが、そろそろ無理かもしれませんよ。実際ジョナサンさんは既に駆り出されているようです」
私の希望的観測はギルド長とデヴィッドさんに別問題に挿げ替えられた。
「ムリムリムリムリ!貴族のお茶会とかで話をするなんて」
「うん。ギルド長、遠くで長期の急ぎの仕事は無いか?」
カレンとダブスも逃亡を企てている。
「やっぱり、神殿とかはお付き合いで大変なんですね」
私はお茶を一口啜る。
「ええ、ですが神殿の方はどこの貴族の催しに応じるか上手く差配しているようです。神殿との今までの関係や貴族間のしがらみを考慮して必要な最低限だけ出席しているようです」
「希少感を出す手法ですか。その辺上手いですね。神殿は」
デヴィッドさんが神殿の方角を見つつ頭を振るのに私が答える。
「結局、「青の風」のメンバーもまだ王宮に留め置かれたままだしな」
ギルド長も同じ方角の王宮の方を見つつ呟く。
「ゲイルさんたち、姿見ないと思ったら王宮にいるの?」
「ああ、隣国の王族方を助けたことで気に入られちまったようだな」
「うわーーー、貴族の家だけでも御免被りたいのに王宮って‥‥」
取りあえずエリカがお茶を入れ替えてくれて今日の本題に入った。
「では『幻燐竜の鱗』の買取についての確認をさせていただきます。まず、今回発見された68枚の『幻燐竜の鱗』ですが査定の結果、A-クラス24枚、Aクラス20枚、A+クラス18枚、Sクラス6枚となります」
デヴィッドさんの言葉にカレンが下を向いてグッと右拳を握った。
「全体的に非常に状態が良く、すべてA-クラス以上になります。以前の基準であればA-で金貨10枚、A11枚、A+12枚、Sクラスは15枚相当です」
カレンがグッと左拳も握った。
「しかし幻燐竜が元の世界に戻り、今後『幻燐竜の鱗』が手に入らないという情報の精査を現在行っているところであります」
カレンが呆けた顔を上げ、両拳から力が抜ける。
「情報の精査?」
「はい。買取金額を決める為には『幻燐竜の鱗』が今後、本当に入手できないかどうか慎重に判断する必要があります」
「慎重に判断?」
「もちろんメリッサさんの話を疑っているわけではありません。しかし第三者による確認が必要なのです。いま、幻燐竜ダンジョンの最下層の調査を計画しています。正式な買取金額の査定はその調査結果を待ってという事になります」
「調査結果を待って?」
さっきからカレンが壊れてしまっている。
ダブスの方に目配せすると頷いたので私が話を進める。
「解りました。では『幻燐竜の鱗』以外の買取金額の査定結果をお願いいたします」
「ちょ、メリッサ、待って!う、鱗は?」
カレンが狼狽えているので手を軽く叩き、冒険者ギルドの二人の方にも目配せし、カレンを落ち着かせるのを優先する。
「カレン、冒険者ギルドで買取金額の査定が出来ないという事は、現状ギルドで買い取って貰うことは出来ないという事です」
ブンブンとカレンが頷く。
「であれば他のところに売るか、買取金額が決まるまで私たちが所有し続けるとしかないです」
ブンブンとカレンが頷く。
「帰りの馬車の中でも言った68枚を全部すぐに売らずに年に3,4枚ずつ売りに出す方が良いという話は覚えていますね」
ブンブンとカレンが頷く。
「値崩れや高騰といった混乱をなるべく抑える為です。そして最終的にはその方が我々の利益になるのです。ですので、今回買取金額の査定に多少時間が掛かっても大きな問題はありません。カレンはすぐさま大金が必要ですか? 魔法塔からの報酬と『幻燐竜の鱗』以外の買取だけでもずいぶんな金額になりますよ」
「‥‥すぐには必要ないけど、金額が決まるのはいつ頃になるの?」
