幻燐竜の間での一夜
時間軸、ちょっと戻ります。
幻燐竜を倒した後、一休みしてから前に幻燐竜に挑んで散った冒険者のご遺体を捜索し遺留品と共に回収を行う。それ以外には『幻燐竜の鱗』が多数転がっているのでそれはカレンが嬉々として回収している。
天上に刺さっているバリスタの矢は『クライミングロープ』で天井まで上がり抜こうとしたが深く刺さっており、チャドに代わりに行ってもらい回収した。
その後は野営の準備である。
魔法使い系は全員魔力が残り少ないので、幻燐竜の間への入り口には私が花崗岩の塊をいくつか出して物理的に塞いでおく。
諸々を『魔法収納袋』から出して、交代でシャワーを済ませ、その後は夕飯の用意をする。今日はウェンディが取って来てくれた獲物も無いし、討伐記念なので取って置きを出すことにする。
みんな大好き!ジェシカおばさん特製の「エメラルド・トラウトの塩釜焼き」と「山岳ホロホロチョウと地底の香り茸のフリカッセ」、「アース・ボアの薄切り甘辛焼」に銀の小麦の焼き立てパン、赤ワインである。
呑み過ぎない程度に皆で祝杯を挙げ、腹もくちくなってきた辺りでグレイサンドから質問が来た。
「あのバリスタの矢やちっこい鉄球も弓矢と同じ要領で『袋』に収めたんか?」
「そうですよ。慣れるまでは大変でした」
「慣れるまでって‥‥、ちょっと理解できないな」
ジョナサンが眉間に皺を寄せている。
「タイミングの問題ですから、数を熟せば何とかなります。今後の課題はアイアンゴーレムに使った大きい鉄球の発射装置が無いことですね。毎回同じところに着弾して貰わないといけないので大型のカタパルトだと難しいんですよ」
「あぁ、あれは最初の勢いが付いていなかったな。奴に引き寄せられた勢いだけか」
一番近くでアイアンゴーレムに鉄球が当たるのを見ていたダブスが答える。
「あんな鉄球どっから持ってきたのよ?」
カレンの質問に「ルナ」と「ステラ」のガラス瓶にエメラルド・トラウトの骨を入れ、溶かしてゆく状況を観察しながら答える。
「昔いた博物館の所蔵品ですね。はるか昔の大砲という兵器の弾だそうですが、今は博物館も無くなってしまったのでここで預かってます」
『魔法収納袋』を撫でる。
「ふーーーん」
カレンはそれ以上は聞いてこなかった。
食後のお茶まで済ませたところで、お宝や回収品のチェックとなる。
今回、マッピングも少なかったので回収品リスト作成も私が行う。
ご遺体は出さないがその周りに有った装備や持ち物で回収できたものは個別に袋に入れてあるのでそれを一つずつ出して皆で確認しリストに記載してゆく。
『チェーンメール』、『ブロードソード』、錆びた短剣、貨幣数種、指輪位が一人の亡骸の傍から回収できたものだ。それ以外の装備は腐ったり、錆びたりしていた。短剣も錆びてもう使い物にはならないが、少し凝った柄周りをしており身元証明になるかもしれないので回収しておく。
そんな作業を言葉少なに13人分続けて行く。
そして最後にカレンが気分を変えて明るい声で自分の『魔法収納袋』から今回のとっておきのお宝を出してゆく。
「『幻燐竜の鱗』が1枚、2枚、3枚‥‥」
「‥‥66枚、67枚、68枚!!」
カレンは最後まで飽きることなく数え切った。
途中からカレン以外は飽きてきてしまっていたが、楽しんでいる途中のカレンに文句を言うとそれ以上の文句が帰ってくるので皆、静かに待った。
机の上に山となった『幻燐竜の鱗』は『光の精霊』の光を受け、虹色の輝きを辺りに撒き散らす。
