久しぶりの王都 帰還報告と素材提出と情報収集
投稿再開いたしました。
第二章になります。
よろしくお願いします。
久しぶりの王都は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
春から夏へ季節が移り変わり始め馬車で揺られていても日差しがまぶしく、少し汗をかいてくる。日差しを手でよけながら前方を眺めると、高さ10mほどの白い城壁に空いた高さ8m、横は扉半分で3mほどの城門がある。城門の右半分が閉められ、開いた左半分では数人の衛士が人々の出入りのチェックと入市税の徴収を行っている。その背後では10人ほどの緑色の甲冑の騎士たちが控え、睨みを利かせている。
城門の外では商人や旅人が小声で不平を言いながらも、大人しく並んで列が進むのを待っている。
王都の一番外の城壁は石灰岩とコンクリートで作られており、王都の外周を概ね丸く囲っている。白い石灰石の城壁は所々グレーの色合いを帯び、厚さは上部で3m、基部では5mほどで重厚感があり、確認はしていないが地面の下にも同じ程度の深さで基礎があるそうである。東西南北に大門があり王国近くの衛星都市やその他の各街への街道が続いている。
城壁は帝国統治下に魔法使いとドワーフ、巨人の協力のもとに作られたと言われており、数百年経った今もその威容を放っている。城壁を作った当時はまだ国にもなっていない地方の一地域だったそうだ。魔物の蔓延るこの地域を人の支配圏にする為に、前哨都市としてこれほどの規模の城壁都市を作ったとは帝国の強大さが偲ばれる。
記録によれば何度か魔物の大群などに襲われたことがあるそうだが街への侵入は許さず、その時の損傷も今は修復され街を護っている。
ちなみに三年前の騒ぎは王都の城壁内で起きたので城壁は被害を受けていない。
そんな城壁の上の胸壁の間から兵士が見下ろし監視しているのを見上げながら、我々も大人しく列に並んで待っている。
隣国の第二王子と第一王女の来訪があるという事は前から話に聞いてはいたが、我々庶民には関係のない話であったので気にせずダンジョンアタックに向かっていた。
街から出てきて街道ですれ違った商人たちから世間話で聞いてはいたが、その王子様、王女様の来訪が遅れているそうである。しかも、最近王都では夜間に怪しい動きがあるらしい。ある侯爵家で侵入者があったとか、川に身元不明の死体が流れていたとか、商人たちの噂話なのでどこまで本当の事かは解らないがどうも不穏な雰囲気である。
この様子だと我々の幻燐竜ダンジョン踏破の噂は霞んでくれて助かるかもしれないなどと考えてしまう。
列は徐々に進みやっと我々の番になり、全員が冒険者ギルドのギルドカードを出し、身元証明はすんなり通り入市税は免除である。
まぁ、中堅冒険者になるとギルドの年会費と戦利品への課税で良い金額を収めているので、ある程度の優遇措置は冒険者をその街や国に引き留める為の必要経費であろう。
衛士たちも中堅冒険者である我々とは共同演習や襲撃対応訓練で顔見知りである。まだ後ろに列がある為、話し込んだりはしなかったが「討伐おめでとう」などと声をかけてくれた。
門の衛士であるから話が伝わるのは早いのであろう。ある程度の話は伝わっていたようだ。
とりあえずは無事に城門を抜け、王都に入ることができた。
踏破報告はデヴィッドにしてあるので冒険者ギルドへの帰還報告はわざわざ全員で行く必要はないので、素材提出のためギルドへはカレンとダブスと私で行くことにしてそれ以外は解散となった。
アーレイはギルドへ顔見せに行くという事で、私たちとデヴィッドとエリカと共に冒険者ギルドに向かった。
街中は城門ほどの緊張感は無く、人々は特段変わった事もなく普段の暮らしを営んでいるように見えるが、衛士の見回りと見張り櫓の人員は普段より多いようだ。
まだ五の鐘と六の鐘の間位で冒険者ギルドに人は少ない。
ここでアーレイとは別れ、何人かに挨拶をしてお祝いを言われ四階のギルド最上位の応接室に通されると、中には既にギルド長のショーンが待っていた。
「お帰り、そして幻燐竜ダンジョン踏破おめでとう!」
顎鬚を撫でながらショーンがお祝いを口にしてダブスに近づきハグをし、ダブスもショーンの背中を軽く叩き返す。
「とりあえず、話はいったんデヴィッド達から聞くことにするから買取品の提出だけして今日はゆっくり休んでくれ」
この段階でデヴィッドの顔色が優れないことをショーンは気が付いていない。
我々は一階の買取カウンターではなくその奥の倉庫に向かい、出迎えたギルド職員に大コウモリの瓶詰の目玉や箱に詰めた被膜、大ムカデの牙や外殻、ミノタウロスの角、キメラの各頭などなどを披露する。
