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反省会という名の打ち上げ

 今日はカレン達と打ち上げ会の為にレストランに来ている。王都の平民街でも上流の街区で10人くらいは入れる個室になっており、料理は既に大皿でテーブルの上を占拠し、飲み物も配られお代わりはサイドテーブルにすでに用意されている。


 打ち上げ及び反省会を兼ねているので基本的に呼ばなければ店員は室内に入ってこないことになっている。また、念のために『遮音の鈴』を使用している。効果としては一度鳴らすとその空間、今回は個室の室内から外への音の通りを遮断してくれて、もう一度鳴らせば解除できる。


「ほらー、メリッサの到着よ。空けて空けて」


 カレンが手招きしながら奥の席に案内してくれる。

 ダブスがサイドテーブルで作ったカシスオレンジを持ってきてくれて全員が飲み物を持ったところでダブスが音頭を取る。


「今回はお疲れ様でした。いつもとは違う仕事で気を使いましたが臨時収入もあり、満足のいく出来だったと思います。俺は全く活躍できませんでしたが‥‥‥‥」


「ダブス! 湿気たこと言ってんじゃないわよ。はい。カンパーーーーイ!」


「「「「「乾杯!」」」」」


 全員がグラスを合わせ、グラスを傾ける。


「ほらほら、料理回して、金毛豚の串焼きは一人三本よ」


 金毛豚は魔物の豚で全身金色の毛に覆われ、人が滅多に近寄らない森の奥でドングリやキノコを食べて育った全長2mを超す豚さんで市場に出回ることの少ない貴重なお肉である。草食で臭みのない肉はジンジャー焼きや角煮にしても美味しいがこの店では甘辛いタレを付けた串焼きが名物である。


 料理をみんなに取り分けてあげながらテーブルを仕切るカレンにジョナサンが突っ込む。


「カレン、ちょっとは静かに出来ないのか。誰もお前の分を取ったりしないさ」


 生ハム、チーズ、魚介、野菜などのピンチョスを皿に大量に取り摘まんでいるウェンディも乗ってくる。


「はしゃぎ過ぎだわ。カレン、臨時収入がよっぽどうれしかったのだわ」


「そりゃそうよ。なんてったって白金貨10枚よ。しかも一人一人! あぁ、もうダンジョンに潜るより断然効率がいい!」


「じゃあ、次のダンジョン探索の予定はキャンセルなのか?」


 チャドが三つ目エビやクラーケンなどの魚介類たっぷり入った餡のかかった焼き飯を皿に取りながら、真面目な顔で聞く。

 隣国ブラジカフで先日、クラーケンが揚ったという噂は聞いている。一度取れるとクラーケンの身は大量であるのでその国に留まらず隣国等に素早く流通される。冷蔵の魔法を掛けて送られたのであろう身はまだプリップリッに見える。


「それはそれよ。あのダンジョンにはリベンジするわよ。今回はメリッサも一緒に行ってくれるしね。ねぇ、メリッサ」


「そうですね。そのダンジョンには興味があります。お土産でもらったアルバタール朝時代の「エルメホイン森林の植生と魔物の生態」もとても面白かったので」


「まだ、20冊くらいは似たようなのがあったな」


 輸入品の高価な清酒を傾けながらグレイサンドが補足した。傾けている瓶には「竜殺し 赤」とラベルが貼ってある。後で少々頂こう。


「そうよ。メリッサが来てくれればお宝や魔物素材の持ち帰りでどれを持って帰ってどれを置いて行くか気にしなくていいんだから」


「あのどれを置いていくかの取捨選択って地味に嫌な作業だわよね」


 ウェンディの前のピンチョスは随分減っている。


「あ、そういえばカレンの分も当てが付きましたよ。容量は多くないですが、その分お値段は抑え目で」


「本当! やったー、明日にでもお店に行くわね。これで私も『魔法収納袋』持ちよ!」


「容量は1m立法ですから、何でもかんでもは入れられないですよ」


「それでも十分よ。見てなさい。みんな次のダンジョンでの私の活躍を!」


 まぁ、喜んでいるようなので今日のところは水を差さず、諸々懸念はあるがそれは明日詳しく説明しよう。


 カレン以外のメンバーは彼女の大雑把な性格をこれでもかと知っているので『魔法収納袋』がどこまで活用できるのか大層疑問に思っている顔をしている。

 どうせ近いうちに思い知るのだから、今この場で言うまでもあるまいという共通認識のようだ。


「本当、今回の仕事を紹介してくれてありがとうだわ。メリッサ」


 いつの間にか目の前に取ってピンチョスを綺麗に片付け、トマトとモッツァレラチーズ、バジルを並べ、オレイ・トレンツのオイルをかけた色鮮やかなカプレーゼに手を伸ばしているウェンディが言った。

