王宮庭園局温室への納品
ブックマーク、評価、誤字報告 ありがとうございます。
昨日、夕ご飯に満足して帰ると衛士のマシューからは子供伝手で手紙が届いていた。
スティアーズ子爵家への対応はベイトマン卿が動くことになったが、出来れば同席してほしいという事だった。また、貯木場では特段の情報は無かったという事だ。筏衆は日々領地に戻ってまた下って来るというサイクルを一週間くらいで繰り返しているという。人の入れ替りがあるので今日以降も小まめに顔を出して情報収集してみるそうである。
今日は朝から王宮に顔を出さなければいけないので、昨夜認めておいた返信を子供たちに託し、衛士の詰め所に届けてもらう。
二の鐘の音と共に馬車が店の前に止まり、待ち構えていた私は業者の手を取り馬車に乗り込み、花きギルド長と販売業者代表と挨拶を交わす。馬車も私を含めた三人の服装も王宮に上がるための豪華さと分限をわきまえた地味さの絶妙なバランスになっている。
車内では最終の段取りの確認をしながら馬車は進む。王城へ向かう道は警護が厳しくなっておりいつもより頻度が高く騎士による確認が行われ車内の人間の身元確認もされる。我々が向かっている王宮庭園局の温室は王宮内でも裏方の場所にあるので賓客が出入りするところではないが王宮に入る最後にチェックでは一度降りて、身元の書類確認と持ち物、車内外の荷物のチェック、隠し場所の検査が行われる。
花きギルド長と販売業者代表と御者は持ち物を全てトレイに出させられて白い鎧の騎士たちがチェックを行うが、私の持ち物検査は騎士の後ろに立つ灰色のローブを着てフードを被った人物が騎士の隊長に一言二言呟くと省略された。
その後は王宮の城壁を無事に越え、花きギルド長と販売業者代表は複雑な顔をしているが余計な事は何も言わずに馬車は王宮庭園局の温室に向かった。
王宮庭園局の温室は戦場の様であった。何十人もの人間が作業着に防水のエプロンをして腰には花用のハサミやナイフ、その他の道具を入れたベルトを回している。何十もの種類の花々を桶から出してハサミ等で茎の下部分を切り水揚げをし、余計な葉を落とし種類ごとに別の桶に入れてゆく作業を職人技の速さで行っている。出荷準備が終わった花々は台車に積まれて王宮内の必要箇所に丁寧にされど速やかに配送されてゆくようだ。
一瞬圧倒されていた私たちに責任者と思われる40歳くらいの貴族なのに当りの良さそう男性が話しかけてくる。
「花きギルド長、ようこそいらっしゃいました。そちらがお噂の古物商様ですね。始めまして私は王宮庭園局の責任者フランシスと申します。この度はご助力感謝いたします」
〈ランドン侯爵令嬢のお茶会のお花を受け取りに来ました〉
[カクテル・レセプションのカサブランカが開き過ぎてしまっています。替りの物はすぐに出るでしょうか?]
「フランシス様。初めまして魔法古物商のメリッサ・スーと申します。よろしくお願いいたします」
〈そっちの倉庫の右端に積んであるのがそうです。〉
[開始までは1時間もないわね。カサブランカはちょうどいい開き具合の物は無いから替りにマドンナ・リリーの在庫を三番の温室に行って貰って]
「では、少々立て込んでいるので申し訳ないのですが早速、「スプリングリリィ」を出していただく温室にご案内いたします」
ご丁寧に挨拶は頂いたが、バタついている事は良く伝わってくるので皆で移動する。
直ぐ近くの広い温室は温度が高めに設定されているようで入ると少し蒸し暑く奥はスペースが開いている。
本来、初夏の温室は明るい陽光を受け温度が高くなってしまうため、換気やネットやカーテンでの遮光、ミスト散布などで温度を下げる必要があるが今は開花を促すため温度を上げる必要があるのでそれらを調整して温度を高めにしているようである。
逆に温度を上げるためには日差しを水タンクや床に敷いたレンガなどに蓄熱させたり、ガラスを二重にして空気層を作って断熱効果を上げたりすることになる。
なお、魔法工房の作った『空調』や『ミスト』の魔法大物では足りないところを専属の魔法使いや魔法塔からの応援の魔法使いが、『闇の壁:ウォールオブダークネス』や『薄霧:ミスト』の呪文で調整したりしている。
忙しいようなので軽く目礼で挨拶だけしておく。