ギルド職員は戸惑いながらもその新鮮さに驚き、喜び、喝采を挙げ、次々と然るべき保管方法で魔物素材を倉庫に納めてゆく。
そして最後に『幻燐竜の鱗』の入った三つの箱が出される。中では一枚一枚丁寧に布に包まれた『幻燐竜の鱗』が緩衝材に包まれて68枚入っている。
「これほどの数は今まで記録にないな」
箱の中から一枚の『幻燐竜の鱗』を出して眺めながら感嘆の声を上げるギルド長ショーンの横でデヴィッドは胃の辺りを押さえ、エリカは無表情で立っている。
「これで最後だそうです」
デヴィッドの小さく暗い声にショーンが振り返り疑問の顔を投げかける。
「なんだって?どういう事?」
そこからは再び、応接室に戻って『幻燐竜』についての説明を行った。時間が掛かった。
その後、隣国からの賓客や街中での物騒な噂についての情報も貰った。
隣国、パラタイン王国は我がエスクイリン王国とは兄弟国家である。
300年前にアヴェンタイン帝国カンタブリア朝が消滅、滅亡した後、公国や侯爵の領地、管理下の小国だったものがそれぞれ独自の国となったものだ。
両国の間には深い森が広がっており、交易流通はその森の縁を迂回するように作られた街道で行われ小規模の隊商で2週間程度の日程が掛かる。
直接的に国境が接していることもなく、元々が帝国の統治下で血縁も近いこともあり、両国間の関係は帝国滅亡後の混乱期を通してもずっと良好であった。
双方とも北の山脈から流れる豊富な水源と広い平野を持つ農業国で、国の外への野望が無かったのも大きい要因だ。
双方農業国であるため交易品はパラタイン王国は絹や香辛料、我がエスクイリン王国は鉱石や染料などの食料以外のものが主である。
王立図書館の資料によれば国の規模、人口、食糧生産能力的には我がエスクイリン王国のほうが大きく、パラタイン王国の1.5倍ほどだそうである。
そんな両国の間では頻繁にではないが王族や高位貴族間での婚姻が結ばれている。あくまで両国は対等な関係で関税や通行税を課しているが、我がエスクイリン王国は元公国、パラタイン王国は侯爵領地という事で我がエスクイリン王国が兄貴分、パラタイン王国が弟分というように自然となっている。
パラタイン王国の王族や高位貴族はエスクイリン王国の後ろ盾を得ることにより影響力の強化になり、我がエスクイリン王国は両国の友好関係の補強になる。
よって、強力な後ろ盾がどうしても欲しいとかいう政略結婚ではなく、気が合うものがいればよいですねという、どちらかというと緩い感じの交流のための今回の第二王子と第一王女の来訪であるらしい。
第二王子は14歳という事で縁があれば交流した後帰国し、数年は手紙での交流後こちらの国に婿入りするか嫁を取ることになる。
第一王女は16歳で場合によってはこのまま国には帰らずそのまま嫁ぐこともあり得る。
そんな一行の到着が遅れている。
森を迂回した街道を十分な護衛を付けての行列であったそうだが、わが国への国境の川を渡り、あと数日で王都に着くというタイミングで森から溢れた魔物に襲われたそうである。
たまたま居合わせた冒険者が助力し事なきを得たそうであるが、その影響で到着が三日ほど遅れることになったそうである。
街中では隣国の王子様、王女様の歓迎のための準備を進めていたが、一旦中断となっている。
大変なのは王宮の歓迎晩餐会や夜会の関係者などで、日程調整などで苦労していることだろう。
とりあえず王宮関係は直接関係はないので、それ以外の不穏な噂の真偽を確認しておく。
ギルド長のショーンはここからは「内密に」と言って話を続けた。
ランドン侯爵家に侵入者があったという事は本当だが、最近導入した警報装置によってすぐさま侵入を検知し対応したことによって、賊は逃亡した。侯爵家の騎士や周りで巡回警備していた衛士の捜索を掻い潜って逃げおおせたことから、ただの盗人などではないという事である。
ランドン侯爵家の嫡女であり一人娘のアリソン・ランドン嬢が年齢や爵位的に王女のお相手を務めるのに丁度良いため、滞在中のホステス役を担っている。その関係での事と疑われているそうだ。
川に上がった死体は街の商会勤めの男性のものであり、細い刃物で後ろから一突きで心臓を貫いていることからプロの仕事と思われ、詳細は衛士隊及び王都騎士隊で調査中という事であった。
結局、冒険者ギルドを出たのは日が沈んで七の鐘が鳴った頃だった。
途中でカレンたちと屋台で食事を済ませ、帰ったら熱いシャワーを浴びてベッドに飛び込もうと思ってアパートメントの裏口に着いた。
しかし、久しぶりに帰り着いた自宅の扉を開けた私は思わず棒立ちになった。
次回は明日、18:00頃に投稿いたします。




