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秘密通路探索2

「では、行きましょう」


 グレイサンドが『光るさいころ』を放りながら新しく空いた通路を進んで行く。最初の通路と同じく高さ2m、横2mのアーチ状の通路をグレイサンドは中央を、チャドは左手で構えた盾が中央に来るように右寄りを、ジョナサンは左寄り、私も中央でグレイサンドの屈んだ頭の上から何とか視界を確保する。


 念のためグレイサンドが罠探索をしながらゆっくりと20mほど進んで行くと一旦止まる。

 まだ暗い通路の先にうっすらと光る青白い靄が床から立ち上がる。

 グレイサンドがススッと下がってジョナサンに前を開け私の後ろまで下がる。


「私は『光と創造と繁栄の神』の神官ジョナサン、迷える御霊よ。私の声が聞こえますか?」


「‥‥‥」


 立ち上がった青白い靄は少しずつ辛うじて人型? になってきている。


「あなたの名前を教えてください」


「‥‥‥」


 根気強くジョナサンが話しかける。

 この死霊は「レイス」、思いを現世に残したまま亡くなり成仏できていないものだ。状況によって人に災いを齎したり、襲ってくることもあるが害が無い場合もある。


「‥な‥ま‥‥え‥‥」


「そうですあなたが両親から貰った名前はなんですか?」


 靄が段々とはっきりとした人型になってくる。


「りょ‥‥しん‥、なま‥‥え 」


「さぁ、あなたの名前を教えてください」


「なま‥え、パ‥リッ‥ク」

「もう一度はっきりと言えますか?」


「‥パトリック。パトリック・ロイランス」


 青白い靄はもう20歳くらいの青年と思われるくらいはっきりとした人型になっている。


 ロイランス侯爵家、この館の元の持ち主である。110年ほど前にアーングリン伯爵家が購入しているのでそれより前の時代である。ロイランス家自体も古い家系ではあるが館の様式からしてロイランス家がこの別館を立てたのは200~250年くらい前であろう。

 110年から250年前の期間の古い貴族年鑑でパトリックの名前を思い出すと三名が該当する。


「ジョナサン。父親と母親の名前を」


「ロイランス卿。お父上とお母上のお名前をお聞かせください」


 青白い青年はぼーっとした感じでゆらゆらと揺れているがジョナサンの問いには素直に答えてくれる。


「父はスタン・ロイランス、母はルーシー」


 該当するのは115年前に行方不明と貴族年鑑に記載がある当時の当主パトリック・ロイランスである。その一年前に流行り病で父親を亡くし18歳で侯爵位を継いだとなっている。

 念のためにアーングリン伯爵家とロイランス侯爵家の貴族年鑑を復習しておいて正解だった。


「ここはどこだ? 私は?」


「こんにちは。ロイランス卿、私はメリッサ・スーと申します。僭越ながら卿の状況を説明させていただきます」


 私はジョナサンの前に出てロイランス卿に告げる。


「‥‥うむ、分かった。よろしく頼む」


「まず、卿が亡くなられて115年ほどが経っております」


 ロイランス卿は自分の青白く光る靄の固まった両手を見て動きを固め、その後頷いた。


「そうか。私は死んだのか‥‥115年、ここで成仏できずに漂っていたのだな」


「はい。こちらのジョナサンが御霊を収斂し意識がはっきりとしたことと思います。ここは当時のロイランス家の別邸になります。成仏できなかった理由を思い出せますでしょうか?」


 質問すると同時に後ろ手にジョナサンに合図を送る。成仏できない心残りにはいくつかあるが一つは殺した人間への恨みつらみである。

 ここで殺した人間への恨みが今、目の前にいる我々に転化することがある。その場合、話し合いはここまでで神官の『除霊:ターンアンデッド』や魔法による実力行使が必要になる。