入口近くに作業台と10人ほどの庭園局の職員さんが待機しており、フランシス様と販売業者代表の方がファイルを片手に出す順番の最終の話し合いを行う。
周りの人間の注目を集めながら指示通りに「スプリングリリィ」の木箱をまずは一山『魔法収納袋』から作業台の横に出す。
「「「「おおおおおーーー‼」」」」
「すぐに蕾と葉の品質のチェックをしてください。湯揚げが必要なものはこちらに分けて後で纏めて行います。まずは品質が大丈夫なものからジャンジャン流してください。メリッサ嬢、後三山こちらにお願いします」
人々の驚愕を即座に抑え、フランシス様が指示を出すと、すぐさま反応した庭園局の職員さん方が木箱を開けて品質チェックに掛かってゆく。
その後は温度帯の違う温室や倉庫などに在庫を山積みにしてゆく。
「さぁ、晩餐会まで時間がないですよ。開きかけているものからジャンジャン水揚げして温度帯の高い温室に入れて下さい」
一通り出し終わるとフランシス様の指示のもと、大勢の職員さん方が素早い流れ作業で一糸乱れず花を処理して行く光景はある意味壮観である。
「さぁ、これで何とか晩餐会までの目途は立ちました。あとは皆でやっつけるだけです。ありがとうございます」
お礼を言ってくるフランシス様に目礼で返し、私と販売業者代表は花きギルドの倉庫へ残りを納品する為にお暇を伝える。なお、ギルド長はある程度まで作業を見届けるのと、不測の事態の対処の為こちらに残るそうである。
馬車を巡らし花きギルドの倉庫へ向かえばこちらも倉庫の作業員の方々がまだかまだかと待っていたようで出す都度、驚愕の声を上げるもすぐさま品質チェックと倉庫への搬入が始まった。
あ、ウェンディが臨時仕事で倉庫の温度管理のための氷の作成をしている。
手を振ったらあちらも返してきたが忙しそうなので早々にお暇した。
まだ日が傾きかける前、六の鐘には帰宅できた。
ケイティさんと旦那さんには無事納品が終わった事を伝え、お互いを労った。
衛士のマシューさんからの今日の手紙には貯木場は進展なし、スティアーズ子爵家へベイトマン卿と同席する件については明後日の午後、馬車を回してくれることが書かれていた。
カレンからも手紙が来ており、『幻燐竜の鱗』の買取価格の件で冒険者ギルドが一度、正規の席を設けたいと言ってきているという事で明日と、明後日の午前中なら可と返事を送っておく。
子供たちに手紙を頼み、お礼を渡し残った子供たちから街の噂話などを仕入れる。
明日も忙しくなるかもしれない今日は早く休もう。
あーー、冒険者ギルドに預けたままの「ゲルマイン鉱山の資源分布と魔物を使った採掘方法について」の続きが気になる。
書籍だけでも早めに査定を終わらせてもらおう。
*メリッサが帰った後の温室にて
花きギルド長と王宮庭園局責任者フランシスの会話
「そういえば王宮には花の品質を把握し、咲き頃を調整する『花の精霊』と親交のある精霊使いがいるって聞きますが本当なんでしょうか?」
「ああ、その噂ですか? 半分本当ですよ。今、目の前で作業している彼らが花の品質を把握し、咲き頃を調整している『花の精霊』ですね」
「‥‥なるほど」
「これは聞いていいのか解らないのですが、『魔法古物』の王宮への持ち込み申請というのは伝手を使えば即時対応して貰えるものなのですか?」
「‥‥伝手に寄りますね。容量に寄りますが『魔法収納袋』のように中になんでも入れられるような危険な物を王宮に持ち込むのですから普通なら許可は出ないでしょうね。万が一許可が出たとしても入城時に一旦中身を全て出させてチェックしてからとかですかね」
「では、今回のメリッサ嬢の件は‥‥」
「よっぽど強力な伝手があったのでしょうね。私も連絡を受けてびっくりしました。でもねギルド長、あの娘さんは我々が困っているのを何とかしようとその伝手を使ってくれたのでしょう? あくまで平民の『魔法古物商』という立場で。ならこちらも野暮な詮索はせず感謝の気持ちだけは忘れないようにすべきではないですかね」
「‥‥解りました。他に事情を知っている関係者にも周知しておきます」
「それが良いでしょうね」
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




