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ダンジョンからの帰還

 幻燐竜討伐?後、その場で一泊した私たちは翌朝、鍾乳洞の奥に大きな縦穴を見つけそこから外へ脱出した。

 カレンの『飛行:フライ』とウェンディの『風の精霊』の力を借りて、ダブス、チャド、ジョナサンにも呪文を掛けてもらい、私は『登縄:クライミングロープ』に足を掛ける輪っかを作りグレイサンドと共に昇った。

『登縄:クライミングロープ』は300㎏程度の重さまで、ロープを持った者と荷物を垂直に上昇させてくれる魔法古物である。


 外へと繋がった鍾乳洞は大きな穴だったが思ったよりダンジョンの入り口に近かった。幻燐竜がいた時にはきっと幻影で隠されていたのだろう。

 ダンジョンの第六層から入り口までの帰りの予定行程の一日が短縮できたため、速やかに町への帰還とする。


 道中は多少天候に祟られたが、ウェンディが『雨の精霊』に頼んで私たちの周りだけ雨に当たらなくしてくれたので、足元に注意する程度で済んだ。

 二日の行程を無事に歩き通し、日が暮れる前に久しぶりの町の姿を目にすることが出来た。


 町は変わった様子もなく、人々は私たちを見かけると軽く頭を下げて家路に急ぎ、子供たちは近寄ってきて、冒険の成果を聞きたがった。

 カレンが子供たちに幻燐竜の討伐を教えてあげると、「うっそだー!」と最初は信じなかった。


「これを見なさい」


 カレンが得意満面に『魔法収納袋』から虹色に輝く『幻燐竜の鱗』を出して見せると、夕日を帯びた『幻燐竜の鱗』は一味違ったオレンジを主体とした色を周囲に輝かせ、子供たちも大人も足を止め驚きを顕わにした。


 年嵩の子供が「俺、冒険者ギルドに知らせてくる!」と言って走り出し、私たちの周りには『幻燐竜の鱗』を見ようと人垣が出来てしまい移動が難しくなった。


「本当におバカじゃな!」


 グレイサンドが溜息をつきつつカレンを見上げた。


 どんな討伐だったのかとかを聞かれそれに答えつつ町の中央に移動していると、少しずつ群衆が増えてしまっている。やっと中央広場に差し掛かったところで見知った顔が二人近寄ってくるのが見えた。

 二人とも王都の冒険者ギルド所属で三十中盤のかっちりした格好の買取責任者のデヴィッドと二十歳前で薄めの金髪に童顔、身体つきも小柄で庇護欲を誘う風の事務員の女性エリカである。


「皆さん、お疲れ様です。早かったですね。予定では早くても明日以降と聞いていましたが」


 デヴィッドの挨拶にダブスが人垣を進み出て返す。


「あぁ、脱出路が見つかって帰路にダンジョン内を通らなくてよかったんでね。出張かい?」


「ほぉ、それは興味深い。ええ、そろそろご帰還かと思いまして、今回はこの町の冒険者ギルドの者では手に余るとギルド長が判断しましたので、まぁその辺はまた後でゆっくり話しましょう」


 デヴィッドは大きく手を広げて群衆に語り掛けた。


「私は王都冒険者ギルドの買取責任者のデヴィッドと申します。今日の所は彼らも疲れています。温かい晩飯を食べて汗を流してゆっくり休んでもらいましょう。皆さんも帰って晩飯にしてください。明日以降に何かあれば町長さんからお話が行くと思います。彼らがゆっくり休めるよう宿屋の周りとかには集まらないでください。お願いします」


 ここの冒険者ギルドの職員と冒険者が群衆を散らしてくれている中、デヴィッドとエリカが、私たちが出発前にも使っていた宿屋金竜亭に案内してくれる。


「ああは言いましたが余り、草臥れてはいないようですね」


 幻燐竜戦の後には半数はボロボロの恰好をしていたが、服や魔法の品でない装備は私が予備を渡して新しいものになっており、野営時にはシャワーも浴びているので通常のダンジョン帰還後の薄ら汚れて草臥れた格好は誰もしていない。


「まぁ、今回はメリッサが居てくれたからな」


 ダブスが私に目線をやりながらも、詳しくは答えない。


「そうですか。それは良かった。ただ、今日はご飯を食べながら軽くお話を聞かせて貰ったら、皆さん本当にゆっくり休んでください」


 デヴィッドも軽く流す。


 二階に部屋を取って荷物を置き、鎧を脱ぎ、武器を置いて私たちが一階の酒場に降りると顔見知りのおかみさんがテーブルを勧めてくれる。

 二階に上がっている間に用意してくれた料理やお酒がテーブルの上を満たしている。


 ダブスの乾杯の合図に皆でジョッキを合わせ一飲みして、料理に手を伸ばす。


 食べ始めてすぐ、隣のテーブルで食事をしているデヴィッドとエリカにジョナサンが声を掛ける。


「飯を食ったら一度、メリッサと一緒に教会に足を運ばせてもらいたい」


 ジョナサンの言葉に何を言いたいのか察知したデヴィッドはエリカの方を見た。


「分かりました。彼女を同行させます」


 エリカは黙って頷いた。


 そこからはカレンがメインで、ダブスが補足を加える形で私たちの幻燐竜ダンジョン討伐話が披露されながら温かいご飯とお酒を頂くことになった。

 ウェンディは黙ってお酒と軽食を多めに食べ、チャドは大皿の料理をゆっくりと掻き込んでいる。

 ジョナサンはお酒は飲まずにご飯だけを進めて、たまにカレンに突っ込みを入れている。

 グレイサンドはこの町の特産という桃のリキュールを飲んでいるので少し分けてもらった。


 しばらくしてジョナサンに促され私とエリカが席を立ち酒場の出入り口に近づいた時、カレンの話しが第三層のクライマックス、キメラを相手するところに来たところで酒場の隅の方で飲んでいた冒険者一団から揶揄うような声が上がった。


