賓客来訪の様子と上級冒険者と衛士問合せ
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朝の目覚めはさっぱりしていた。
昨日は寝不足のまま一日外回りをしていた。緊張しているうちは良かったが、エリカとカレンが帰った後はどっと疲れが出た。
近場の屋台で夕飯を済ませた後はパン屋兼風呂屋「銀の小麦」でゆっくり湯に浸かり、帰宅後は早めに寝たのが良かった。
日課のランニングとトレーニングを東街区の方面で行っていると昨日の王子様、王女様の到着を見た人々の話を聞くことができた。
見慣れない隣国の騎士隊の馬列に守られ、四頭立ての貴賓用なれど実用性を兼ね備えた長距離移動馬車と随行馬車、荷物馬車が連なる。馬車の窓からは14歳の第二王子と16歳の第一王女がその高貴な姿を街頭に並ぶ人々に現し、手を振っている。
もちろん前後には我が王国の白い甲冑の騎士隊も付き、街頭には緑色の甲冑の騎士隊と正装の衛士隊が警備に立っている。
特段の騒ぎも起きず、街頭からの歓迎も受け、一行は無事王城へ入場したという事だ。
そして王子様、王女様一行を魔物から救った冒険者パーティの話も広がっている。
「青の風」と呼ばれる王都冒険者ギルド所属の上級パーティだ。
メンバーは仕事内容によって入れ替えが行われるが主要メンバーは5人、戦士ゲイル、女戦士バーナ、神官ジェフリー、魔法使いマクスウェル、弓使いヘンリーになる。
冒険者や冒険者パーティに明確なランクなどはない。では何をもって上級パーティと呼ぶかと言えば実績と冒険者ギルドからの信頼である。ある程度の期間、同じ仲間でギルドからの依頼を熟し実績を積むことによってギルドからも周りの冒険者からも認められ自然と上級パーティと呼ばれることになる。
そしてパーティ名もある程度長い期間同じ仲間で活動した上級パーティが自然(一部自称)と呼ばれるものである。中には討伐の恩賞で貴族や国から賜る場合もある。
そもそも冒険者などというものは同じ仲間で長く活動する方が珍しい。全員が初心者でパーティを組んでみんな仲良く経験を積んで行ければいいが、全員初心者では危険が多い。
中堅パーティに荷物持ちを兼ねて同行を許してもらい経験を積み、ある程度実力が付いたところで同じくらいの実力のメンバーを集めるのが一般的だ。
そして一度、パーティを組んでも「リーダー権の争い」「戦い方の違い」「目的の違い」「分け前の不平等」「男女問題」などなど様々な理由で袂を分かつことになる。
その過程を経て気の合う2、3人の小集団が出来て、それがまた集まり「同じような価値観」を持ったある程度続く可能性のあるパーティになる。
なので中堅冒険者になってもくっついたり離れたり、もしくは臨時で応援に入ったりするので冒険者はパーティ名をわざわざ決めたりしない。
下手に付けるとパーティが別れてから「元〇〇団」とか周りから揶揄われることになる。
なお、ダブスたちはそろそろパーティ名を決めた方が良い。早めに自分たちで決めておかないと自分たちの感性に合わない「格好良く恥ずかしい」パーティ名などが公然の事実として広まってしまい訂正が利かなくなることもある。
今日は夕方に花きギルドと打ち合わせはあるがそれまでは時間があるため、久しぶりに店を開けた。
二週間以上店を開けていなかったら普通の商店ならお客が離れてしまうところだが、『魔法古物店』は特殊なのでそこの心配はしていない。
その証拠にカランッと店の入り口のドアベルの音がした。
奥の作業場から店のカウンターに移動しお客さんに明るく声をかける。
「いらっしゃいませ。メリッサ・スー魔法古物店へようこそ」
開け放たれた扉から、若葉の香りを孕んだ風が滑り込んできて、姿を現したのは衛士の格好の見知った二人だった。
お客さんではない‥‥‥。
「おはようございます。メリッサさん」
衛士のマシューとヴィクターがにこやかにカウンターに近寄ってきた。
接客のプロなので落胆の様子は顔に出さずにこちらもにこやかに受け答えをする。
