幻鱗竜ダンジョンB1F
私たちはダンジョンの前にいる。
ダンジョンそれは地下に広がる自然の洞窟であったり、人工的な石造りの迷宮であったり、いにしえの都市の廃墟であったり、中には何階層にもわたる深い物であったり様々な様式? をしている。
古い帝国の研究施設だとか、魔法使いの隠居所だとか、別世界と繋がっているとか言われているが定かではない。中には『魔法古物』や金銀財宝があることもある。
概ね魔物が住み着き、人の侵入を妨げているがこの魔物も謎が多い。
ダンジョン以外でも魔物は居るが、ダンジョンの中はその遭遇頻度が異常に高く、通常の食物連鎖では説明できない不自然な環境になっている。
一説にはダンジョンの中は別次元と位相を近く、普段は微妙にズレている位相が何かの拍子に重なった時にこちらの世界に魔物が出現するなどという説もある。
古い帝国の書物にもダンジョンの記載があることからはるか昔から存在していたことは分かっているが、どう考えても今までなかったところに急に発生したとしか思えないダンジョンという物も存在する。
要はダンジョンについても魔物についても詳しいことは分からないという事である。
ただしそこには宝や魔物、ロマンが詰まっているという事だけは確かだ。
冒険者たちの行き来で出来た道とも呼べない道を通って二日、森の中を歩いてやってきた。森自体には魔物の気配もなく問題なく到着できた。
目の前には蔦の絡まった古い社が緑や茶色の色合いの中、白灰色の四角い口を空けている。
ダンジョンの入り口から少し離れた開けた場所で野営の後始末をして、私たちは各自装備を最終点検する。なお、お花摘みは少し前に済ませている。
グレイサンドはくすんだ赤毛を纏めるように額部分に『ヘッドライト』をしている。
ノームであるグレイサンドは身長が1mほどで力は成人男性に比べたら無いので薄手のレザーアーマーを着ており、その胸元に小型の投げナイフを四本ほど指している。腰の後ろには少し大きめの蛮刀と細くて長めの『短剣』を左右交互に横に刺し、腰の横には小袋をいくつも下げている。
背中には背負い袋を背負いその上から暗い色の短めのマントを羽織っている。
チャドは茶髪を覆うようにごつい『ヘルム』を被り、そのさっぱり系の顔を隠しているが目元には細い糸目が覗いている。細マッチョの体に厚手の革鎧の上からハーフプレートメールを着こみタワーシールド、『戦槌』を装備している。
今日はグレイサンド用の三脚は私が預かっているのでチャドは背負い袋のみである。
ダブスも煤けた金髪をヘルムに押し込み、ガタイの良い体にチェーンメールの上に『ハーフプレートメール』、『バスタードソード』を背中に背負っている。
荷物は腰の革ポーチや腰後ろの大き目のポーチに入れ、腰には予備のショートソードを指している。
ウェンディは白銀の髪を器用に頭の上にまとめ上げ、その上から鼻筋まで覆ったレザーヘルムを付けている。両脇に刺してある極楽鳥の尾羽がアクセントだ。エルフのスレンダーな体にチェーンメイルを纏い、腰には太めの『ベルト』を締めている。背中には短弓と『矢筒』、小さめの背負い袋が器用に背負われており、腰にはエストックを装備している。
カレンは金髪のくせ毛を後ろで太い三つ編みに纏め、軽いレザーアーマーを着こんで短いワンドと短剣を腰に指している。腰には『魔法収納袋』がキッチリ結ばれて背中にはなにも背負っていない。パッと見には魔法使いには見えない格好になっている。
手持ち無沙汰なのか飛び跳ねたり、ワンドを抜いたりしまったりしている。
「あぁ、身軽で最高!」
私メリッサも金髪を三つ編みに纏め、軽いレザーアーマーを着こんで短剣を腰に指している。ほぼほぼカレンと同じ感じだ。身長や体の凹凸が八割掛けだが‥‥。
ジョナサンも黒髪をヘルムに押し込み、ヒョロ長の体に『チェーンメイル』と『バックラー』、メイスを装備している。胸からは『聖印』を下げ、背負い袋とマントを纏っている。
