石化についての考察
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
10月から三ヵ月ほどの投稿ですがお読みいただきありがとうございます。
来年も更新頑張ろうと思います。
カーツマン師が指さした壁際まで移動し、私は『魔法収納袋』から魔法使いの石像を出した。
改めて観察すると、魔法使いは長い髭にローブの男性、右手には長めの杖が握られており、杖の先には直径10㎝ほどの何かの石が固定されている。左手は前方に構えられており、中指には小粒の石が嵌った指輪がある。腰のベルトにはいくつかの小袋を結わえている。
一般的な魔法使いの格好であり、何ら変わったところはない。
しかし、改めて見てもバジリスクの石化とは不思議なものである。バジリスクの凝視か噛まれるもしくはガスによって石化したものは装備ごと纏めて石となってしまう。
なぜそうなるのかという事には一般的にいくつかの仮説がある。
「構造置換説」とはバジリスクが吐き出すガスには、有機物・無機物を問わず、触れた物質の構造を「石灰岩」へ置き換えてしまう目に見えない小さいマナを帯びた粒子が含まれているという考え方である。ガスは体と装備に隙間なく入り込むため、纏めて石に変換されてしまうという説である。
が、こちらは凝視については説明できていない。
「時間停止説」では石化は「物質の変化」ではなく「状態の固定」と定義される。凝視か噛まれるかガスを受けた対象は、その瞬間の状態で「時間の流れ」から魔術的に切り離される。その結果、人間だけでなく所有物を含めた範囲がひとつの事象として固定され、石に変貌しているように見えるという説である。
これだと石化解除されると元の生身に戻るという事が受け入れやすいが、時間に干渉するのは魔法の中でも高等なものになるので、一魔物が使う能力としては身に余るものではないか?
「呪詛伝導説」とは石化能力が単なる構造置換えではなく、視線やガスに含まれる『石化の呪詛』が、持ち主の魔力の波長を伝って装備品にまで瞬時に伝わり、その結果持ち主と「一続きの物体」として纏めて石に変換されてしまうという説である。
この説が一番しっくりくるが、呪詛、呪いに関しては世間には詳しいことが余り知られていない。
『石化解除:ストーントゥフレッシュ』を習得している魔法使いであれば、呪文の構成から石化の仕組みを理解していることだろう。
『石化解除:ストーントゥフレッシュ』の呪文には『石化:フレッシュトウストーン』という逆呪文が存在するという。石化を解除する呪文の構成を理解しているなら、逆の構成で呪文を構築すれば石化させる事ができるという事である。
その辺を一度、詳しく話し合ってみたいところだ。
魔法使いは高位になればなるほど自分の取得している呪文について、他人に秘匿する傾向がある。命の危険を冒してダンジョンに潜って見つけたり、長い年月を掛けて古文書を解読したりして習得した呪文をわざわざ他人に教える必要はないと考えている。
魔法塔は研究機関や教育機関の側面もあるが、魔法使いは魔法塔で研究費が出たり、研究素材が手に入り易かったり、珍しい魔物や魔法の情報が貰えるから在籍しているだけだ。
自分の魔法や魔道具などの研究が一番で、本来他人と関わりたいと思っている者は少ない。
逆に自分の興味があることには積極的なのでそれがきっかけになれば話し合いができるかもしれない。
今目の前にいるカーツマン師は長老会でも高位のはずだが、他の者がやらないので私たちの相手を引き受けてくれている。
なお、『石化解除:ストーントゥフレッシュ』などの幾つかの呪文は過去に外部から依頼を受けて対応しているので、内部では誰が使い手か知られている。
カーツマン師は石像を見て眉を顰めた。
「ほう、見ない顔じゃな」
「そうですよね。10年前だと、私も学院からここに移ったばかりで全員の顔を知っていたわけじゃないですけど、見たことのない顔ですよね」
「まぁ、この国の全ての魔法使いが魔法塔に所属しているわけではないが、10年前位に消息を絶った冒険者をやっていた魔法使いというのも居なかったと思うぞ」