 オレイ・トレンツは通常のトレントより樹皮の色が薄い象牙色で枝にはオリーブに似た黄金色の実をたわわに実らせている。その実は非常に芳醇なフルーティな香りと、わずかなナッツのような甘みがあり酸化しにくく、保存性に優れている。


「いえいえ、皆の様に実力があって貴族家に行っても問題ない冒険者パーティはそうそうないですから」


「‥‥‥そうだな。自分たちで言うのもなんだが、中堅冒険者で貴族の家に行っても大丈夫なのは‥‥‥」


 ダブスがビールの大ジョッキを持ったまま宙に目線を彷徨わす。


「僕ら以外はいないさ。野外の探索や、護衛任務ならともかく。貴族屋敷に行くとなると。夜盗みたいな奴らが多いからね。そういえば今回、皆随分無口だったね」


 ジョナサンがカレンとウェンディ、ダブスの方をみやる。

 チャドは元々口数が少ない。


「ほら、伯爵家ってのは初めてだったし、下手に口開いたらぼろが出ると思って、貴族の相手はメリッサにお願いしたら大丈夫だしね」


「いやーー、普段あんなに煩いのに借りてきた猫みたいだったね。誰かさんは片言になってたし、森から出てきたばっかりで人間の世界に慣れてない初心なエルフみたいだったね」


「うるさいわ。ジョナサン、あんた自分がそういうのに慣れているからって、私だって緊張していたわけではなくて丁寧な話し方が分からなかったから、必要最低限の言葉で済ませただけだわ」


「俺は出番自体なかったし。最初の挨拶と最後の締めの時だけパーティリーダーっぽくしたけど‥‥‥」


「気にするな、ダブス。俺もほとんど出番はなかった」


「チャド、でもお前は常に二番手で罠の発動時の対応要員をやっていたじゃないか、俺なんて最後尾でずっと待機みたいなものだったんだぞ。これが普通のダンジョンなら後方の警戒要員として必要だが、今回はほぼ必要ないだろ」


 グッと大ジョッキを空けたダブスにチャドがピッチャーから追加を注いであげている。


 静かに清酒を傾けていたグレイサンドが口を開いた。


「適材適所、今回は戦士の仕事は正直なかった。ジョナサンが上手くやっちまったから『レイス』との戦いもなかったしな。その分、次回のダンジョン探索で活躍してもらおう」


「そうですよ。私も指示していただけで実際は何もしてなかったですし」


「メリッサ、何言ってんの今回の仕事持って来てくれたのもメリッサだし、メリッサは指示してくれているだけでいいの、私と違ってメリッサが指示してくれていると安心感が違うんだから」


「そう言ってもらえると嬉しいですね。次回のダンジョンはチョット頑張っちゃいましょうか」


「メインは洞窟型のダンジョンだから、俺の仕事も今回ほどはないだろう。戦士の方々には期待してるよ」


 グレイサンドが清酒と一緒にブルーモンクフィッシュの肝和えを食べ出したので私もご相伴に預かる。

 ブルーモンクフィッシュは大きな頭と平たい体を持つ深海魚で、身は淡白な白身で肝は「海のフォアグラ」とも呼ばれる珍味である。新鮮なモノは内陸国の王国では珍しいのでクラーケンを持ってくるときについでに色々持ち込んだようだ。


「そういえば、皆のドレス姿は中々似合っていたね」


「ダブス、その話題は駄目って言ったでしょ」


 立ち上がったカレンがダブスの後頭部を叩いた。


「そうですね。カレンもウェンディもとても綺麗でした。伯爵夫人もまた会いたいと言ってましたよ」


 私はにっこり笑って清酒を傾け、自分とグレイサンドの空いたグラスにお代わりを注ぐ。


 その後もお酒とお料理、お話しは弾み、遅くまで楽しい時間を過ごした。







次回は明日16:00頃、更新予定です。

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