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幻燐竜ダンジョンB6F 5

【私の名前はメリッサ・スー、三年前まではメリッサでした。そしてスーはスザンナリース、私のお母さまの名前でもあります。この『珠』とスザンナリースという名に心当たりはありませんか?】


『珠』を幻燐竜の眼の前まで近づけて問いかける。


【そうか。道理で見覚えのある魂だった訳だ。スザンナの娘さんか】


【やはり、知っているんですね?魂?】


【ああ、もちろん。彼女は私の友人だったのだから。綺麗な魂をしていた】


【た、魂とは?】


【輪廻、業、転生、生まれ変わりなど君たちもそういう概念と研究はしているだろう。君の例で言うとスザンナは「君の魂」を「君の生まれ変わりの魂」へ移したんだ。通常は生まれ変わっても前世の記憶を持つことは無いが、ある特定の条件下ではそれが可能のようだ。詳しい仕組みは私も分からないがね】


 幻燐竜は私の掌の『珠』を見る。


【「私の魂」を「私の生まれ変わった魂」へ‥‥‥、なぜ?そんなことを】


【スザンナも訳は言ってなかったね。でもまぁ、君が不憫だったのではないか?君、博物館とか言うところに押し込められて、生まれてからずっと外の世界も知らず過ごしてたんであろう?そこにあの破壊だからな】


【あの破壊とは、帝国の滅亡の事ですか?】


【ああ、あれは酷かったね。国を覆うような大規模結界が張られ何者も物理的にも魔法的にも脱出できない状態で大量の流星雨が撃ち込まれたからね。わたしはスーザンに頼まれて「君の魂」だけを移した『珠』と『袋』をスーザンの生まれたこの国に運んだだけだ。三年前やっと「君の魂」と「君の生まれ変わりの魂」が合ったという事だろう】


【帝国の崩壊の原因は流星雨?!「魂」の会合?!】


【人間同士の争いには興味もない。「魂」についてもこれ以上は聞かれても困るな。それよりなぜ私が『珠』やスザンナや君の事をしっていると思った?】


【先日、古い歴史に詳しい友人が出来まして300年前の帝国滅亡時に当時の公国、今の王国であなたの目撃記録があることを知りました。私も完全ではありませんが当時の記憶があります。そこでお母様と一緒にいるあなたを見た記憶があったのです。それから幻燐竜の目撃記録の時期と場所の統計を取ったところ幻燐竜は一個体しか存在しないのではないかとの推論が出ました。先ほどあなたがお認めになっていますが。ですので帝国でお母さまと居たあなたが帝国崩壊と前後して公国に姿を現した。そしてその国で私はそれから300年後この『珠』を手に入れ前世?を思い出した。あなたが何か知っているのではとは思いますよ?】


【人間の魂がどれだけの期間で生まれ変わるかも知れなかったが無事、「魂」が出会えたのであればスザンナも喜ぶであろう。これで私も心残りなく精霊界に戻れるというものだ。では最後の仕事をしてもらおう!】


 途端、幻燐竜は大きく羽を広げ巨体を持ち上げ、その咢を大きく開いた。

 噛みつきをサイドに避けて『インビジブルマント』を発動させ姿を消す。


【幻燐竜に幻視の魔法とは何のつもりだ】


 瞬膜を瞬き一つすると幻燐竜は透明な私のいる場所に右前脚の一撃を加えてくる。


 前に進んで幻燐竜の頭の下に入り込み回避すると『魔法収納袋』から射出されたベクトルを保持したバリスタの矢を喉元に打ち込む。


 幻燐竜が頭を大きく逸らせて避けたことにより出来た隙に『イリュージョンワンド』を取り出し『幻影:ファンタズマル』を作り出す。


 幻燐竜の前にもう一体の幻燐竜が姿を現し正対する。そして「ヒュオーーーー!』という音と共に息を吸い込み喉元や首の下側が、風船のようパンパンに膨れ上がる。元々の幻燐竜が一瞬戸惑いで動きを止まっている間にもう一体の幻燐竜の喉の奥が一瞬だけ太陽のような白い光を放ち、その直後に炎が炸裂する。

 ブレスが放出される際の空気の爆発的な膨張により、炎だけでなく目に見えない強力な衝撃波が発生し耳をつんざく轟音と共に、ダンジョンの岩壁を震わせ、鍾乳石を砕く。

 先ほどダブス達が喰らったドラゴンブレスの再現の幻影が現れた。


 これは『精霊』や『魔法』にまで効果が表せない、視覚と聴覚のみに影響する『幻影:ファンタズマル』であり、元々の幻燐竜も一切ダメージは受けていないが修正された再現度は完璧でブレスを吐く前のブレス袋のパンパンの膨らみから、放った瞬間の頭のノックバック、その衝撃を吸収するような肩から脚に掛けての動き、使い果たされだらしなく垂れ下がった革袋のようなブレス袋。


