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幻燐竜ダンジョンB5F 1

誤字報告ありがとうございます。

 さて第五層であるが以前来た時にグレイサンドが作ったマップは半分以上出来上がっており、中間地点に隠し部屋の記載がしてある。私の目的地である。

 第四層までは他のパーティやギルドからの情報でマップは埋まっているが、この階層からはどのルートが最短ルートかは判明していない。

 しかし、事前の打ち合わせで今回の目的は幻燐竜討伐に絞っている為、未探査地域の探索はしない方向性となっている。

 つまり、回り道かもしれないが以前通ったルートを踏襲していくことになっている。


 何度かのワンダリングモンスターとの遭遇を遣り過ごしたり、討伐したりする。第五層ともなるとワンダリングモンスターもそこそこの強さなので全部相手していると手間が掛かるのだ。

 そして隠し部屋のある部屋の前まで来た。


 グレイサンドのチェックで部屋の中には大きな人型生物の吐息が複数聞こえることが確認され、扉が開かれ戦士二人が正面に立つ。

『光の精霊』が飛んで行き部屋の中を照らすと、またも部屋は20m四方、天井高10mほどである。


 事前情報通り、部屋の四隅には首に太い首輪が嵌められ、首輪から伸びたこちらも太く重そうな鎖で壁に固定されている巨躯のトロールが四匹いる。

 扉が開き、部屋が明るくなると低く唸り声をあげ、眩しそうにその毛むくじゃらの腕で目を覆った。


「よし、前回と変わってはいないな」


 ダブスが注意深く部屋を見回した。

 部屋の中央には高さ1m、縦横3mほどの石製の台があり、ダブスの合図で全員が慎重に部屋に入る。

 トロールたちは四隅で腕の陰から我々を見てはいるが特段興奮している様子はない。しかしダブス、チャド、ジョナサン、ウェンディがそれぞれ四隅を警戒する。

 ゲーム台は標高差、植生などがリアルに再現された地形図で六角形のへクスが全面に描かれており、赤と黒の軍隊の部隊を現した駒が大量に配置されている。

 グレイサンドがゲーム台の上を見辛そうにしているので彼の脚立を出してあげる。


「どう、何とかなりそう?」


 カレンが盤上を見ながら尋ねてきた。


「古カンタブリア朝後期の大戦末期、ザ・ウェイリング・ウェイストの戦いですね。帝国軍8万対皇国軍10万の戦いで双方半数以上の犠牲を出して、帝国崩壊の切っ掛けともなったと言われている嘆きの荒野の戦いです。聞いていた3時間半のタイムオーバーは史実の決着時間ですね。実際には三日と半日で皇国軍の勝利となっていますので、一日を一時間に短縮して進めるという事でしょう」


「そう、時間が経つと鎖が徐々に伸びてきて、じりじりと奴らが近づいてくるのよ。で、そこにある矢印が三つ半動くと首輪が外れて、一斉に襲ってくる」


 カレンはトロールを見て、ブルっと体を震わせた。


 トロールは体長が3m近く、ダブスの1.5倍にもなる鋭い爪と歯、強靭な体が持った人型で傷を再生させる能力がある厄介な魔物だ。人肉を好んで食べることから遭遇すれば間違いなく戦いになる。

 通常、遭遇すれば叫び声をあげながらすぐさま襲い掛かってくるのだが、この四体は首輪と鎖でどんなに暴れても無駄なことを学習したのか、じっとこちらを伺っている。

 大人しいことが逆に恐ろしい。


「前回はタイムオーバーで襲ってきた奴らを何とか倒したけど、大変だった‥‥‥」


「分かりました。どうやら先行はいただけるようです。皆さんは警戒しながら休んでてください」


 ゲーム台の横に書いてあるルールを一読し、ゲーム台上にあった指揮棒を手に取り、帝国軍の黒駒を動かしだす。


 戦況は渡河できる程度の川を挟んだ平原で、両軍共に丘の上に簡易砦を築いた状態だ。双方援軍は見込まれず、兵糧も十分、士気は高く、秋晴れが続き天候の急変もなく奇襲、奇策などの余地がない総力戦の様相だ。


