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秘密通路探索1

「ご安心ください。避難場所や避難通路には通常、それほど罠は仕掛けてありません。追手の初動を遅らせ、それ以降罠の探索をしながら進めさせる精神的な効果を狙ったものです。それに古代の遺跡というわけでもありませんので早々、大掛かりな罠が設置していることもありません。それにその罠とかに対処するためのプロが我々、冒険者です」


 私はダブス達を見やって伯爵とマグレガーさんに宣言した。


「では、バートレット卿。こちらのことはお任せいたします。こちらの見積もりでは小一時間で探索完了の予定です。先ほど五の鐘が鳴ったばかりですので遅くとも六の鐘までには終わると思いますが、七の鐘が鳴っても戻らなければ冒険者ギルドへご連絡ください。追加の冒険者を派遣してもらう様に話してあります。くれぐれも騎士の方々で侵入しようなどと思われませんように」


 私は伯爵とバートレット卿の顔を見回して念を押した。


「ウェンディお願いします」


 すっと窓に近づいたウェンディが「失礼します」と言って窓を開け放ち、室内に春の麗らかな風が入り込む。ウェンディが「お願いね」と呟くと風は彼女の白銀の髪を揺らした後、秘密部屋の方に吹き込む。

 目を瞑り、集中していたウェンディが少し時間を置いて言った。


「階段は四回折り返して、二階分降りて小部屋、そこから通路が真っすぐ」


「では、伯爵。行ってまいります」


 グレイサンドが小袋から『光るサイコロ』を出して放り、ころころと階段下の踊り場まで転がると暗かった階段が明るくなる。

『光るさいころ』はカレンに事前に掛けてもらっている『ライト』の魔法で、一回かけて貰えば半年ほどは待つ、元はただのサイコロでグレイサンドは「シャイニングダイス」と言って縁起物だとよく使っている。

 グレイサンドだけであれば夜目が効くので執務室から差し込む光だけで階段の薄暗いところでも十分行動できるが、人間はそうにもいかないので明かりの確保はダンジョン等では必要不可欠である。


 隊列はスカウトグレイサンド、重戦士チャド、精霊使いウェンディ、私、魔法使いカレン、家令マグレガー、騎士様、神官ジョナサン、戦士ダブスとなり階段を下って行く。

 まずはグレイサンドが罠を調べながら慎重に踊り場まで一人で降りて行き、折り返した次の踊り場まで『光るさいころ』を放る。グレイサンドが「OK」の合図を出すとチャド、ウェンディまでが降りてグレイサンドは折り返しの階段を下って行く。

 空いた踊り場に私、カレン、マグレガーさんが進むというようにして進んでゆきグレイサンド、チャド、ウェンディが小部屋まで降りたところで私が加わり以降は踊り場で待機してもらう。


 小部屋は床、壁、天井が石造りで縦横4m四方、左右の壁から天井はアーチ形で高いところで2mほどのかまぼこ状。床に対角線の隅に『光るさいころ』が二個転がっていて小部屋を照らしている。

 既に地面より下まで潜って、館の地下室にある台所とかと同じ深さと思われる。空気は随分と冷えて湿度が高い。天井には通風孔と思われる穴が開いており、小部屋内は思ったより黴臭くはない。床には我々以外の足跡もなく小さな虫やトカゲの姿が多少ある程度であり、クモの巣はチャドが払ってくれている。

 右の壁には朽ち果てた棚と鞄やワイン瓶、金貨など非常持出袋の残骸と思われるものが床に転がっている。

 階段を下りて正面には高さ2m横幅2mほどのアーチ型の通路が続いている。


「グレイサンド。深さと通路の方向は?」


「深さは二階の執務室からで600ってところか、方向は正面玄関基準で右に90°丁度だな」


 グレイサンド達とは何度か一緒に潜ったことがあるのでマッピング時の方向や、部屋の大きさ等の言語の統一が出来ているのでコミュニケーションが円滑に進む。


 私は館の図面とグレイサンドの情報と自分の計測結果に納得し事前に縦横に線を引いてあるスケッチブックに小部屋と通路の入り口を『ガラスペン』でマッピングする。

 この『ガラスペン』はペン先の透明から徐々に青が増してゆくグラデショーンの綺麗なお気に入りだ。内部にインクをインク壺一瓶ほどため込むことが出来て長期に使うことができる。衝撃保護の魔法もかかっているので探索時にも安心だ。


 チャドは小部屋の中央で何かあった時にすぐ対処できるよう待機している。


「メリッサ。こっち隠し扉」


 ウェンディが階段から見て手前の右の壁を指さす。どうやら風の精霊がわずかな隙間を見つけてくれたようだ。

 グレイサンドがその石壁の部分を少し触り調べてからコンっと叩き、小袋から出したコップを石壁に付けて耳を澄ます。


「こっちも通路が伸びているな」


「そっちが本命ですね。一旦、保留して囮の方を先に片づけましょう。マグレガーさん、騎士様、降りてきてください」


「承知しました」


 階段を覗き込み踊り場に声を掛けるとマグレガーさんと騎士様が緊張した顔で降りてきた。

 マグレガーさんは一度、ブルッと体を震わせ階段から小部屋へと歩を進め、小部屋内を見渡した。


「グレイサンド。お願いします」


 私が声を掛けるとグレイサンドは非常持出袋の残骸に近づき、手元が見えるように袋の残骸から貴重品をより分けた。結果、金貨20枚、銀貨20枚、古びた短剣をマグレガーさんに手渡す。

