冒険者ギルドのいつもの一時
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今日は二の鐘に冒険者ギルドでカレンとダブスと合流することになっている。
冒険者ギルドの朝は早い、王都の城門が開かれる一の鐘と共にギルドの扉が開かれ、その日の仕事を求めた初級冒険者たちが掲示板に群がる。薬草や鉱石などの素材集めなどは初級冒険者の仕事として日々、需要と供給がある。言い方は悪いが所謂その日暮らしである。
そして王都の冒険ギルドでは近場の魔物退治等の仕事は多くない。魔物が多い森などからは距離があるし魔物が森を出ても王都に近づく前の領地や街で討伐される。万が一王都近くで魔物が出ても騎士団が定期的に巡回討伐している。
では中堅から上の冒険者は何の仕事をするかというと、主に隊商の護衛や地方の街等で手に負えなくて王都の冒険者ギルドに応援要請としてきた依頼や希少な魔物素材の調達依頼などである。
隊商の護衛は拘束期間は長くなるが危険度は概ね低いものが多い、地方の冒険者ギルドで手に負えない仕事や希少な魔物素材の調達依頼などは危険度が高いが割が良い、どの仕事を選ぶかはその冒険者たち次第である。
そんな仕事は毎日あるわけでもないので中堅以上はある期間仕事をしたら、その後休みの期間を入れて、休みの間にそのパーティ向けの仕事が入ったらギルドの方から斡旋してくれる仕組みになっている。
という事で、今日も冒険者ギルドの建物は白い石造りの威風堂々な姿で聳えている。
二の鐘のちょっと前に冒険者ギルドに着いて中に入ってみると、素材集めなどの冒険者は既に出かけており、仲間と合流待ちの者や仕事にあぶれた者たちが飲食スペースにたむろしている。
飲食スペースは冒険者ギルドの一階の脇に30席位の椅子とテーブルが用意され軽い飲食が出来るようになっている。これが無いとギルド前の通りに武器を持って鎧を着た風体の厳つい者たちがたむろすることになってしまうので町の美観のためにも必要なスペースになっている。
最近は夕方前の人の少ない時位しか来ていなかったので今日は人が多く感じる。カレンたちはまだ来ていないようなので飲食スペースでお茶でもして待つ事にしよう‥‥
「おい、ねえちゃん。ここは依頼者用じゃねぇぞ」
と如何にも戦士というような厳つい風体の男が話しかけてきた。
冒険者ギルドの依頼者用窓口は同じ建物だがこことは別の通りに面したところにある。今いるところは冒険者に仕事を斡旋する冒険者用窓口である。
依頼者と冒険者の窓口を分けるのは依頼者と冒険者を直接接触させないためであり、その訳は依頼主の安全確保、個人情報の保護、情報の精査選別である。
依頼主の安全確保とはお世辞にも素行が良いとは言えない冒険者が多いので依頼主に危害を加える可能性を無くすためである。
個人情報の保護とは依頼者の名前や社会的立場などを冒険者に教えない、仕事上知ってしまったことを元に強請りたかりさせない為である。
情報の精査選別とは依頼主から聞いた詳細な情報をギルド側で一度精査し、冒険者には「必要な情報だけ」を公開するためである。
隊商の護衛などではもちろん同行するのだから顔を合わすことになるが、それ以外の依頼では基本的に依頼者と冒険者が顔を合わすことは無い。
まぁ、何事にも例外はあり、直接会って依頼したいという依頼主も偶にいる。
あと、直接会ってしまうと何度も同じ仕事をしているうちにギルドを通さず仕事を受けるようになりその結果、報酬や仕事の出来で問題になることがあるのでその予防でもある。
という事で私が冒険者だという事を知らない方が、親切にも窓口が違う事を教えてくれている。
「ありがとうございます。ですが仲間とここで待ち合わせていますのでお気遣いなく」
「おおーーい、聞いたか? こちらのお嬢さん。仲間と待ち合わせだとよ。じゃあ、お嬢さんは冒険者ってことかい?」
私の今日のコーデはワンピースにボディスという町娘風なので確かに冒険者には見えない。
男は近くにいた仲間と思われる3人の男に話しかけると、そのうちのスカウトと思われる男も話に参加してきた。
「あーー、薬草採集のお仕事はもう無くなっちゃいましたよーーー、代わりに俺たちが良い仕事を紹介してあげよう」
