来客対応と仕事リストと賭場事情
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朝一番にカレンから冒険者ギルドとの打ち合わせが明日の午前になった旨の手紙を受け取った。
という事は、今日は何の予定もない。
朝のルーティーンを終え、開店準備をする。
冒険から帰ってきてから毎日バタバタと出かけている事が多かったので、久しぶりに店をちゃんと開けられるのがとても嬉しい。
店を開店するや否や店前に馬車が止まる音とカランッと店の入り口のドアベルの音が続けてした。
奥の作業場から店のカウンターに移動しお客さんに明るく声をかける。
「いらっしゃいませ。メリッサ・スー魔法古物店へようこそ」
初夏の重苦しさのないカラリとした爽快感がある風が店内に入り混んでくる。
お客さんは二十代前半ほどの目立たないデイドレスを着た貴族家の侍女さん風の女性だった。
「何かお探しですか? それともお売りいただける魔法の品をお持ちでしょうか?」
「このお店で『幻影の蝶々が飛ぶオルゴール』があると聞きました。そちらを頂きます」
女性は不愛想な態度で一方的に要望を述べた。
「申し訳ありません。ただいま在庫を切らしておりま‥‥」
「では速やかに手配してフリピン伯爵家へ届けてください」
「重ね重ね申し訳ありませんが、追加生産の目途が立っておらず‥‥」
「フリピン伯爵家のパミラお嬢様がご所望です。すぐに手配なさい」
フリピン伯爵家、王国の南西に領地を持つ伯爵家で丘陵地帯を領地としており小麦の農耕と南の国との街道が通っていることで交易の中間地点となっている。街道脇の大きな森には魔物も多く伯爵家主導の騎士団による討伐や商隊の護衛、街道の砦の整備等が行われている。現当主は三十前で一男二女、まだ子供たちは小さいと聞く。
『幻影オルゴール』の在庫は正直に言うとある。「蝶々」の物も「妖精」や「海の生き物」も、何なら幻影の『水晶球』、『鉢植え』、赤ん坊用の『ベッドメリー』までも。
しかし魔法工房ギルドの直営店や降ろしている雑貨商、小物屋、花屋、ベビー用品業者まで一旦店頭から在庫の撤去が指示されている。値段高騰による買い占めや暴落など読めない状況なため、短期的に販売を差し止めているのである。中期的に幻影素材の供給が問題なく行われることが確認出来たらまた販売再開となる手はずである。
何歳のお嬢様か解らないがご友人か誰かから見聞きした『幻影オルゴール』を欲しがっているのだろう。もしかしたらもう手に入らないレア物だとか自慢されたのかもしれない。
「誠に申し訳ありませんが素材の供給に問題があり‥‥」
こめかみに筋を浮かせ侍女さんは声を荒げる。
「あなたでは話になりません。店主を出しなさい」
『魔法古物商』のプレートの店名を指したあと、自分を指し示す。
「‥‥店主のメリッサ・スーと申します」
若い女性が店をやっていると舐められることもあるし、店主と見られないこともままある。特に貴族の関係の方をお相手する時に威丈高しい方も一定数いる。ただし高位の貴族家ほどその頻度は減る。なぜか、実際取引をさせて頂いて信頼頂いている侯爵家も幾つかあるし、初めてお会いする場合も、見た目は二十歳そこそこの小娘だが『魔法古物』を扱っているのだからただの小娘とは思わない。
なので、伯爵家だとピンキリで下手にプライドだけ高い家や使用人の方々に態度が大きい方がいる。
あと、一般のお客様はお客様の方が『魔法古物店』に慣れてないので様子を見つつで態度が大きい人は少ない。
「‥‥そうでしたか。では店主。もう一度言います。速やかに手配しフリピン伯爵家へ納めてください。値段に糸目は付けません」
「いえ、ですので‥‥」
30分後、何とかどの店でも手に入らないことを納得? 頂いてお帰り頂いた。
朝一番のお客様対応で疲れてしまったので一度ティーブレイクを入れる。
粉糖をまぶした胡桃のスノーボールクッキーとアッサムを入れる。丸いスノーボールクッキーはサクッ、ホロホロとした食感が口内に広がり、アッサムのコクと深みが胡桃の濃厚な油分や粉糖のしっかりした甘みを受け止めてくれて、疲れを吹き飛ばしてくれる。
そうそう、冒険の行き帰りでクッキーを大量に消費してしまったので補充もしなければいけない。このところ双子ちゃんにも会えてないので近いうちにお邪魔しよう。
ゆっくりお茶をして気分転換が終わったら、ここ数日で懸案となっているリストを作っておく。
明日
・冒険者ギルド:買取金額交渉
・スティアーズ子爵家訪問同行:『ジャンピングブーツ』の件
近々
・『幻燐竜の鱗』関係
代替品の調達:学院と魔法塔の研究者に相談
幻影素材の触媒の開発:学院の教授の紹介
魔方陣の改変・再構築:魔法工房と魔法塔の魔法使いの共同研究
・魔法古物商 東の国の『魔法杖』について
・中央劇場の大型舞台装置の製作監修
・読書
