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幻燐竜ダンジョンB2F 1

 第二層は第一層とあまり変わりなく石造りの迷宮タイプである。

 出てくる魔物も雑魚のホブゴブリンを従えたオーガ程度である。オーガ数体とホブゴブリン10体位がセットで出てくると前衛二人でも多少時間が掛かるのでウェンディやカレンも風系や氷系の攻撃魔法で数を減らす。

 ウェンディはさらに前衛二人の後方で後衛に奴らが来ないように牽制する中衛の位置でエストックを振るっている。

 グレイサンドは前衛二人が背後を取られないように投げナイフで援護する。

 カレンは全体を見ながら都度都度、魔法や指示を出す。

 ジョナサンも全体を把握し『治癒』を掛けるタイミングを見計らいつつ、後方警戒を怠らない。


 さて、普段はパーティに参加していない私メリッサの仕事と言えば、実は現状では大してない。多少時間が掛かってもオーガくらいであればこのメンバーで後れを取ることは無い。しかし何もしないというのも居心地が悪いし、最近書類作成の仕事が多く多少ストレスが溜まっているのもあるので体を動かして勘を取り戻すことにしよう。


 丁度ダブスの前のオーガがダブスの一撃を受けて仰け反った。ダブスは攻撃を加えた後、ちょっと態勢が崩れている。


「ダブス、頭下げて」


 私の合図に即反応しダブスが腰を落とす。オーガは身長180㎝位でダブスと同等位の大きさだが、ダブスが腰を落としたことによって仰け反って上がった顎から喉がこちらから丸見えになる。私は『魔法収納袋』に手を入れ中からクロスボウの矢を取り出す。

 矢は一直線に飛んでオーガの喉元から頭蓋に吸い込まれ、ダブスは後ろに倒れ込むオーガを足蹴にして蹴り飛ばし後ろにいたホブゴブリンともども昏倒させ、次の獲物に向き直る。


「メリッサ、ナイス」


 カレンがこちらに一言掛けて、次の呪文詠唱に入る。



 そんな感じでオーガも問題なく撃退できた。倒れている奴らにとどめを刺してダブスが近寄ってきて手を上げるのでハイタッチしておく。


「サンキュー、メリッサ」


「だから、私もそれ覚えたい」


 カレンがまた言ってきたが今は無視しておく。


 古い学術書にベクトルという概念が載っている。「大きさと向きを持つ量」という事らしいがクロスボウで言うところの「矢」に与えられた「速度」と「向き」と私は考えている。矢印で考えるとその長さで速度、勢いを表され長いほどエネルギー?がどれだけ大きいかを示し、矢印の向きはその進行方向を示すと考える。

 このベクトルという考えを持って時間停止機能のある『魔法収納袋』を使用した場合、クロスボウから発射された「矢」を触って、『魔法収納袋』に入れた段階でベクトル「速度」と「向き」を持ったまま「矢」は収納され『魔法収納袋』の中で停止する。

「矢」は『魔法収納袋』の中の架空の棚に収められ次に取り出されるまで静かに待機する。そして必要な時に矢印の「向き」を「逆」にして微調整し取り出すと「矢」は収納された時と同等の「速度」を持って『魔法収納袋』から飛び出して行くことになる。


 これがカレンが自分もやってみたいと言っていた『魔法収納袋』から飛び出す「矢」である。

 ただし、「矢」を収納する段階で適性と訓練が必要である。まず、動体視力が優れていて飛んでくる「矢」を目で捉えて、触れなければならない。

『魔法収納袋』に収納するにはその物に触れなければならないからだ。

 私は木工工房に依頼し足踏みのペダルを踏むとワイヤーが引かれ、その先に固定したクロスボウの引き金が引かれる仕組みを作ってもらった。

 足踏みペダルのしくみは足踏み式の機織り機を参考にさせてもらった。

 これで5mほど離れたところから自分のタイミングで発射した「矢」を触る訓練を2週間は続けた。最初は手にも丈夫な革手袋をして、腕にも革製の籠手をしながら徐々に薄い手袋に変えていき、今では素手で出来るようになった。