「やったわ!幻燐竜の全身の素材が手に入らなかったのは痛かったけど」
「なに言ってんだ。全員無事だっただけで十分な成果だろ」
ジョナサンの言葉にグレイサンドも被せる。
「がめつすぎるとそのうち破滅するぞ」
「まぁまぁ、『鱗』68枚だけでも一財産だ!これ以上欲張ったら罰が下るさ」
カレンは「ざざぁーー」と『幻燐竜の鱗』を仕舞ってゆく。随分『魔法収納袋』の使い方に慣れてきた。
ダブスが宥めるところに私が『魔法収納袋』から出した小さめの水晶座布団の上に、腰の『魔法収納袋』ではない小袋から卵を出す。
「後、これもあります」
水晶座布団の上には『鶏の卵より二回りほど大きい卵』が鎮座している。
ウェンディ以外の皆の顔が疑問形になる。
「この卵は?鶏にして大きいけど」カレンが顔を近づける。
「今回は鳥系の魔物は出てないよな?」ダブスが首を傾げる。
「何の卵だ?」ジョンナサンがこちらを向く。
「色は白くて普通の鶏の卵と同じじゃな」グレイサンドが呟く。
「‥‥」チャドが目を眇める。
「『幻燐竜の卵』よ」ウェンディが言った。
私とウェンディ以外が上体を逸らせて卵から距離を取った。
「じょ、冗談よね。ウェンディ?」
「微かだけど『光、風、水、熱、闇』の『精霊』の力を感じるし、メリッサとの繋がりもあるわね」
道理で合流してからウェンディがこちらを伺っていると思った。
「幻燐竜はその精霊界とか言うところに帰ったんじゃないのか?」
慌てふためくダブス。
「そうですね。幻燐竜は帰りましたけど、その子供です」
私の答えにジョンナサンも焦る。
「その‥‥危険じゃないのか?」
「いつ孵るかも分かりませんが、孵ったら友達になれるようなことを言ってましたね」
グレイサンドが呟いた。
「とんでもないもんじゃろ、それ」
「友達というならメリッサが持っていたほうが良いな」
チャドが水晶座布団ごと『幻燐竜の卵』を私の方に押した。
「でも、これも今回の戦利品になりますから、分け前計算に入れないと‥‥」
「ふふふっ、メリッサ、ウェンディ!面白い冗談だったわ!討伐された幻燐竜が倒した冒険者に卵を託すなんて、そんな事ある訳ないでしょ!どこで用意してきた小道具か知らないけど、仕舞って仕舞って!」
カレンが早口に捲し立てて皆に目線をやり『卵』を私の手に収めさせる。
「そ、そうだな。冗談だよな」ダブスが立ち上がって腕を掴んで上に引っ張り柔軟を始める。
「お茶を入れ直そう」チャドがコンロに向かう。
「おお、回収品リストを作っておくか」グレイサンドが紙とペンを出す。
「そうだ、荷物の整理をしようと思っていたんだ」ジョナサンが背負い袋を開けだした。
「だそうよ」ウェンディが私と『卵』を見る。
「‥‥分かりました」
小袋に『卵』を仕舞ってグレイサンドのリスト作成を手伝うことにする。
その後は交代で夜番をすることになる。
マットレスで毛布をかぶり、横になる。
左右からはカレンとウェンディの寝息が聞こえる。
ぼーーとしながら今回のダンジョンアタックを思い返す。
最初は稀少な古書の回収が目的であったが、来る前に幻燐竜が昔のことを知っていそうな情報がもたらされ、目的が追加された。
お母さまと『珠』、帝国の滅亡については新しい情報を入手することが出来たが、まだ分からないことだらけだ。
今までは王国だけで情報を集めていたが、これからは手を広げる必要がある。
何か方策を考えよう。
とりあえず、今は休もう。もう眠い。
第一章、完になります。
外伝短編をいくつかあげたらまた再開いたします。