隊列は状況によって臨機応変だが、進行方向に向かって1グレイサンド、2左チャド、2右ダヴス、3左ウェンディ、3右カレン、4メリッサ、5ジョナサンが基本形である。一列になるときは同じ番号の左の物が前に行くことになっている。
今回は潜る予定日数は三日で、不測の事態を考えて七日分の食料、行動食、水、ワインを各自持っている。
各自自分のチェックが終わったら、お互いのチェックも行う。
時刻は正確には分からないが二の鐘、八時位であろう。
ウェンディが『光の精霊』を三体ほど呼び出すと、精霊たちはキラキラと光り私たちの周りを回る。
私たちはダンジョンに踏み入れた。
社の中はすぐに下り階段になっており、横幅は2mほどなので一列になって下って行く。そのまま深さとして20m程も降りただろうか、天井がアーチ型になった6m×6mほどの部屋が広がる。地下に降りたことで気温が下がって少し肌寒く、湿度も増した。
『光の精霊』が頭の上を飛んで死角が出来ないように辺りを照らしてくれているので室内は隈なく観察することが出来る。
とはいっても観察しても何組もの冒険者パーティが入っているダンジョンの一部屋目なので真新しいことなどもない。
グレイサンドが合図して、慣れた様子でまっすぐの道を進んで行く。第一層は石造りの迷宮っぽくなっており、ゴブリンやホブゴブリンが多く出現するそうだ。
ダンジョン内の生態系? がどうなっているかは不明だがダンジョン内でゴブリンが何を食べて生きているのかは分からない。多少のコケ類や昆虫、小動物は見受けられるが到底、全ての腹を満たせる量とは思えない。
ダンジョン外の森の中などではゴブリンが群れを作り、木の実を採集したり、小動物を狩ったり、人間の村を襲って家畜を奪ったりしている姿が確認されている。ゴブリン以外の魔物も他の生き物との生存競争の中で狩ったり狩られたりしている。
しかしダンジョンの中の魔物はどう考えても食べ物のない部屋などにいることがあり、ある学者は奇天烈な説を唱えている。
ダンジョンの魔物は部屋の扉を開けるまで「いる」とも「いない」ともいえると両方を重ね合わせた状態だと。
冒険者たちが扉を開けて部屋の中を確認することによって「いる」か「いない」かが確定するという説である。
古い文献に載っていた説で詳しい証明等もされていないが、なぜ生存できそうにない部屋に魔物がいるのかという疑問に一石は投じていると思う。
まぁ、通路で遭遇したり部屋に近づいただけで音や匂いで気配を感じる時もあるので一つの説に過ぎない。ダンジョンも魔物も謎だらけだ。
今日は第五層の中間にある隠し部屋まで行って野営、明日は最深層の第六層を進んで最後の幻鱗竜にアタック、三日目は帰路に就くという予定である。
よって今日は第五層まで行くので寄り道等せず最短ルートで進む。なのでゴブリンとの遭遇も少なく、相手が逃げるなら追うこともしない。
そういえば他にも疑問はある。
曲がりなりにも奴らは剣や槍、弓などの武器を持って、革の鎧を着ていることさえある。しかし奴らの寝床から鍛冶場の痕跡が見つかることはない。
倒した冒険者から手に入れたにしては量が多いし、人間と交易して手に入れたとも思えない。謎は深まるばかりである。
魔法使いチーム、カレン、ウェンディ、ジョナサンも魔法を温存し、ほぼ前衛に任せっきりである。なお、グレイサンドも大地や石系の精霊魔法を少し使えるが、少しなので魔法使いチームとは見做さない。
ゴブリンの10匹、20匹、ホブゴブリンが数体加わったって、前衛二人の敵ではないのでグレイサンドが背後に回ろうとした奴だけ対処すれば問題ない。
私も何もしていない。しいて言うとマッパー、地図書きであるが第四層までは完璧に、第五層も半分以上出来上がっているので、第一層はただの確認作業だ。
とりあえずゴブリンどもは片づけて第二層へ下る階段部屋までやってきている。
さぁ、第二層に降りよう。
次回は11/10 16:00頃、更新予定です。




