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幻燐竜ダンジョンB3F

 第三層も石造り迷宮型で変わりがない。

 マップも完成しており、最短ルートを進むため余計な部屋を開けてわざわざ戦闘する必要もない。

 よって戦闘になるのは通路で徘徊しているワンダリングモンスター位である。

 何故か部屋等で待機?している魔物は階層に合わせて強い魔物もいるが、ワンダリングモンスターは比較的弱い魔物が多い。

 しかも基本的に20mくらい先にウェンディの『風の精霊』が斥候?してくれているので不意打ちを受ける心配もない。

 ただ、『風の精霊』からはアバウトな情報しか伝わらない。

「この先に人型の者がいっぱいいるよ」くらいであるが十分である。

 そこからはノームのグレイサンドが壁や地面に耳を付けて『土の精霊』や『石の精霊』の力を借りて足音の多きさや数などを把握する。

 更に必要ならカレンが『魔法の目:ウィザードアイ』で詳細を確認し場合によっては遭遇を回避するなりする。


 よって必要最小限の戦いで第四層への階段部屋の前まで来ることが出来た。


 階段部屋での戦闘は避けることが出来ない、そして扉を開けるまで何がいるかは分からない。

 全員が装備の点検をして、隊列を組む。

 グレイサンドが聞き耳を立てて、扉の近くには異常なしのサインをして扉を開け、戦士二人に正面を空けるため横にずれる。


 ウェンディの『光の精霊』が飛んで行き部屋の中を照らす。

 部屋の中は大きく拓けた空間で床は石畳となっているが壁や天井は岩肌が露出しており、床にもところどころ岩塊が転がっている。

 見たところ魔物の姿は見えない。


 ウェンディが『風の精霊』を飛ばし索敵しようとしたところで奥の岩塊の上に魔物が姿を現した。

 山羊とライオン、ドラゴンの三つの頭にライオンの前半身、山羊の後半身、ドラゴンの羽と尾を待つ体長4mほどのキメラである。


「GLDタイプ、チャドD、ダブスG、散開!」


「「OK」」


 カレンの指示で全員が動き出す。

 ダブスとチャドが交差してダッシュしダブスは山羊の頭、チャドはドラゴンの頭の方に向かう。

 グレイサンドは右の近くの岩塊の一つの裏に走り込む。

 ウェンディは左に横移動し『風の障壁』の呪文を唱える。

 カレンは右に横移動し『氷の矢:アイスアロー』の呪文を唱える。

 ジョナサンも左に横移動し『風の障壁』の範囲で『耐火:レジストファイアー』の呪文をチャドに掛ける。

 私メリッサは左の岩塊の裏に走り込み


「グオオオオオ」

「ガオー」

「メェ!メェ!」


 キメラの各頭が雄叫びを上げ、迫ってくる戦士二人に山羊の角、ドラゴンの噛みつきを行おうとしたところでダブスが山羊の角の直前で急停止した。

 突っ込んで来るところに角を合わせようとしていた山羊の頭は空を切り、その下のライオンの右足はたたらを踏んだ。その影響でチャドに噛みつこうとしていたドラゴンの頭があらぬ方を向く。

 その隙にカレンの上空に浮かんが五本の『氷の矢:アイスアロー』が解き放たれライオンの頭を直撃し苦悶の叫びをあげさせる。


 そこからは山羊の頭をダブス、ドラゴンの頭をチャドが受け持ち、左右にそれぞれの意識を向けさせ、中央のライオンの頭にはなるべく仕事をさせないようにした。

 チャドは何度かドラゴンのブレスを喰らったがタワーシールドで直撃を避けると共に『耐火:レジストファイアー』の効果でダメージを押さえた。

 前衛二人は何度か角や噛みつき、爪の攻撃を受けたがジョナサンの『治癒:ヒーリング』を受け前線を維持する。

 そして戦士二人及び魔法使い二人の散発的な呪文攻撃にライオンの頭が苛立った咆哮を上げ頭の動きが一瞬止まったとき、その鼻元へ私は『魔法収納袋』からマタタビラクトンボールを喰らわし炸裂させた。