「ケッ!幻燐竜を倒したって!前回も這う這うの体で鱗を一、二枚、取ってきたようだがどうせ今回も、その一枚を居ない隙か寝ている隙にこっそり盗んできたんだろうよ」


 その男は私たちのテーブルの上に置きっぱなしだった虹色に輝く『幻燐竜の鱗』をジョッキで指さした。


 ガタッと椅子を下げ、立ち上がったカレンがジョッキに残った半分ほどのエールをグビグビ飲み干した時には嫌な予感がしたが、私たち三人は既に出入り口の近くだ。

 ジョナサンも両目に右手を当て頭が痛いというジェスチャーをしている。

 テーブルでは唯一動いたグレイサンドが、カレンが腰に伸ばした手を止めようとしたが間に合わなかった。


「これを見て、ものを言いなさい!」


 カレンは掲げた『魔法収納袋』からザラザラっと大量の『幻燐竜の鱗』をテーブル上に出し始めた。

 チャドとダブスが急いで料理の大皿を避難させた場所にうずたかく積まれた『幻燐竜の鱗』が壁の『魔法灯』の光を受け虹色の光を酒場中に振り巻いた。


 とりあえず『魔法収納袋』の使い方はマスターして来ているようだ。

 後の収拾はデヴィッドやダブスに任せて私たち三人は煌びやかな光とカレンの高笑いを背に酒場を後にした。




 いつの間にか陽は沈み切り、街の中央でも明かりが漏れている建物は数件しかない。

 夕飯が済めば灯を落し寝る者も多い郊外の町では夜はすぐ暗くなる。

 満天の星と半月の大の月と離れたところにある三日月の小の月が照らしてくれても夜空は吸い込まれるように暗い。

 三人で酒場からほど近い必要最低限の明かりのみが灯った教会を訪れる。

 教会の入り口にはランプで明かりが灯されており、急な病人や旅人を受け入れられるようになっている。

 呼び鈴を鳴らし見習いの侍者に司祭への取次ぎを頼むと教会の中の礼拝堂に案内され、ほどなく小柄で腰が曲がっているが目には力のある司祭がやって来た。


 それぞれの挨拶を済ませたところでジョナサンが口火を切る。


「今回、幻燐竜ダンジョン内から何体かの遺骨を持ち帰らせていただいた。数日はこの町に滞在するのでその間に冒険者ギルドの記録と照会の上この町の者がいるかどうか確認していただきたい」


「畏まりました。失礼ですが何体ほど?」


「ご遺体が13体、石化しているものが5体になります」


「‥‥では、こちらを片して安置していただきましょう」


 いつの間には増えていた三人ほどの助祭と侍者が礼拝用の長椅子を端に片し始め、ジョナサンもそれを手伝う。

 エリカと私は用意された毛布を床に敷いてゆく。

 侍者の一人が追加で毛布を持ってきた。


 そして、『魔法収納袋』から13体のご遺体を毛布の上に慎重に横たえ、5体の石像の内倒れた格好の二体は毛布の上に、立像の三体はそのまま立たせた。


 13体のご遺体はどれも白骨化しているがほぼスケルトンなものから、まだ髪や服、装備が残っているものまで時間の経過はバラバラのようだ。


 司祭たちとジョナサンが膝をつき冥福を祈るのをエリカと一緒に横でじっと待つ。


 ほどなく立ち上がった司祭にエリカが話しかける。


「ここ30年ほどの冒険者ギルドの記録ですと、3名がここの町の住人の可能性があります。ご遺族と思われる方には明日、冒険者ギルドから知らせを出し確認をしてもらうことになります。その時はわたくしも同席させていただきますのでよろしくお願いいたします」


 静かに丁寧にエリカは司祭に説明する。


「畏まりました。お待ちしております」




 ダンジョンの中で見つけた物は基本的に見つけた者の物である。

 冒険者の遺体があったとしてその剣や鎧、装備品で使えるものがあれば見つけた者が持って行って構わない。

 ただしできる限りの範囲でその身元が分かるようなものを持ち帰り冒険者ギルドに報告する義務はある。

 報告を受けた冒険者ギルドはダンジョンへ入った記録などと照合し遺族へ連絡をする。

 場合によっては遺族から謝礼が出ることもある。

 しかし身元証明になるものと言っても精々が紋章や名前が入った指輪やネックレス、短剣などの嵩張らない物であるがこれが少々問題になる。

 なりすまし遺族というものが出てくるのだ。

 高価そうな指輪を「主人の物です」とか言って名乗り出て来て、酷い時には何人もの別の遺族が「父です」「夫です」「叔父です」と言って来ることもある。

 基本、拾った物は拾った冒険者の物であるが遺族がいるなら返してあげようというのも人情である。

 その気持ちに付け込んで来る者がいるため、冒険者ギルドでは名乗り出てきたものに記録を元に聴き取りをしてその正否を判断する。


 今回のようにご遺体がそのまま戻ってくる事は稀である。『魔法収納袋』を持っている冒険者は少ないし、容量にも限りがある。

 会える遺族がいるならちゃんと会って静かに埋葬されて貰いたいものである。




 三人で教会を後にして、まだ喧騒が聞こえ窓から煌びやかな虹色が見える酒場へと戻って行った。







次回は明日16:00頃、更新予定です。

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