 元々の幻燐竜も瞬膜まで開いて見入っている。


【なるほど。確かに再現度が足りなかったな】


【参考になりましたか?】


 呟いた幻燐竜は隣で答えた私に頭を向ける。


 ちなみに今の位置関係は私の隣に幻燐竜の本体、ちょっと離れたところにブレスを放った幻燐竜と受けた幻燐竜、それぞれへ光の糸が私たちから延びている。


 両者とも幻覚の幻燐竜を消す。


【どうして幻影と分かったかはもう聞くまい。『転移:テレポート』も使えるのか?】


【いえ、見える範囲の転移の『異次元ドア:ディメンジョンドア』です】


 左手に持った呪文の消えた『スクロール』を見せ、右手に持った『解呪杖:キャンセレーションロッド』を発動させる。


 普段、カレンが呪文を発動させる時に描く物より大きく複雑な魔法陣が私と幻燐竜の間に浮き上がり、辺りのマナを吸収し魔力に変えて行く。

 魔法陣から輝く光が幻燐竜に降り注ぎ、幻燐竜の体の周りに今まで見えていなかった絡みついた鎖が現れ、「ピキンッ」という音とともに一つの鎖が弾け飛び、続けざまに残りが弾け消えてゆく。


【礼を言わせてもらおう。私をこの世に縛っている契約を解除してくれたのだから】


【こちらこそ、色々お答えいただきありがとうございます】


【契約が解除されたので私はもう帰らなければならないが、何も礼をしない訳にも行くまい。まぁ、ちょっとしたものだ。受け取ってくれ『幻燐竜の加護』だ】


 何か虹色のキラキラした光が私に降り注いで消えた。


 幻燐竜は己が腹の下から通常の鶏の卵より二回りほど大きい卵を出してきた。


【それから、これは私の子だが『精霊契約』は受けていない。いつ孵るかは分からないが預かってくれるか。其方の永い旅の友になれるかもしれない】


 そして薄れゆく幻燐竜、元々クリスタルのような光を通す鱗が更に光を通し徐々に消えてゆく。


【永い旅っ‥‥】


 どかどかと普段の慎重さはどこに行ったのか通路からカレン達が現れ、消えゆく幻燐竜に動きを止めた。


 幻燐竜が消え切ったところでやっと再起動したカレンが突っ込んで来る。


「メリッサ!心配したのよ!一人で何やってんの!」


 それから双方の経緯を説明し合いながらも、カレン以外からも一時間は叱られた。




 とりあえず、私が居なくなった後に二体の幻燐竜とは総力戦で、グレイサンドが紫のスカーフをしたスカウトの死体から『口輪:トレーニングマズル』を見つけ、ダブスを発射台に宙に飛び一体の口を塞ぐのに成功する。

 そこからは噛みつきとブレスを封じた一体を盾に使うような位置取りをしてブレスの直撃を避け持ちこたえたが、何とか一体を倒したところで体力も魔力も限界に近くなった。

 そして再びブレス袋が大きく膨らみ、今後こそ何人かの死を覚悟したところで幻燐竜が消えた。死体の幻燐竜も。


 こちらも幻影の光の糸を追って本体を探したこと。天井に刺さったバリスタの矢を指さし、戦闘になったこと、最終的には『異次元ドア:ディメンジョンドア』と『解呪杖:キャンセレーションロッド』を使って『精霊解約』を解除して精霊界へ帰還した貰ったことを説明した。

 色々話し合ったことは黙っていた。


「『スクロール』はいいけど‥‥、その『解呪杖:キャンセレーションロッド』はお高いのよね‥‥‥」


 カレンがロッドをじっと見ながら言った。


「そうですね。稀少『魔法古物』なので金貨500枚くらいでしょうか?今は効果を失ってただの木の棒ですけどね」


「‥‥安心して、ちゃんとパーティ資金から充当するから」


「当たり前だろ。それが無かったら俺たちは次のブレスを喰らって、全滅だったんだからな」


 ジョナサンがカレンに厳し目に言うが、その姿はボロボロである。普段ジョナサンは自分自身はあまり前衛に出ず、後方支援だが今回はそうもいかずバックラーには大きな傷跡、服装にも焼け焦げた跡がある。

 グレイサンドとカレン以外は皆、同じような状態でギリギリの状態だったことが分かる。


「とりあえず、予定通りだが今日はここで野営だが」


 ダブスが言いだすがウェンディが被せてくる。


「まずは汗を流しましょう」


「いえ、まずは戦利品の確保よ。幻燐竜の素材は手に入らなかったけど、鱗は大量にあるし」


 カレンが『魔法収納袋』をパンパン叩きながら言うのに。


「冒険者の死体も集めて、悪いが‥‥メリッサ、お願い出来るか」


 ジョナサンはカレンの『魔法収納袋』から私の『魔法収納袋』へ目を移す。




「とりあえず、一服せんか」


 グレイサンドの一声に皆が賛同した。


次回は明日16:00頃、更新予定です。


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