 咆哮を上げた直後のライオンの頭は炸裂し漂った粉を勢いよく吸い込む。

 直後、ライオンの目がトロンとし、その胴体はゴロゴロ、スリスリ、床に転がり始めた。

 山羊とドラゴンの頭は急に胴体が転がり始めたので抗うことが出来ず、その急所を晒す。

 ダブスが山羊の喉元に、チャドがドラゴンの脳天にそれぞれ会心の一撃を加え、それぞれの頭が落ちる。

 続いて腹を見せて背中を地面にこすりつけているライオンの前半身の心臓にダブスの剣が沈み込んだ。


 グレイサンドがキメラの後方から姿を現し「伏兵なし」のサインを送ってくる。


 ダブスとチャドがハイタッチしているところに全員集まり、損傷状態の確認、『治癒:ヒーリング』を施す。


「ナイス!マタタビラクトンボール!」


 チャドが呪文を掛けてもらいながら声を掛けてくる。


 マタタビラクトンとは古代の文献に載っていたネコ科の動物の多幸感、陶酔状態の誘発を起こさせるマタタビという植物の成分である。マタタビラクトンボールはその成分を抽出し粉状にしてボールに詰めた物で強い衝撃ではじけるように作ってある。

 鼻で吸い込ませることで一番効果を発揮できるため、一番効果的な呼吸のタイミングを見計らっていたのである。



 横たわるキメラの死骸を眺めていたカレンが私の腰に目をやる。


 今まで倒したホブゴブリンやオーガなどは討伐依頼も出ていないし、素材としての価値も低いので放置であったが、目の前にはライオンのたてがみ、山羊の角、ドラゴンの鱗など高値で買い取ってもらえる素材がまとめて転がっている。

 通常であればここで解体ショーの始まりである。

 価値のある素材のみを厳選して剥ぎ取り、価値はあれど重荷になるものは断腸の思いでおいて行かなければならない。


 カレンが人差し指を加え、腰を落とし、上目遣いに近づいてきた。


「メリッサさん、お願いできますか?私のじゃあ入りきらなくてぇーー」


 私は二歩後ずさりした。


「今後、その頼み方をしないならお願いされます」


「よっしゃ!よろしくね。ギルドも新鮮なまま持ち込んで、内臓とか血とか目玉とかも取れる方が全然高く買い取ってくれるのよ。やっぱり持つものは大容量時間停止機能付きの『魔法収納袋』持ちの友達ね」


 軽くパシパシと背中を叩かれるので仕方なく、キメラに近づく。


 山羊とライオン、ドラゴンの三つの頭というスタンダードなキメラである。

 キメラとは古代の魔法使いによって作られたと言われる合成獣である。大きな意味では2種類以上の生物を合成していればキメラという事になるので、ケンタウロスや人魚、ハーピィなどの半人もキメラと呼ぶことがあるが、一般的には3種類以上の動物、魔物の特性を持つものを呼ぶことが多い。

 ちなみにGLDとは山羊とライオン、ドラゴンの頭文字であり、それ以外でも蛇や熊、狼などなどが使われるときはSやB、Wが使われ、山羊とライオン、蛇と時とかはGLSとかいうことになる。

 まぁ、これも古代の文献からの拝借であるが、パーティ内の符丁である。


 それから今回はチャドが右サイドで上手く立ち回ってくれたのでドラゴンの炎のブレスは後衛に向くことは無かったが、このブレスというのが厄介者である。

 コーン状、雲状、直線状と形状も違えば、炎、毒霧、塩素ガス、電撃、冷凍、酸などのタイプもある。

 今回のキメラのドラゴンブレスは「炎のコーン状」タイプであり最大射程の距離も短めだった。

 それでも下手な位置取りをすると、正面の戦士から中衛、後衛の魔法使いまで一度のブレスで放射状の範囲に多数の犠牲が出ることもある。

 よってチャドが右サイドで積極的にブレスを受ける位置を取り、魔法使いは横の距離を取り、ウェンディは念のために『風の障壁』を作り回復役のジョナサンはその庇護を受けられるような位置取りをしていた。

 そして攻撃力の高くない遊撃二人はさっさと認知外に位置取りをし索敵と隙を伺うことにした。


 とりあえずドラゴンブレスは要注意である。




 さて、キメラを収納し小休憩したら第四層に降りよう。


次回は明日16:00頃、更新予定です。

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