幻燐竜ダンジョンB5F 4
さぁ、今日は第五層を抜け、幻燐竜に挑もう。
昨夜の残りで朝ご飯を簡単に済ませ、野営の片づけをして出発である。
ワンダリングモンスターを回避しつつ、第五層の階段部屋まで無事に到着した。
今日は幻燐竜に挑む予定なのでそれまではなるべく消耗しない様にする。
グレイサンドのチェックで部屋の中には特段魔物の気配等が無いことを確認し、扉が開かれ戦士二人が正面に立つ。
『光の精霊』が飛んで行き部屋の中を照らすと、またも部屋は20m四方、天井高10mほどである。
部屋の中央には仁王立ちしているゴーレムがいる。鉄でできたと見られるその武骨なデザインの体は体長が4mほど、武器は持っておらず‥‥あれ、抜身の剣が胸部分に張り付いている。
「散開!」
「ストップ!」
カレンの指示で皆が戦闘態勢を取ろうとするのを急ぎキャンセルする。
「アイアンゴーレム!高魔法耐性、磁力注意、グレイサンド、ナイフを」
簡単な諸注意とグレイサンドの胸の投げナイフを見ながら指示する。
アイアンゴーレムは悠々と立ったままなので、グレイサンドがこちらの意図を察知し放った投げナイフはアイアンゴーレムの頭部に当たると跳ね返ることもなくそのまま張り付いた。
ダブス、チャドの前衛ハーフプレートコンビが止まった足を更に数歩下げた。多分、アイアンゴーレムに張り付いた自分を想像したのだろう。
アイアンゴーレムはアイアンと言っても、主な素材は鉄とニッケルの合金であり、熱衝撃に強い素材である。よって『氷系の呪文』と『炎系の呪文』のコンビ攻撃で破壊することは難しい。
また、『氷系・炎系』の呪文に対する耐性が強いことに加え、魔法耐性が付与されていることが多く、攻撃魔法全般が効き辛い。
更に内部には磁界を発生させる別の機構が内包されており、近づく鉄製の物はみんな張り付けてしまう。
こちらの接近戦の主武器である剣も戦槌のヘッド部分も鉄製であるため、無効化されてしまうであろう。
とても倒し辛いゴーレムなので回避したいところだが、階段部屋の魔物は倒さないと階段の扉が開かない仕様になっている為、どうにかするしかない。
アイアンゴーレムがゆっくりと一歩一歩こちらに近づき始めた。
ダブス、チャド、ジョナサン、ウェンディのハーフプレート、チェーンメールの金属鎧組が、気持ちアイアンゴーレムに引っ張られるようで足に力を入れた。
仕方ないので『魔法収納袋』の裏ワザを使う。
「ダブス、じっとしてください」
ダブスに近づき着ている『ハーフプレートメール』とその下のチェーンメール、ヘルム、『バスタードソード』、予備のショートソード等の鉄製、もしくは鉄を一部使っている装備を『魔法収納袋』へ収納した。
「うぉー!」
一瞬でリネンのアンダーウェアだけになって悲鳴を上げたダブスに硬樫の杖を渡し、背中を叩く。
「時間を稼いでください。はい次」
自分の下着姿の恰好と杖、アイアンゴーレムを見返し、何とか状況を理解したダブスがアイアンゴーレムに突っ込んで行くのを横目にチャドに掛かる。
チャドは目の前でダブスの状態を見ていたので驚いた様子もなく受け入れ、革鎧と堅樫の杖を持ってダブスを追った。
「カレンもグレイサンドを」
ジョナサンに取り掛かるところでカレンに声を掛ける。グレイサンドは投げナイフと『短剣』くらいで着ている鎧を収納するわけではないので問題ないだろう。
『魔法収納袋』に収納したものは外部の影響、この場合は磁界の影響を受けない。
人間が着ている鎧を収納するには、それ以外のアンダーとかを無視し鎧だけを意識しなければいけないのでちょっと要領がいる。まぁ、トルソーに掛けた鎧で練習しておけば出来るようになる。
何とか全員の鉄製品を収納したところで状況を整理する。
ダブス、チャドが前衛で防御に専念している。
カレンが途中で『加速:へースト』の呪文もかけているので大ぶりなアイアンゴーレムの攻撃を問題なく避けているが、こちらからもダメージを与えられてはいない。
ウェンディ、ジョナサンは有効な呪文が無いため待機状態だ。
