表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/41

秘密通路報告

 無事に全員+一名? が執務室まで戻ってきた。

 人数も多いという事で執務室から応接室に移動し、メインのソファーにアーングリン伯爵とバートレット卿、プライアー氏、私が座り、騎士の三名とマグレガーさんは壁際に立ち、それ以外はカウチやチェアーにそれぞれ腰かけた。

 ソファーのテーブルには各自の前に紅茶、中央にトレイに載った金貨、銀貨の袋、錆びた短剣、象牙のボタン五点、そして青白く灯が点る『御霊のランプ』が乗っている。


 テーブル中央に灯っている『御霊のランプ』を掌で指し私は口を開いた。


「では、報告させていただきます。まずご紹介いたします。こちらパトリック・ロイランス卿であらせられます」


 伯爵は移動途中にマグレガーさんから耳打ちされて動きがぎくしゃくしていたので今この場では普通の顔をしているが、バートレット卿とプライアー氏は「?」の顔をしている。

 周りでも「なんのことだ?」という雰囲気が伝わってくる。


「初めまして。パトリック・ロイランスです。メリッサ嬢、卿は止めてくれ今はしがない霊でしかないのだから」


 ランプから声が発せられ知らなかった人間はびっくりしている。


「順を追って説明いたしましょう」


 私は『魔法収納袋』からスケッチブックを出しマッピングした地下のマップを広げ言った。



 そこからは皆さん、静かに説明を聞いてくれて途中、相槌やちょっとした質問を挟みつつ夕闇が落ちる七の鐘が鳴る頃には説明が一通り終わった。


「今日のところはもう遅い、皆さん部屋を用意させるので泊って行ってください。私はこの後、ロイランス侯爵家への手紙をしたためたいと思いますので、プライアー氏、バートレット卿、メリッサ女史は残っていただけますか」


 他の者は食堂に行って夕飯をご馳走になっている時間、残った私たちは知恵を出し合ってアーングリン伯爵が侯爵家を訪問したい旨の手紙を何とかしたためた。

 ロイランス家の簡易紋の入った象牙のボタンと共に家令であるマグレガーさんが常識では訪問しない時間にもかかわらずロイランス家へと使いに出た。


 ちなみに『御霊のランプ』のパトリックさんはジョナサンと一緒の客室に行っている。


 ほっと落ち着いて皆で食堂に移動し豪華なディナーを頂いたが、伯爵とプライアー氏、バートレット卿はあまり食欲がないようだ。打ち合わせ中も顔色があまり良くなかった。


 ディナー後、用意された客室へ下がろうかとしていたところマグレガーさんが帰ってきた。

 明日、昼過ぎの五の鐘に侯爵閣下がこちらに訪問したいという内容であり、アーングリン伯爵はすぐさま了承の旨、マグレガーさんにとんぼ返りしてもらっていた。

 後でマグレガーさんには臨時賞与を出してあげてください。


 その日はもう客室に入らせてもらって、用意されていたお風呂に入って用意されていた寝間着を着てすぐ寝ようと思ったが出来なかった。




 翌日、食堂では騎士様たちと冒険者男性陣はそれぞれ鎧を脱いだ普段着のような恰好であるが何故か女性陣はドレス姿になっていた。

 昨日、寝ようとしていた時に伯爵夫人と侍女、お針子メイドの襲来を受け「替えの服が無ければお直ししてしまえばいいじゃない」の一声で嫁に行った三人の娘が残していったドレスからサイズの合いそうなものを試着してお直しするという。

 もう眠りたかったが断るわけにもいかず夫人たちの満足するまで何着か試着することになってしまった。

 そしてそれは私の部屋だけではなかったようだ。


 朝、洗面の水を持ってきてくれた侍女とメイドから流れるようにドレスを着させられ今、食堂の朝食の席についている。


 カレンはいつもはくせ毛の金髪が梳られストレートになった上に複雑な編み込みがされて、鮮やかな赤いパーティドレスに豪勢な装飾品を付けている。胸元が大きく開いて肉感的なシルエットが強調されている。夜会か!


 ウェンディは白銀の髪をまっすぐストレートに流し、シンプルな装飾品と青いコットンのサテン生地のドレスで右の太もも横に深くスリットが入っている。こちらは長身でスレンダーだ、ハイヒールで普段よりさらに長身に見える。ダンスパーティか!


