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魔法塔の人々

ブックマーク、評価 ありがとうございます。

「では、次はアイアンゴーレムをお願いしようか」


 鉄で出来たと見られるその武骨なデザインの体は体長が4mほど、胸部と頭部に鉄球がぶつかって破壊された跡と、頭部の隙間から破壊された赤い核が覗いており、両手を広げた立ち往生の姿勢で作業場の中央に鎮座している。


「ふむ、こちらは無傷とはいかなかったようじゃな。なるほど、核の埋め込まれている可能性の高い胸部と頭部を物理的に破壊して核を露出させて、止めは『魔法の矢:マジックミサイル』か、で磁力による鉄の引き付けにはどう対処したんじゃ?」


「それについては鎧や武器、装備類は『魔法収納袋』へ収納し‥‥」


 討伐時の状況をカーツマン師に説明し始めたところで作業場の開いた扉からガーゴイルがバサッバサッと飛んで入ってきた。顔立ちが違うので受付していたガーゴイルとは別個体である。ガーゴイルも姿形が全く同じものもあるし、よく見ると顔立ちや身長体形が個体によって違うものもあり観察すると面白い。きっと製作者の趣味嗜好で違いがあったりなかったりするのであろう。

 なお、魔法塔にいるガーゴイルは魔法塔の魔法使いの使い魔であり、ダンジョン等で遭遇するゴーレムの魔物とは違う。契約に寄り召喚されたものである。

 ガーゴイルがアイアンゴーレムの周りを飛んで回って観察しているのを我々も黙って観察する。エリカだけちょっと驚いた顔をしている。

 観察し終わったガーゴイルはアイアンゴーレムの頭に留まって我々に口を開いた。


「俺の作業場に運んどいて、時間ある時に解体するから」


 その口からは50代くらいの男性の声が発せられた。


「レスター師、顔ぐらい出して挨拶くらいできんのかね?」


「ああ、いまちょっと忙しいんだよ」


 両手を上に向けてカーツマン師が肩を竦める。


「レスター師、メリッサです。お久しぶりです。アイアンゴーレムの磁場発生機構について私も興味があり、解体時には同席したいのですが構いませんでしょうか?」


 私はアイアンゴーレムの上のガーゴイルに話しかける。


「メリッサ嬢、君、ゴーレム関係も興味あるの?」


 疑わし気な声がガーゴイルから発せられる。


「はい、内部機構として電磁石の仕組みが埋め込まれているかと推察しているのですが、その場合コイルの素材や巻き数、鉄しんの素材や大きさ、プレートメールを引き付けるほどの磁力を発生させる電流の発生源は何になるのかなど気になります」


「‥‥ふーーん。じゃあ、解体する時には一報、入れるよ。じゃあ、俺はこんなところで‥‥」


 多少は興味を持って貰えたようだ。


「それから、グリアハーゲンの遺跡についてもご意見いただきたい事があるのですがこの後、お時間を少し頂くことは可能でしょうか?」


「‥‥君、その情報どこから‥‥、まぁ、いいやそっちの要件が済んだら俺の研究室まで来なよ。じゃあね」


 そう言うとガーゴイルは飛び去って行った。




 入れ替りに男性と女性一人ずつが作業場に姿を現した。

 20代後半ほど、草臥れたローブに背中に流した金髪、顔つきは精悍で色艶もよろしい、魔物の生体及び素材の活用法、特にスライム関係に造詣が深いフリードマン師である。十長老には入っていない中堅の研究者になる。

 女性の方は20代中盤、暗い栗毛の髪を後ろで纏め、長身で肉感的な身体をキッチリと地味なグレーのドレスに包んで、フリードマン師の斜め後ろに控えている。切れ長な目と無表情が突き放したような印象を与えるが、人に寄ってはそれが凛とした感じで良いという者も居そうだ。