「グリアハーゲンの遺跡の当時の最新資料」
「霊魂師グリーンブッシュの著書」
「ゲルマイン鉱山の資源分布と魔物を使った採掘方法について」(途中)
・「銀の小麦」にてクッキー作り
連絡待ち
・石化解除 神殿・魔法塔 2体 依頼があれば立ち合い等
・魔法塔との研究
ワイマン師:バジリスクの凝視に関して
レスター師:アイアンゴーレムの解体について
ゴーレムの核の霊魂に寄る代用について(長期)
あれ? 案外あります。
多くは『幻燐竜の鱗』関係と魔法塔へのお土産関係になるがそれ以外もそれなりに‥‥、一つずつ片付けましょう。
まずは学院と魔法塔への協力要請関係への手紙を何通か認めて発送する。こちらは子供に届けて貰うわけにもいかないので、子供たちに王都内の郵便員に届けて貰いそこで配送してもらう。
魔法工房ギルドと魔法大物工房、後一か所への手紙は子供たちに一緒に頼んだ。
中央劇場の大型舞台装置の見積と設計図等の関連資料を取り出し、製造工程をもう一度お浚いする。この舞台装置についてはランドン侯爵家がパトロンについており、設計図自体はずいぶん前に出来上がっていて『幻燐竜の鱗』以外の重要な素材の手配は終わっている。素材が全部揃った事によりやっと製作に入ることができる。すでに何度も魔法工房ギルドと魔法大物工房の魔法使いさんたちとも打ち合わせをしているので後は「GO」を掛けるだけである。
と、その前に『幻燐竜の鱗』の買取価格を冒険者ギルドと詰めて、何枚いくらで売るのか決めなければならない。そして、売らずに仲間で分けた内の何枚かを魔法工房ギルドへ売却する。それで初めて製作開始となるので明日の冒険者ギルドとの打ち合わせは重要である。是非とも明日の一度で決着を付けたい。
その後は来客もなく午後は「グリアハーゲンの遺跡の当時の最新資料」を読んで店番をする。遺跡の入り組んだ構造と出てくるゴーレムの種類の多さに驚き喜び読み進めていると子供たちが帰ってきて一通の封筒を渡してきた。
ちょっと後ろ暗い所へ出した手紙への返信である。
さて、王都では賭け事は禁止されていない。平民の間でもサイコロやカード、ボードゲームの賭博などは日常的で、貴族様たちも同様だし年に一度の競技大会では優勝者を当てる王国公認の賭博もある。それは日常生活の中でのそれぞれの生活水準にあった適度な金額の賭博である。
しかし、身を亡ぼすほどの高倍率、高額の賭け事は禁止されている。実際過去には貴族が家宝の宝飾品や剣甲冑、屋敷、酷い時には領地や爵位を掛けて破滅するという事が起きたこともあり、今は王国法で禁止されているし、負けても賭け事の無効を申し出ることもできる。
まぁ、実際にはそんな賭けをしてしまう貴族はまだいて、宝飾品などはやり取りされているらしい。貴族の見栄として払わない訳にはいかないという事だろう。
なぜ、賭け事の話になったかというと貴族が賭け事で身を亡ぼすという事は良くある話なのである。なのでスティアーズ子爵家の関係者がそういう高倍率、高額の賭場へ出入りしていないかの確認をしたのである。
そういう賭場は裏の世界の話であり表立ってはあまり関係を口にできない。
しかしその裏の世界でも『魔法古物商』は需要があるのである。
なぜか? 『魔法古物』を使っていかさまをする人間がいるからである。
『読心の薬』、『透視の指輪』、『千里眼の水晶球』、『魅了の首飾り』、『テレキネシスのメダル』等々いかさまに使える『魔法古物』は多く存在する。多くは今の魔法技術では製作できず魔法工房等でも作られることはない。
そんな『魔法古物』は私が持っている『魔法発見のモノクル』とかで賭場でもチェックしているので乱用されることは少ない。
が、不届き者がまったく居ない訳ではない。偶に自分の家の家宝とかを勝手に持ち出した貴族の坊ちゃんが賭場で大はしゃぎしてしまうことなどがあるらしい。
そんなことがあるとその『魔法古物』は賭場で没収され効果を鑑定する必要が出る。そこで『魔法古物商』の出番である。『魔法古物商』でも『鑑定』の『魔法古物』を持っているところはそんなにないので私のところに話が来ることがある。
そんな伝手で賭場の元締めとは面識があるので、今回安くない情報料は払ってスティアーズ子爵家の関係者が出入りしていないかの確認を頼んだが白であった。
スティアーズ子爵家の関係者は裏の世界の賭場には出入りしていない。
後は上流階級の男性専用の紳士クラブなどでやっている可能性だが、それはこちらでは解らないのでベイトマン卿に期待しよう。
ちなみにおいたをした貴族の坊ちゃんは身柄を押さえられ、『鑑定』された『魔法古物』の価値と一緒に和解金という名の身代金を請求される。
さらにちなみに胴元は『魔法古物』を使用して‥‥‥。
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