 マグレガーさんは頷き、それを受け取ると小袋に小分けにして背負い袋に入れる。


「この小部屋で価値のあるものはそれ位でしょう。では先に進みましょう」


 再びウェンディが風の精霊に通路の先を調べてもらう。


「通路が50mくらい」


 グレイサンド、チャド、ウェンディに先に進んでもらい、後衛を呼び小部屋で待機する。


 グレイサンドが5mほどの等間隔に『光るさいころ』を放り通路を慎重に進んで行くと徐々に通路が明るくなり小部屋からも先が見えるようになってくる。

 グレイサンドは足音がほぼしないので二人の靴音だけが通路に木霊する。

 50mほど進んだところで三人が止まってグレイサンドが何か調べている様子だ。


 ウェンディがこちらを振り返り風の精霊を飛ばしてきた。

 小部屋の冷えた空気にさわやかな春の風が吹きウェンディの声を届けた。


「仕掛け扉とその先に部屋。異常なし」


 こちらはダブスが大きく「OK」の合図を出す。


「進みましょう」


 今度はダブス、カレン、私、マグレガーさん、騎士様、ジョナサンの隊列で進んで行く。

 通路の途中の天井にはいくつかの通気口が開いており微かに人の営みが聞こえてくる。

 隣接する台所や倉庫などと通気口がどこかで繋がっており、そこから使用人の声や物音が漏れて聞こえているのだろう。


 鉄製の扉は手前に開く時にチャドが力任せに開けたせいで歪んで閉まっていた。まぁ事前打ち合わせでこの程度の破壊は許容してもらっているので問題はない。

 その先には厩の地下の物置という感じの部屋が広がっている。既に四隅に『光るさいころ』が放られており室内を照らしている。扉の前からは樽や木材、馬の食料と思しき袋が避けられて通れるスペースを確保している。

 方向と距離から厩の地下で間違いはないだろう。マッピングしておく。

 全員が部屋に入って周りを確認する。


「こちらは厩の地下倉庫です。普段はあまり使っていないところになります。ここにこんな仕掛けがあったとは知りませんでした。非常時に馬で脱出する目算だったのですね」


 マグレガーさんが歪んだ扉を確認しながら言った。

 扉は倉庫側からは石壁に見えるように細工がしてあり、気が付かないようになっている。

 家令のマグレガーさんが頻繁に来るところでもないし、普段ここを使う馬丁なども一度、荷物を置けばそうそう壁など気にしない事だろう。


「それもあるでしょうが、本命は別と思われます」


「本命? ですか」


「ええ、戻ってそちらを確認致しましょう。グレイサンド、ウェンディ、チャド先導お願いします。ダブス、カレン後始末は頼みます」


 グレイサンドがサイコロを回収し、再び三人に先行してもらい小部屋に戻る。

 厩の倉庫の方はダブスが樽や木材を再び扉の前に戻して扉を閉じて、閉まりきらない歪んだ部分をカレンが『幻影:ファンタズマル』の魔法で壁に見えるようにしているはずだ。


 小部屋に戻ると階段の左の石壁の前にグレイサンドのために三脚を出しておく。人間でいう腰の高さ位のところを調べているのでノームにちょっと高い位置だ。


 少し調べたところでグレイサンドが舌打ちをして三脚から離れた。


「駄目だ。鍵穴に鍵を差し込んで折ってやがる。これ以上は壊すしかない。カレン頼む。罠はない」


「了解」

 カレンが腰のワンドを抜き、壁に近づく。

 聞き取れない大きさの呟きがカレンの口元から流れ、ワンドを壁の前に近づけると直径20㎝ほどの白く輝く魔法陣が現れゆっくりと回転した。

『開錠:ノック』の呪文は魔法的でなければどんな複雑な錠前でも中に折れた鍵が入っていようが開けることができる。

 魔法陣が消えて詠唱も終わると、壁の内部からカチリと音がしてゆっくりと石壁の一部が扉のように開いて隠し扉の向こうの空気が流れてくる。


 今まで後衛で待機していたジョナサンが胸に掛けた聖印を掌で撫でながら前に出てくる。


「この先は私が前に出ましょう」


 急な申し出にマグレガーさんと騎士は訝しんだ顔をしている。


「この先に死霊の気配がします。カレン。目を飛ばして」


 死霊という言葉に驚いている二人は一旦放っておいてカレンに次の指示を出す。

 頷いたカレンは再び呪文を唱えると目を閉じ精神を集中している。

『魔法の目:ウィザードアイ』の呪文は目に見えない魔法の目を空中に出現させ移動させられ、術者がその先の光景を見られるという呪文である。暗くても昼間のように見える優れものの呪文である。


「通路を30m進んだ先。行き止まりで古い白骨死体が一つ。周りに青白い靄があるわ」


「グレイサンド、チャド、ジョナサン、私、すみませんがその後にマグレガーさんと騎士様が見届けの為、付いていただけますか」


 マグレガーさんは心を決めた様に頷き、騎士様は腰の剣に手をやり、手を上げ了承の仕草をした。


「ジョナサン。可能なら会話を」


「了解です。刺激しないよう『プロテクション』の魔法は唱えずに行きましょう」


「はい。カレン達は待機を。状況によって対応を。カレンに任せます」


「了解」


「では、行きましょう」


次回は明日16:00頃、更新予定です。

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