 私、メリッサは金髪を後ろでシニョンに結ばれ、可愛らしいフリルの着いた白いふわふわドレスに可愛らしいイヤリング。平均女性より低い身長と凹凸少なめな体を何とか誤魔化している。初めてのお茶会か!


 笑いを堪える冒険者男性陣、褒め言葉を口にしながらも困惑気味の伯爵、バートレット卿、プライアー氏、自然と目線を外すマグレガーさんやエニーさん、騎士の皆さま。

 そんな様子を楽しそうに眺めながら朝食を勧めてくる伯爵夫人。


「すまない。妻の我儘に付き合ってもらって」


「いいえ、大丈夫ですよ」


 でも、なんでカレンとウェンディには謝らず、私だけに謝るのか。そこのところは納得できない。説明を求める。


 午後のお茶にも三人で誘われたがそこは伯爵が断ってくれた。


 食堂でのちょっとカオスな朝食を何とか済まし、その後別館の応接室に集合となった。

 本館は午前中に掃除や花の入れ替えなど侯爵のおもてなしの準備に掛かるそうである。

 私たちのドレスのお直しや着飾ったりとか人手が掛かっていると思うのですが良かったのですか? 良かったのですね?


 とりあえず、集中できないという事で別館へ集まる前に三人は元の服に戻らせてもらった。脱がせてくれる侍女とメイドさんが残念がっていたが致し方ない。この格好で出迎えては侯爵さまが困惑してしまう。


 娘さんたちが嫁いだのが他国や王国でも遠方の地方という事で夫人はここ何年か娘を着飾る機会が無かったらしい。

 良かったらまた来てくださいと言われたが、丁寧にお断りした。




 さて、別館応接室に関係者一同が再集合しアーングリン伯爵が口を開いた。


「まず皆さんに確認ですが、いまさら言う必要もないと思いますが、今回の件は侯爵家のご意向が分かるまで他言無用でお願いします」


 通常、街中で殺人事件が起こったならば衛士隊に報告が行き、犯人が捕まれば王国法により管理区の裁判官によって罪状が決定される。

 これが貴族家の領地やタウンハウスだと話が変わって領民や下級使用人、下男下女の場合はそこの当主の一存で罪状が決まる。というか当主が裁判官である。もしくは権利を代行した街の有力者が裁判官である。

 上級使用人で貴族籍の者などは実家との力関係などにもよるが、場合によっては王都から調査官が派遣されることなどもあるが概ね、貴族家同士の話し合いでことは収まる。


 今回はタウンハウスの中の事であるが、被害者が100年も前の侯爵家の人間でありアーングリン伯爵もどう対処したらいいか判断が出来ないのでロイランス侯爵の出方を待つしかない。

 よってバートレット卿も今のところ国に報告は上げていないという事である。


 我々が今できることは少なく午後のロイランス侯爵の来訪を待つ以外ないが伯爵とマグレガーさんは昨晩遅くまで当時の資料、当主の手記や建物購入の経緯を調べていたそうである。


 分かったこととしては当主であるパトリック・ロイランス侯爵の失踪は当時の社交界で随分と噂になり、跡目争いによる殺人もしくは出奔、愛人との逃避行などが流布されたがどれも確証があるものではなかったようだ。

 そんな中、次男オーソンと三男カールでの跡目争うが始まり3年ほど当主不在で揉めに揉めたという事である。

 さらに領地では干ばつにより不作が続き、領民の心は離れ領地の財政も悪化したところにマーフィー伯爵家からの援助とハーシャ嬢の嫁入りを受けた三男のカールが当主になったそうである。


『御霊のランプ』のパトリックさんはその話をユラユラと青白い灯を揺らして黙って聞いていた。


 この午前の時間を使って今回の秘密通路探索の完了報告をプライアー氏が行う。

 こちらからは作成したマップをプライアー氏に渡し、詳細な報告書はプライアー氏から後日、正式に伯爵に提出されることになった。


 また、今後の侯爵家との話し合い次第で鑑定書の完了時期がずれ込む可能性を伯爵に示唆し了承を貰った。


 そして別館で昼食を済まし、身支度を整え、迎えの準備が整った本館に全員が戻った。


次回は明日16:00頃、更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