 ちなみにレイスは魔法が掛かっていない武器は無効であるがダブス達は最低一つは魔法の武器を持っているので一応、そこは安心である。


 少し頭を上に傾げ、考えこんだロイランス卿は暴れることもなく告げた。


「理由の一つは家の継承問題だな。私が死んだ後のロイランス侯爵家の家督はどうなったか分かるかね?」


 どうやら死因に関して恨みは無いようだ。


「貴族年鑑の記載だけですので詳細は分かりませんが、パトリック様が亡くなって三年後に次男のオーソン様が除籍になって三男のカール様が継いでおられます」


「そうかカールがそれを聞いて一安心だ。ではもう一つハーシャ・マーフィー嬢がどうなったかは分かるかね?」


「カール様の奥様の名がマーフィー伯爵家から嫁いだハーシャ様となっております」


「そうか。カールとハーシャ嬢が‥‥であれば後は、『シグネットリング』はどうなったか分かるかね?」


「それについては分かりかねます。ロイランス侯爵家に問い合わせてみない事には」


「そうか。私が隠した場所から見つかっていればいいが‥‥」


「では、この館の今の持ち主であるアーングリン伯爵から、現ロイランス卿とお話できるか問い合わせていただきましょう」


「頼めるかね。ん? アーングリン家は子爵ではなかったかな?」


「はい。陞爵して現在は伯爵位でございます」


「なるほど、時代は過ぎているという事だな」


「ところで、パトリック様はこの場所から離れることは出来ますでしょうか?」


「ふむ。試してみよう」


 ジョナサン、グレイサンド、チャド、黙って見ていたマグレガーさんと騎士様の横を通って、青白い人型の靄が小部屋の方に向かうのをエスコートするように私も進む。先に小部屋に出て待機部隊に少し下がるよう合図を送る。

 マグレガーさんと騎士様は大袈裟に避けすぎである。


 ロイランス卿は隠し扉から出ようと空中を進むがどうやっても小部屋に入ることは出来ず、壁や天井を抜けることも無理だった。


 後ろから見ていたジョナサンがロイランス卿に告げる。


「御霊がこの場所に紐づいてしまっております。この場から出ることは叶いません」


「思い出した。何度もこの場所を出ようとしたことがあったな。そうか、子孫がどうなっているか気にはなるが致し方ない」


 私は『魔法収納袋』から『ランプ』を一つ出してロイランス卿に告げた。


「ご希望でしたらこちらにお入り頂くことができます。こちら『御霊のランプ』というマジックアイテムでございます。本来、死霊となった者を使役し使う用途の物ですが単純に土地への呪縛を解き移動することに使うことも出来ます」


「ほう、そのようなものが。使役というところが気にはなるがそれでここから離れられるならば良しとしよう」


 ロイランス卿に近づき『御霊のランプ』に魔力を通す、すると青白い人型の靄が『ランプ』の中にスルッと吸われ、ランプに青白い灯が点る。


「ロイランス卿、居心地はどうでしょう?」


「悪くない。ある意味狭くて使い慣れた書斎にいる気分だ。落ち着くな」


「では後始末を済まさせていただきます。確認なのですが先ほどの通路の先は行き止まりになっておりましたが本当に行き止まりでしょうか?」


「ああ、あそこは行き止まりで『シグネットリング』を使わないと通れない」




 グレイサンドとジョナサン、マグレガーさん、騎士様に行き止まりの状況を確認してもらう。

 確認事項は本当に行き止まりかどうか、遺体の状況、遺留品の有無である。

 通路は本当に行き止まりでありグレイサンド曰く、湿度と石壁の造り響いてくる音から2mほど先は下水道の本管であろうという事。

 遺体の状況は後頭部右側に陥没痕があるがそれ以外には異常はないという事。

 遺留品は朽ち果てた衣服と靴、シャツの象牙のボタンと思しきものが5つ。確認するとロイランス家の簡易紋が彫られていた。


 その間にマッピングを終えておく。



「では、上に戻りましょう」


次回は明日16:00頃、更新予定です。

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