この4人以外にも飲食スペースには仲間と待ち合わせか時間潰しか10人くらいの冒険者がいるが皆、コソコソと話したりニヤニヤと様子を伺っているだけである。
受付に一人いる女性も下を向いてこちらを見ていない。
「ご親切にありがとうございます。ですが今日は仕事を探しに来たのではなく、別件ですのでまたの機会にお願いいたします」
「そんなこと言わずに、さぁ!」
と言って最初の男が私の肩に手を掛けようとして‥‥
クルッと男の体が宙を回って背中からギルドの固い床にバンッと大きな音を立ててぶつかった。
途端、周りで静観していた冒険者達から拍手と歓声が上がる。
「ほら! やっぱり背中から落ちただろ!」
「足を引っかけて顔面からじゃなかったか!くそ」
「チクショー!俺の銀貨3枚が!」
「お見事、いやーいい投げでした」
そして床に転がって呆けている男と仲間の三人を取り囲んで行く。
「お前さん方、これで解ったかい。この人は王都冒険者ギルド所属、間もなく上級冒険者になる‥‥」
「いえ、そこまでで!」
顔見知りの冒険者が何か得意げに私の事を語ろうとしているので止めます。
「取りあえず怪我はないですね?」
床の男に話しかけると男はこくこくと頷いて仲間の方に目を泳がす。
及び腰になっている三人は周りにペコペコ頭を下げ「すいやせん」などと言いながら倒れている男を起き上がらせてギルドの出入り口に向かった。外からはちょうど二の鐘が聞こえてくる。
入り口にはいつの間にかカレンとダブスが立っており、男たちと入れ替わりに入ってくるが、顔には「何やってんの?」と書いてあるようだ。
「メリッサさん。勝った金で奢りますよ。何を飲みます」
「カレンたちが来たので、また今度いただきます」
二人と合流し受付に向かうとエリカが笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます。お待ちしておりました」
背後からは「ほれ、お前なんかの誘いに乗るわけないだろ!」とか「いや、メリッサさん入って来た時、あいつら絶対絡むと思った」などなんか盛り上がっている。
「エリカさん、なんでさっき下向いていたんですか?」
「え、笑っちゃいそうだったんで、笑いをこらえる為に下を向いていました。彼ら一週間くらい前に王都に来たばっかりの人たちなんですけど、ちょっと素行が良くなくて、誰が締めようか話をしていたところだったんです。で、今朝メリッサさんが来るという事を聞いて理由付けて飲食スペースにいて貰いました。いや、予想通り過ぎる展開で笑いをこらえることが出来ず。はい」
「確信犯ですか!」
「メリッサがあんまりギルドに顔を出さないのも要因の一つよ。他の街から新しく来た奴らがあなたの顔を知らないから。そんな町娘みたいな恰好も格好よ、揶揄わないはずがないじゃない」
「私のせいですか?」
カレンの指摘に納得できず、顔を顰める。
「取りあえず、ご案内します」
エリカの案内で四階のいつもの応接室に案内される。
「ところでさっきの投げだが、手首を捻っただけでよく大の大人がくるんと回るもんだな?」
ダブスは階段を上がりながら首を捻っている。
「あれはこちらの力はほとんど使っていません。相手の勢いと相手の自重のバランスを利用するんです。人型なら相手が大きいほど効果が高いです。」
「まったく何処でそんなもの身に付けたんだか」
「独学ですよ。古代の武術の本で知りました。バテツというもので素手や杖、棒などを使った格闘術で護身術にもなります。力もあまり使いませんし杖術もありますから魔法使いに向いています。カレンも習得してみます?」
「わたしは遠慮しておくわ。エリカは酔っ払い相手にどう?」
「わたしもいいです」
「公園の子供たちには人気ですよ?」
「はい?!あんた公園で何してんの?」
「ランニングと体術と瞑想は毎日の日課ですよ。カレンやダブスはやらないんですか?」
「俺はランニングと素振りは毎日やっている」
ダブスがカレンから顔を反らす。
「わ、私もや、やってるわよ」
カレンは逆の方に顔を反らす
「そうですよね。冒険者は体が資本だし魔法を使う者はマナの循環を毎朝体で感じないとですね」
「そ、そうね。エ、エリカはどうなの運動は?」
「あ、私は運動は夜に‥‥」
そんなこんなで四階のいつもの応接室に着いた。
次回は19日、18:00頃に更新いたします。




