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幻燐竜ダンジョンB6F 4

 ダブスが右前脚の爪の一撃を受け大きく仰け反り、走り寄るジョナサン。追撃の噛みつきを牽制するようにカレンは『雷撃:ライトニングボルト』の青白い光を放つ、雷の光はカレンの右手上空に浮かんだ魔法陣から伸び、味方を巻き添えにしない様な角度で二体の幻燐竜を貫いている。

『雷撃:ライトニングボルト』は直径50㎝長さ20mほどの円柱状の雷を任意の場所から発生させることが出来て範囲が円柱状な為、相手が大きければ混戦状態でも味方に影響させず打つことが出来る。


 チャドが噛みつきの一撃をタワーシールドで受けて大きく飛ばされ後退した隙を『分身:ミラーイメージ』で四人になったウェンディがエストックを抜き放ってフォローに入る。

『分身:ミラーイメージ』は精霊の力で自分の幻影の分身を作る魔法であり、分身は自身の隣に出現し本体と同じ動作を行うが、攻撃が四倍になる訳ではない。また、攻撃を受けると本体の代わりに攻撃を受けて消滅する。


 グレイサンドは石筍の間を器用に走り抜け幻燐竜の右サイドに回る。


 私は幻燐竜の左サイドの石筍の間で『モノクル』を右目に嵌めじっくりと戦線を観察する。

 この『モノクル』は魔力を見ることが出来る魔法古物である。普段は店に持ち込まれる品から魔力を感じるかどうかの判別に使っているが、戦闘時に使うと今はチョット不謹慎だが面白い物が見える。

 カレンの『雷撃:ライトニングボルト』も青白くて派手だが、カレンから集まった魔力が魔法陣を構築し雷に変換される流れが眩い白い光で見える。

 ウェンディの周りには分身は本体も含めて四体が白く光る。

 ダブスの『バスタードソード』もチャドの『ヘルム』もジョナサンの『バックラー』も力を行使している魔法の品はどれも淡い白い光を放っている。


 そして幻燐竜も全体が虹色の光をばら撒いているがその輪郭には白い光を纏っており、その光をよくよく目を凝らしてみてみれば、細い本当に細い白い光の糸が二体の幻燐竜の背中から出ているのが分かる。

 その糸の先を追っていくと二本は途中で一本に纏まり、幻燐竜の後方の石筍の中に消えている。


 その光の糸を追ってゆくと石筍の奥の壁に消えており、その壁も仄かに光っている。

 壁に手を触れるとスッと通り抜けてゆくのでそのまま進んで行く。

 戦闘音を背後に聞きつつ、薄明るい洞窟の通路を進むと前方が虹色に輝くのが見えてきたので、そのまましばらく進むと先ほどの広場と同じほどの空間があり、白い糸はその中央に鎮座した幻燐竜の眩い虹色の光に溶け混んでいるのが分かる。


 そして幻燐竜はもたげた頭をこちらに向けていた。その瞳には知性、驚き、好奇心のようなものが感じられる。


【こんにちは。幻燐竜さん。私はメリッサ・スーと申します】


 ドラゴン語で挨拶した私に幻燐竜の瞳は更に驚きの色を増したように思う。


【こんにちは。メリッサ・スー。私は幻燐竜、人間で言うところの種族名だが、こちらの世界では私以外の幻燐竜には合ったことが無いので特段、個体の名はない】


 ゆっくりと進む私に幻燐竜の首が下がってきて高さを合わせてくれる。


【ところで私の疑問に答えてもらっても良いかね?君はなぜここに私がいると分かったのかな?】


【そうですね。まず、ドラゴンブレスを放ったお一人目の幻燐竜さん自体が幻影であると思いました。温度計という物をご存じでしょうか?】


 左手のアームレストの内側に付けた温度計を見えるようにする。


【中に水銀が入っていて、外部の温度によってこのメモリが動くようになっています。先ほどドラゴンブレスを受けた時に炎が蠢き、轟音が耳を劈き、衝撃波が来て、焼け焦げた匂いがしましたがこのメモリは微動だにしませんでした】


【なるほど、それでドラゴンブレスが幻影であるなら本体も幻影であるという事か。幻影はこちらが見せたい物しか見せることは出来ない。私の幻影は五感に加え『精霊』や『魔法』にも影響が与えられるが私が認識していない、知らないものまで効果を発揮することは出来ない。よく気が付いたものだ】


【それは事前にヒントがありましたので。2か月前彼らが炎のドラゴンブレスを受けて命からがら逃げてきたという話を聞いています。それとは別に過去にここまで来て逃げ延びた冒険者の証言を合わせると矛盾があったんです。50年前の冒険者は雷のブレス、120年前は毒ガス、200年前は氷のブレスという記録が残っています。どれも最初の一撃で放っていて、特に冒険者を全滅させようという意図はないのか生き残りも多いですね。一種のドラゴンが放つブレスは基本一種類ですからこれはおかしいことです】


【なるほど、その時々の気分で適当に幻影を作っていたので気にしたこともなかったな】


【そうですね。ブレス袋の動きもおかしかったです。炎のブレス袋は火炎嚢ともいわれ、ブレスを吐き出す直前に喉元や首の下側が、風船のようパンパンに膨れ上がります。これは内部で可燃性のガスと空気を混合させていることを示します。先ほどはその膨張が全然足りませんでした。また、ブレスを吐いた後のブレス袋は、使い果たされだらしなく垂れ下がった革袋のような感じになるはずがスッキリとした元の形のままでした】


【いや、よく見ているな。そんな細かいところまで】


【それに】


【まだあるのか?】


【ブレスを噴射すれば、その力と等しく逆向きの力が体全体にかかります。古代の知識では作用反作用というものです。ですからあれほどの威力と衝撃波を産むなら、それ相応に頭や体が後ろに押し戻されなければならないのに、一切それがありませんでした】


【う、うむ。次からは改善しよう】


【というようなことからあちらの二体は幻影であると思われました。『幻影』は単純な壁や何かの隠蔽、同じ動作を繰り返させるなら魔法を掛けてその場を離れることができます。しかしその時々の相手の動きに合わせて幻影を操るならどこかで近くに幻影を操っている術者がいることになります。私自身『幻影』を使うことがありますのでそのような場合、『幻影』と術者の間に魔力の糸が繋がっていることは知っていました。今回のような本当に見えるか見えないかという細い糸は初めて見ましたが、その糸を追えば術者にたどり着くことができます。ちなみにこれが魔力を見ることが出来る『マジックアイテム』です】


『モノクル』を触ってみせる。


【なるほど。それでここまで来られたわけだね】


 幻燐竜は瞼を一度閉じ潤んだ瞳を向けてくる。


【それで君はお仲間とは何か違うね?栄誉や名声、お宝を求めている訳でもあるまい?】


 微かに聞こえる戦闘音をバックに幻燐竜が聞いてくる。


【はい。あなたに聞きたいことがあって来ました】


『魔法収納袋』から透明で中に細かい線が無数に入り乱れて入った直径5㎝ほどの『珠』を出し幻燐竜の前に翳す。


【私の名前はメリッサ・スー、三年前まではメリッサでした。そしてスーはスザンナリース、私のお母さまの名前でもあります。この『珠』とスザンナリースという名に心当たりはありませんか?】







次回は明日16:00頃、更新予定です。

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