「現在、探索パーティの選定をしているんだが、幻燐竜が居なくなったとはいえ『幻燐竜ダンジョン』の最下層まで調査に行けるパーティとなると上級パーティになる。今王都にいる上級パーティは一つだけだ」
「じゃあ、さっさと行って来てもらえればいいのね。三週間くらい?」
ギルド長は王宮の方を眺めながら言っているがカレンは気づいていない。
ダブスがカレンの肩をポンッと叩き視線を王宮の方に向ける。
「「青の風」だ」
「ええ、じゃあいつになるか解らないじゃない。そうだ私たちがもう一回行って確認してくれば良いじゃない」
「カレン、第三者と言っているだろ。俺たちじゃダメなんだ」
「ええーーー」
「そういう訳で申し訳ないですが、買取金額の決定までまだ時間が掛かります。ですが、界隈ではすでに話が回ってしまっています。関係者を落ち着かせるためにも在庫を市場に速やかに流す必要があります。買い占めを目論む商会とかが出るでしょうがそれは厳しく対応し、魔法工房ギルドとも調整し各工房に流れるようにいたします」
「ギルドの在庫はどれくらいあるんですか?」
「一枚の四分の一ほどです」
「魔法工房ギルドで二分の一、魔法塔が八分の一うちにも八分の一ありますので合わせて一枚分ほどですか。通常の使用量であれば4か月分くらいですね」
「いや、あの爺さんどもきっと自分の持っている分、隠しているに違いないわ」
「だからカレン、自分の師匠様たちの事を悪く言わない。とりあえずその分を市場に流すとして価格をいくらにするかですね」
「そこでご相談なんですが、魔法工房ギルドとも相談して今までの5倍の価格でどうでしょうか?」
デヴィッドさんが伺うようにこちらを見ている。
「いいですよ。」
「はい? いいんですか?」
そんな吃驚しなくても、そんな暴利をむさぼる様な人間に見えます?
「ええ、元々持っていた在庫ですし魔法工房ギルドが納得しているならうちの分もその金額で出します。流通は冒険者ギルドに任せますので、どうぞお納めください」
『魔法収納袋』から小さい小袋を出してデヴィッドさんの前に送る。
「え、今、はい。では、後ほど売買契約を‥‥」
小袋を開け中の4㎝四方ほどの『幻燐竜の鱗』の欠片を出すと、眩い光が部屋に溢れるがデヴィッドさんは素早く大きさ、品質を確認し小袋に『幻燐竜の鱗』を戻した。
うん、ちょっと眩しかった。みんな目を反らすか瞑っていた。
「‥‥それから「メリッサ・スー魔法古物店」と「魔法大物工房」が受けていた中央劇場からの仕事の『幻燐竜の鱗』一枚分は旧価格のまま受けることで話が纏まっています。その話も同時に流してもらえば多少価格の抑制効果があるかもしれません。この一枚は私の分け前分という事でパーティメンバーからも了承を貰っていて、買取価格決定後に清算することになっています」
カレンとダブスが揃って頷いている。
「鱗一枚分って、随分大掛かりな仕事ですね」
呆気に取られたデヴィッドさんと、ギルド長は顎鬚を撫でながら聞いてくる。
「その劇場の仕事ってな、どんな仕事なんだい?」
「大型の舞台装置です。書割や背景幕の替りに精巧な背景を映し出して、観客の上や顔の間直に妖精やペガサスを飛ばすものです。ドラゴンブレスも行けますね」
「ほーーー、そりゃ人気が出そうだ。俺も出来たら見に行ってみよう。というわけで、申し訳ないが、『幻燐竜の鱗』の買取価格についてはこっちも急ぎで何とかするつもりだ。迷惑料ってわけじゃないがそれ以外の持ち込み品については査定に色を付けさせてもらった」
「では諸々の査定額ですが‥‥」
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