 ガーゴイルが飛び立っていくタイミングとばっちりに入ってきたことから何処かでこの作業場の状況を把握していたことが伺える。


「で、ブラックゼリーが捕獲出来たって本当?」


 挨拶もなくフリードマン師が尋ねてくる。

 目元を押さえたカーツマン師が黙って私の方を掌で指し示した。


「はい、こちらが今回捕獲したブラックゼリーになります」


 部屋の隅に寄せた作業台の上にブラックゼリーの入った二つのガラス瓶を置台ごと出す。

 ラベルには「ルナ」と「ステラ」の文字が記載されている。


「こちらが捕獲してから与えた餌の種類と量、反応の記録です。よろしければ参考にしてください」


 ファイルされた紙束も作業台の上に置く。


 ガラス瓶をじっと見つめたフリードマン師は徐にガラス瓶を取り上げるとそのまま、扉に向かった。


「フリードマン君、どこに行くのかね?」


「え、これを受け取りに来ただけだからもう研究室に帰りますが?」


「いやいや、メリッサ嬢やカレンに礼の一言もないのかい?」


「ああ、ご苦労様。報酬はカーツマン師から受け取っておいてください。では」


 すたすたと作業場を出てゆくフリードマン師の後を、記録ファイルの紙束を丁寧に取り上げ、大きく頭を下げた侍女が後を追ってゆく。


 ああ、「ルナ」と「ステラ」が行ってしまう‥‥‥

 餌を強請るウゾウゾとした動き、餌を食べてるときの嬉しそうな脈動‥‥

 一緒に野山を駈け、花畑でお昼寝を‥‥したことはないな。

 さようなら、元気で暮らすのよ。

 手を伸ばしそうになるのを我慢する。


「まったく、これだから魔法塔の魔法使いは人付き合いが出来ないなんて言われてしまうんじゃ」


「お気になさらず、カーツマン師。こちらは気にしていませんから」


「すまんなメリッサ嬢、お前さんやカレンは慣れているからまだしも、エリカ嬢には不快な思いをさせてしまって申し訳ない」


 大きく頭を下げるカーツマン師にエリカが答える。


「こちらもお気にしないでください。ギルド長はそういう事も含めて今回、私を魔法塔へ派遣したと思いますから」


「ふむ、それもあるかな‥‥。では報酬の話をしようか。ブラックゼリーは金貨30枚、アイアンゴーレムは‥‥」




 応接室に場所を移しお茶を飲み、売買手続きを済ませ、報酬を受け取りホクホク顔のカレンに忘れていそうなことを告げた。


「では、私はこの後、レスター師と少しお話がありますが然程時間は掛かりませんので、エリカはちょっと待っていてもらえますか? カレンはチャットン師に顔を見せますよね。ゆっくりしていってください。」


「待って、私も一緒に帰るから。置いてかないで!」




 私は一人、四本の塔の一つに上っていく。カレンは別の塔に向かった。

 石造りの螺旋階段を上ってゆき、いくつかの扉を過ぎると『レスター師』のネームプレートがある扉をノックする。

 中からの「どうぞ」との応えに扉を開く。

 部屋の中は魔法塔の中では一般的と思われるくらいに散らかっている。壁際の棚や床には何種類もの本や様々な素材、諸々の得体の知れないもので溢れ、その棚の一角で三体のガーゴイルが羽を休めている。足の踏み場が所々しかない床の先には大きな机があり、椅子に座ったレスター師が資料を広げ、顔をこちらに向けた。50歳くらいの灰色のローブに長い黒髪を後ろで結んで口回りには髭を蓄えた男性だ。


「失礼します」


 一声掛けて床の本などを倒さないよう注意しながら机に向かう。


「君はグリアハーゲンの遺跡についてどこから聞いた? どこまで知っている? 遠い国の遺跡でこの国では遺跡の存在自体知る者は少ないはずだ」


 近づく私にレスター師は胡乱な目を向けてくる。


「最近できた新しい知り合いから聞きました。アヴェンタイン帝国カンタブリア朝の歴史に詳しい方で、当時の帝国の衛星国家であった国々の遺跡の事も良くご存じでした。その中でグリアハーゲンの遺跡の話題も、ですがゴーレムの製造工房があったという事以外の詳しい事は存じ上げません」


「ふん、それで俺に何を聞きたいって?」


「はい、グリアハーゲンの遺跡にゴーレムの素体はあるか? 霊魂に寄るゴーレムの核の代用が可能か? と言ったところです」


「ふん、随分面白い事考えているではないか。一つ目の答えは行ってみなければわからんというところだが、可能性はある。6年くらい前にグリアハーゲンの遺跡から発見されたという触れ込みで『生きている彫像:リビングスタチュー』の素体がクラクストンのオークションに出たという話は聞いた事がある。金貨500枚で落札されたそうだ。落札者は不明だな。グリアハーゲンの遺跡はまだまだ未探査のエリアが多いと予想されている。未探査エリアにゴーレムの素体がある可能性は高い」


 レスター師はガーゴイルの一匹に「おい、あれを」と声をかける。ガーゴイルは器用に棚を横移動し一冊の本を足に掴むとバサッと飛んで私の下に来たので受け取る。


「20年ほど前の資料だがグリアハーゲンの遺跡の当時の最新資料だ。行く前に一読しておけ。それと、あれもだ」


 再びガーゴイルが一冊の本を運んでくる。


「二つ目の答えも一つ目と同じだ。やってみなければわからん。結局ゴーレムの核でマナを魔力に変換し、その魔力で手足を動かしているのだ。霊魂が魔力を供給できるのなら代用は可能かもしれん。こっちは200年前の霊魂師グリーンブッシュの著書だ。どこまで信憑性があるから解らんがその手の物の中ではまあ、ましな部類だろう。霊魂を憑依させるなら読んでおけ」


「‥‥よろしいのですか? 私が誰の魂をゴーレムに宿そうとしているか聞かなくても?」


「構わん。だが一つだけ約束しろ。ゴーレムの素体が手に入って霊魂を入れるとき俺も同席させろ。いいな」




 その後、エリカと疲れた顔のカレンと合流し魔法塔をお暇したところで、王城の東側から人々の歓声が上がるのが風に乗って聞こえてきた。

 魔法塔は王城の南側に隣接して立っている。


「遠目に王子様とお姫様を見られるかもしれませんね。行ってみます?」


 私の問いかけに「疲れたわ」と首を横に振るカレンと、「帰って報告が」とエリカが答えるので大人しく店に戻る。


 うちの店に戻って食べた本日二回目のユリ根のホワイト・モンブランもとても美味しかった。



挿絵(By みてみん)


次回は明日、18:00頃に更新いたします。

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