「そうですか。冒険者ギルドの記録にも該当の魔法使いは居ませんでした。魔法使いや神官は戦士やスカウトなどに比べて在籍自体が少ないので行方不明の記録もすぐに当たれたのですが‥‥」
カーツマン師は席から立ち上がり、近くで石像を観察する。
「他の国の者かもしれんの。この杖じゃが特定の系統の呪文の補助をする『魔法杖』ではないかな? 炎系統なら『火矢:ファイヤーアロー』や『火球:ファイヤーボール』などの詠唱の補助をしたり威力を底上げする物じゃ、10年か20年か覚えとらんが東の国の方で流行った物じゃと思うぞ。使用するには事前に魔力の注入が必要で、うちの国では流行らんかったがな」
「なるほど、最近の魔法の品なのですね。であれば、知り合いの魔法古物店でお年の行った方に聞いてみましょう」
「メリッサ、何、最近のって年寄りみたいなこと言って!」
「年寄りで悪かったの」
「あ?! いえいえ、カーツマン師の事を言ったわけでは‥‥」
「お茶を入れなおしましょう」
私は台所に立って、お湯を沸かし始めた。
「では、一応念のため石像は預かって、他の者にも心当たりがないか聞いてみるが、あまり期待できんじゃろうな。ここに置いておいて知らせを回しても、わざわざ見に来る者が何人いるか? そうじゃ、この後の見せ物には興味があって降りてくるかも知れんの、そっちに移動しておこう」
「了解いたしました二週間ほど様子を見まして、その後の対応をご連絡いたします。私の方の要件はこれで終わりになりますが、後学のためこの後の魔物素材の引き渡しも同席してよろしいでしょうか? 冒険者ギルドの承認は受けております」
「うむ、二人が良いのならこちらは問題ない」
カレンと私がカーツマン師に頷くとエリカがにっこりと笑った。
「ありがとうございます」
「では土産も土産話も楽しみにしておったのだ。早速始めて貰いたいところじゃが、少し待ってくれ、賓客対応で下っ端は出払っているが、年寄りは皆残っているはずじゃ」
カーツマン師はローブの腰ベルトに括った『小袋』から30㎝程の細い『木の棒』を出し、空中でクルクルと回し魔方陣を作ると口の中で何事か呟いた。
『いまからカレンとメリッサ嬢が幻燐竜ダンジョンから持ち帰った土産のお披露目を始めるぞ。物は石化済みバジリスク、アイアンゴーレム、ブラックゼリーじゃ。後で聞いていなかったとかは無しじゃ。興味のあるものは一階作業場まで降りて来い』
頭の中にカーツマン師の声が響く。『意思伝達:マインドメッセージ』の呪文は指定範囲内にいる者の脳内に強制的に意思を送り付ける魔法である。返事を受け取ることはできないが、下手な返信があるより今はその方が良いという判断だろう。
「では作業場へ移動しようかの」
カーツマン師の目配せで私は魔法使いの石像を『魔法収納袋』に仕舞った。
魔法塔の三階までの建物は共用部分である。今居る大き目の作業場や書庫、倉庫、厨房、食堂や風呂の施設もある。が、書庫や倉庫に自分の部屋に入りきらなくなった書籍や素材、道具などを勝手に置いていく以外はあまり利用されていない。
放っておくと食事も風呂も満足にしない人間が多いため、厨房には専任の料理人がいて朝と夜には食事を作って配達用のガーゴイルが各部屋に配っている。また、その時洗濯物をランドリーバスケットに入れておけばガーゴイルが下げる食器と一緒に回収し、洗濯係に届ける仕組みにはなっている。
まぁ、どれだけ利用されているかは分からないが‥‥。
さて、そんな広めの作業場は作業台が脇に寄せられ、真ん中にスペースが作られている。奥の壁には外へと続く大き目の外扉も設置してあり、2階部分まである高い天井の梁には滑車やフックと共に埋め込み式の『魔法灯』がいくつも配置され十分な明るさである。
そっと、入り口脇に魔法使いの石像を出しておく。
「来るかどうかも解らん奴らを待つ事もあるまい。メリッサ嬢、よろしく頼む」
次回は2026/1/5、18:00頃に更新いたします。
よいお年を