「お疲れ様です。巡回にしては時間が早いですね」
「あれ? お隣の花屋さんから伝言聞いていません?」
マシューが隣の花屋の方に顔を向けながら聞いてくる。
話を聞くとどうやら一昨日頼んだ伝言が「スプリングリリィ」の騒ぎで伝え損なってしまっていたようだ。
「冒険者ギルドから王都に戻ったとは聞いていたので昨日も二回ほど来たのですが、不在で」
「すみません。昨日は外出する用事が多くて、それで今日は朝一番でいらっしゃったんですね。ではご用件を伺いますがその前にお茶でもどうですか?」
私はソファーセットを指し示しつつ、カウンター裏に移動する。
スライスアーモンドの入ったクッキーと普通のお客さん用の紅茶を二人は美味しそうに口にしている。
「で、ご用件の程は?」
「あぁ、はい。実は『ジャンピングブーツ』の取引記録を見せて貰いに来ました」
「『ジャンピングブーツ』ですか。確かに半年前に販売しましたね」
「そう、冒険者ギルドからのこちらへの販売記録を追っています」
カウンター背後の壁に掛けてある”魔法古物商“のプレートを久しぶりに確認する。
*
•取引の記録義務:
取引内容(取引年月日、魔法古物の品目・数量、相手の身元情報など)を帳簿などに記録し、一定期間保存する義務が課せられる。
•その他:
衛士、魔法公安委員会による立ち入り検査に協力する義務がある。
*
盗難、侵入、逃亡等の犯罪行為に使用可能な『魔法収納袋』『透明マント』『ガス化』などこれらの効果をもつ魔法の品は三年前に布告された“魔法古物営業法”の附則によって所有者の明確化と取得資格審査、「魔法公安委員会への所有者の報告」が必要になったが『ジャンピングブーツ』は該当品になるか審議されたが見送られた。
出回っている数が多い事と諸々の高所作業現場で使用されることから建築・大工ギルド方面からの圧力があったようだ。
よって「魔法公安委員会への所有者の報告」がされていない為、所有者の来歴は冒険者ギルドや各『魔法古物店』の取引記録を追うことになる。
「少々、お待ちください」
私はカウンター裏の『保管庫』の『鍵』を開け、中から「古物台帳」をトレイに乗せて戻り、お応接セットのテーブルのカップを一旦サイドテーブルに片しトレイを置く。
「古物台帳」を開き『ジャンピングブーツ』の記録を探す。
「年月日」「品目」「数量」「工房名」「製造番号」「鑑定書番号」「売却金額」「購入者名」「ギルド証番号等」等の記載から合致する行を見つけマシューたちに向きを変えて見せる。
目を通した二人の視線が「購入者名」「ギルド証番号等」の欄で止まる。
マシューが懐からメモ帳と『ペン』を出し「ラリー・スティアーズ」「スティアーズ子爵家証明書」と書き留めた。
マシューは衛士だがもしかしたら実家は良い所かもしれない。
インクが長持ちする『ペン』は一般に出回っている魔法小物だが一衛士が持つには高級なものである。
「こちらの子爵家の証明書も保管されていますね?」
「はい、お待ちください」
証明書を持ってきて渡すと「お預かりします」と言い、マシューとヴィクターがテーブルの中央に頭を寄せてくるので私も前のめりになり頭を近づける。
「ここからは内密で、ランドン侯爵家に侵入者があった件です。実は侵入者は3mの塀を飛び越えて侵入及び逃走したのです。事件は一週間前に起こって、王都で登録されている『ジャンピングブーツ』で持ち主が追えていないのはこちらの物だけになります。それ以外は持ち主と現物を確認し保管状態などの聞き取り調査をしてシロでした」
「なるほど、ではこちらの物が犯行に使われた可能性が高いと?」
「解りません。私たち衛士は上に言われるまま取引記録を調べているだけですから。実は我々、その騒ぎの時に応援で侯爵家の周りの警護をしていたんですが、目の前で逃げられてしまって‥‥。まぁ子爵家が絡んで来てしまっては魔法公安委員会に報告を上げて後はあちらの案件になってしまいますが‥‥」
「お二人はそれでいいんですか?」
次回は明日、18:00頃に更新いたします。