グレイサンドは大きく回って周りの警戒をしている。
ここで時間を掛けてもいられない。
「正面、開けて」
私の声でダブスとチャドが左右に分かれたところに『魔法収納袋』から出しちょっと勢いを付けた馬車の車輪が磁力に引かれ加速しゴロゴロとアイアンゴーレムにぶつかりその足元に貼りついた。
続けて三つの車輪、チャドの壊れたタワーシールド、鍋、鋤、鎌、鉄で補強された扉、鎖、以前の冒険で拾って何かに使うかと入れたままにしていた剣・その他武器各種30本、鎧盾各種10体分などなど鉄、および鉄製の諸々を、アイアンゴーレムにプレゼントする。
前面に諸々が貼りついたゴーレムは動きが鈍くなり、攻撃もし辛いようだ。
「ゴォォーーーー!!」
発声機能はないかと思っていたアイアンゴーレムが雄叫びを上げ体を一瞬縮こませた。
「離れて!カレンMM」
「OK、MM」
私の合図でダブス、チャドがアイアンゴーレムから距離を取り、それ以外の者も数歩下がり、カレンは呪文詠唱に入る。
途端、アイアンゴーレムに張り付いていた諸々が飛び散り、鍋がダブス、グレートソードがチャドを襲う。ジョナサンやウェンディの足元にも鎧の部品などが飛んでくる。
磁力の力を引力から斥力へ切替えたことにより、アイアンゴーレムに張り付いていたものすべてがアイアンゴーレムの体から反発し飛び散り壁、床に散らばった。
素の状態に戻ったアイアンゴーレムは左右後方の戦士の硬樫の杖の攻撃をものともせず後衛の私たちに近づいてくる。
「ゴォォーーーー!!」
「後方注意!」
再びアイアンゴーレムが雄たけびを上げ、私は注意を発する。斥力によって床や壁際まで散らばっていた諸々が引力によってアイアンゴーレムに勢いよく引き寄せられる。
しかも最初より勢いがある。最大出力であろう。
後方からの剣や何かを皆が避けるのを横目に私は『魔法収納袋』から直径30㎝ほどの二つの鉄球の位置を調整し出す。
途端、勢いよく引き寄せられた鉄球が他の諸々と共にアイアンゴーレムの胸部と頭部に激突し双方が砕けて破壊された。
弾けた頭部の隙間から核の赤い光を認めたカレンが五本の『魔法の矢:マジックミサイル』を全弾打ち込む。
ガシャーンと諸々がアイアンゴーレムの体から落ち、ゴトンと鉄球も音を立てる。
動作の止まったアイアンゴーレムは立ち往生している。
「止まったのか?」
ダブスが心配げにアイアンゴーレムと諸々の鉄製品の山に近づく。
「はい。もう大丈夫ですね。では装備の返却をしますので並んでください」
各自に預かったものを返してゆく。鎧は収納時には簡単に入れられるが着る時には紐や革ベルトで留めたりといったことが必要なので時間を要する。
「いやーー!着ている鎧を収納できるなんて初めて知った」
ダブスが感心しているがあまり良い使い方ではない。
「ちょっと練習が必要ですが器用な人なら習得できると思います‥‥‥」
「他のパーティとかには言わない方が良いな」
ジョナサンが渋い顔で言うので頷く。
「なんで、役に立つじゃん。野営の時とか一瞬で脱げるんだったら、私も練習しようかな」
カレンが軽く言うのにダブスが珍しく真剣な顔で返す。
「確かに、急だったこともあるが一瞬でチェーンメールもハーフプレートも剥がれた時はとてつもなく心許ない、不安感に包まれたな」
「ごめんなさい。謝ります」
「まぁ、気になさんな。あの状態では鉄製品を無くすことは急務じゃったんだから」
グレイサンドが目元を緩めて言ってくれる。
「悪用されたら面倒な技だから広めない方が良いな」
ジョナサンの締めの言葉に全員が頷く。
カレンは頷いているがきっと一人の時に練習しそうだ。
各自、再装備をしている内にアイアンゴーレムと周りの諸々を回収しておく。壊れてしまったものも有るが全て収納しておく。帰ったら一度整理しよう。カレンの事を色々言えなくなってしまう。
アイアンゴーレムは魔法塔の研究材料になるので、教授たちのお土産にしよう
さぁ、第六層だ。
次回は明日16:00頃、更新予定です。