 私の後ろで失敗した大量の「矢」を受けた巻き藁は無残な姿になっていたがご近所さんに配って焚きつけ等で天寿を全うして貰った。


 また、取り出す時もひと工夫必要である。取り込んだ「矢」は『魔法収納袋』の棚に置いてあるわけだが取り出す時に「向き」をちゃんと調整しないと仲間やあらぬ方向に飛ばしてしまうことになる。取り出す時は「矢」は止まっているので触るのは簡単だが、思った「向き」にするのは大変でこちらも森の中で一人で随分訓練した。


 とりあえず飛んでくる「矢」を捉える動体視力と訓練が必要であり、『魔法収納袋』の中の棚でどこに何があるかしっかり把握、管理できていないとダンジョンで実用的に使うことは難しい『魔法収納袋』使用方法の応用編である。


 なので、カレンにはお勧めしていない。

 本人は聞かないが。


 ちなみに時間停止機能のない『魔法収納袋』では収納してもベクトルはそのままなので入れた「速度」そのままに空間内部を跳ね回ることになる。試したことは無い。


 なお、クロスボウの「矢」以外にもいくつかの物を収納している。




 オーガを倒した後は少し離れて、小休憩で行動食と水分を取る。

 各自の装備を確認し、グレイサンドは回収した投げナイフの手入れを簡単にしている。

 私の「矢」は深く刺さっていたのもありそのまま置いてきた。



 進軍を進めていると通路の先で戦闘音が聞こえてきた。

 オーガの雄叫びと冒険者たちの焦ったような会話の遣り取りが石の通路に木霊する。冒険者が危なそうな雰囲気からグレイサンドが私たちに先行する合図を送ってから駆け出した。


 先の通路は暗いがノームのグレイサンドはインフラビジョンの能力がある。

 インフラビジョンとはプリズムで分光した時に赤から外れたところ、赤外線を見ることが出来る能力だ。

 物体自体が発する熱を見ることが出来て、温度が高い場所は赤く、温度が低い場所は青く見える。また、完全な暗闇や煙や霧の中でも有効である。


 ちなみにエルフのウェンディも同じ能力を持っている。


 戦闘音が聞こえてる中、待機している私とカレンは背負い袋を背負っておく。

 ほどなく「ピーー、ピー、ピ、ピ」とグレイサンドの合図が聞こえる。

「参戦、先ほどと同様の相手、数多い」の合図であるため、すぐさまみんなで駆けつける。


 グレイサンドが放ったいくつかの『光るさいころ』の明かりでオーガ5体、ホブゴブリン20体位を相手に冒険者パーティが半壊しているのが見える。

 前衛の戦士は一人で奮戦しているが、近くには二人の戦士が倒れ、弓使いは矢を使い果たし弓で攻撃をかわしている。その背後では床に転がった松明のそばで魔法使いが壁に凭れて神官が『治癒』を施しているのが見える。

 グレイサンドは蛮刀と短剣を抜いて別方向に数匹のホブゴブリンの気を向けさせている。


 先鋒で『光の精霊』二体が空中を飛んで空間が明るくする。

 カレンが『加速:へースト』の呪文で皆の速度を上げ、ジョナサンは『祝福:ブレス』の呪文で攻撃力と防御力を上げる。

 それからダブスとチャドは魔物の群れに走り込み、道すがらホブゴブリンを切り捨てオーガに切り結ぶ。

 ウェンディはエストックを抜き放ち、弓使いの前に走り込み『風の防壁』を張る。

 ジョナサンは魔法使いに駆け寄り神官と共に『治癒』をかけ始める。


 私は観察である。

 場所は開けた広場、魔物、冒険者併せて30体以上が乱戦していてもまだ奥には余裕がある。この先が第三層への階段部屋だ。

 オーガ二体ずつをダブスとチャドが受け持ち、一体は戦士が何とか持たせている。

 オーガの棍棒と戦士の剣の間合いは近づくと危ないのでホブゴブリン達は近くには寄らず、後方待機したりグレイサンドやウェンディたちの方を相手にしている。

 魔法使いはチャドの『治癒』で何とかなるだろうが、戦士の近くで倒れている二人の戦士は周りにオーガやホブゴブリンがいるので一度収容してからでないと『治癒』できない。

 これだけ数が多いと、本来なら近接戦闘になる前にカレンやウェンディの範囲攻撃魔法で数を減らすところだが、今はもう出来ない。

 ダブス達に前線を維持してもらって個別の攻撃魔法で数を減らしていくしかないが、あちらの戦士が余り永く持ちそうもない。


 さぁ、どうする。


次回は明日16:00頃、更新予定です。

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