 皇国軍10万は兵力優位を活かして、短期決戦で帝国軍8万を包囲・撃滅することを狙い、両翼へ騎兵を集中し包囲を狙う。


 帝国軍8万は兵力差を埋めるために防御優位な場所を確保すべく森林、丘陵などを背後にし、 弓兵や槍兵を強化し、正面からの突撃を確実に受け止める強固な陣形を築く。


 お互いの弓兵・弩兵の遠距離攻撃の応酬から始まり、皇国軍の軽騎兵は帝国軍の側面に突破口が無いかを執拗に偵察・攻撃を繰り返す。


 皇国軍は、数的優位を活かすため、歩兵部隊を波状的に正面に押し出し、帝国軍の防御陣を疲弊させようと試み。


 帝国軍は波状攻撃に耐えつつ、重騎兵で皇国軍の最も防御の薄い部分への集中突撃を咥えるタイミングを伺う。




 など帝国軍を史実通り動かしてゆく。そしてこちらが史実通り軍を動かしている限り、皇国軍側も史実通り動かすのを確認する。


 史実の残る大規模戦闘であり、その後の研究文献も多いため昔は図書館の軍事史の棚に背中を預け読み耽ったものだ。


 3時間、三日分を史実通り進行させ四日目の早朝に仕掛ける。


 皇国軍は四日目の早朝、夜も明けぬタイミングで重装騎兵による突撃攻撃を仕掛けてくる。

 史実では急遽、槍兵による防御陣形を取って応戦するが破れ、陣地は蹂躙されそれを契機に戦線は崩れ帝国軍は敗走することになる。


 しかし今回は槍兵での防御陣形は取らず、部隊を引かせた。それにより重装騎兵の前には帝国軍の本陣が敷かれた丘が丸見えになる。


 今まで史実通り動いていた盤面が初めてシナリオを外れたことにより、それまでスムーズに次手を指していた皇国軍の動きが止まり、考慮時間に入る。


 一分後、重装騎兵が転身し自軍に戻ろうとしたところでその鼻先を帝国軍の重装歩兵が塞ぐ、突進力の失われた皇国軍重装騎兵はその後、四方を囲まれ撃滅された。


 ここで、盤上に「Congratulations! You Win!」という明かりが表示され、ガラガラッと鎖の巻き取られる音が響いた。


 見るとトロールに対峙していたダブス達四人はゲーム台のすぐそばまで来ており、トロールも間近で見上げるほどになっている。

 しかしトロールたちは腕を振り回し、喚き声をあげながら鎖と共に首を引かれ名残惜しそうに四隅に戻されてゆく。


「やったわね。メリッサ」


 珍しく途中で口も挟まず黙って見ていたカレンが話しかけてくる。


「ええ、先人の知恵に救われました。色々な方が分析や研究した文献で対応策として一番有効とされた戦法を取りました。皇国軍が打った戦況を決定的に変えた一手を潰すという一番確実な方法です。でも出来れば次の機会があれば最初から自分の考えて手で行きたいですね」


「いや、次は無い」


 カレンは頭を振った。


「最後、重装騎兵が突っ込んできてたらどうしたんじゃ」


 グレイサンドが盤面の帝国軍本陣を指さす。


「既に弓兵・弩兵を突撃する進路の左右にたっぷり配置してありますので矢衾です。ハリネズミになるでしょうね」


 グレイサンドがブルっと体を震わせ、奥の壁際に向かった。


 四方の四人は四隅に戻されたトロールを依然警戒している。


「じゃあ、行きましょうか」


 カレンがグレイサンドのいる方を指さすと全員ゆっくりとそちらに移動し始める。


 ダンジョンではこういうギミック、仕掛けが偶にある。

 謎解きというか試行ゲームというか、戦闘力だけでなく知力や知識を試すような試練だ。いったい誰が何の目的で設置しているかは分からない。

 そしてだいたいは褒章が与えられる。

 今回の場合、隠し部屋の中身がそうであろう。


 私はゲーム台をダメ元で『魔法収納袋』に入れようとしたが出来なかった。

 得てしてこの手のギミックは持ち帰り不可である。

 ダンジョンと一体化しているのか、魔術的に妨害しているのか?

 持ち帰れたら興味を示す人がきっと多くいるのだが‥‥‥。




 グレイサンドが隠し部屋の扉を開けて、皆が待っている。


 今日はこの部屋で野営だ。

 晩ご飯を食べて英気を養おう。




次回は明日16:00頃、更新予定です。

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