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秘密部屋御開帳

「では、残りは‥‥」


 プライアー氏が本棚の方に目を向けると、全員の目がそちらを向いた。


 壁に全面造り付けされた本棚には半数ほどは本と羊皮紙の束、残りは小物や工芸品などが飾られている。


 今回、事前の打ち合わせで館の秘密部屋、通路の発見と探索が鑑定業務とは別に依頼されている。


 この館は四代前の伯爵への陞爵時に購入した館で、元は侯爵家の別邸だったものだそう。もともと貴族の館には使用人の通路が表からは見えないように配置されていたりして間取りは分かりづらくなっている。


 歴代の当主や家令、侍従等も執務室の隣に入れないスペースがあるとは気が付いていたという事だが、調べても出入り口を見つけることは出来なかったらしい。実害もないためそのまま放置され記憶の片隅に追いやってしまっていたそうな。


 ところが三年前の事件から各貴族家でも危機管理の必要性が上がり、このまま放置も出来ないという事になり、どうにかしないといけないとは思っていたそうな。

 そんなところに、『魔法古物』の鑑定、登録の義務化という話があり、オプションでそういう秘密部屋や通路の発見、探索及び必要な場合の掃討も請け負う『魔法古物商』がいるという事で今回のお仕事とあいなった。


 お茶をしていると侍従がマグレガーさんに耳打ちをしている。外からは五の鐘の音が響いている。


「メリッサ様、お連れ様がいらっしゃいました」


「伯爵さま。すぐに致しましょうか?」


「そうしてくれ」


「では、こちらに」


 案内されてきたのはフル装備の冒険者パーティだった。


「アーングリン伯爵。お目にかかれて光栄です。私は冒険者の戦士ダブス、そしてパーティ仲間の魔法使いカレン、スカウトグレイサンド、重戦士チャド、精霊使いウェンディ、神官ジョナサンです」


 ダブスは煤けた金髪のガタイの良い大男でハーフプレートメールに普段はバスタードソードだが今日はノーマルサイズのソードを指している。

 カレンは金髪のくせ毛を後ろで太い三つ編みに纏めた女性で軽いレザーアーマーを着こんで短いワンドと短剣を腰に指している。

 グレイサンドはくすんだ赤毛のノームの男性でこちらもレザーアーマーにダガーを数本装備している。

 チャドは茶髪にさっぱり系で糸目の細マッチョの男性でハーフプレートメールに普段はタワーシールドだが今日は小盾、戦槌を装備している。

 ウェンディは白銀の髪にスレンダーな体のエルフの女性でチェーンメイルにエストックを装備している。

 ジョナサンは黒髪にヒョロ長の体形の男性でチェーンメイルとバックラー、メイスを装備している。


 ノームは身長が1m前後でちょっと尖った耳と鼻、男女問わず顎ひげを伸ばしている。山岳地帯や丘陵地に村を構え、大地の精霊、石、金属、砂などの精霊と親和性が高く手先が器用で金属や宝石の細工物などを作ることを生業にしているものが多い。

 手先の器用さを生かした罠解除や大地系の精霊魔法を駆使し冒険者になる変わり者もいる


 エルフは身長が人間より少し高めでスリムな体形をしており、尖った耳と概ね美形が多い。森林地帯に村を構えることが多く、狩猟採集で暮らしていることから弓の名手である。多くの精霊と親和性が高いが特に風の精霊とは親和性が高く、火の精霊とは親和性が低い。

 人間の街に出てくるものは少ないが精霊魔法と弓の技能で冒険者になる変わり者もいる。


 このパーティはこの王都でも少ない人間以外が所属している冒険者パーティである。

 編成時には一悶着あったがそれはまた今度。


 伯爵が並んだ彼らを端から観察しているのを見て、私が太鼓判を押す。


「伯爵。こちらは冒険者ギルドの中堅のパーティの中でも実力は折り紙付きです」


「ああ、そこはメリッサ女史の紹介でもあるし心配はしておらん。ただ、まぁ実際に冒険者と合うのは初めてでね」


「実際、彼らの出番があるかは分かりませんが念には念を入れてきてもらいました。十中八九、非常時の避難場所もしくは脱出通路と思われますが、古いものですとガーディアンなどがいることもありますし下手に秘密の扉を開けたり、壊そうとするとトラップが発動したり、建物が崩壊するよう仕掛けてあったりしますので我々にお声掛けいただき良かったと思います」


「う、うむ。よろしく頼む」


 伯爵と家令の顔がちょっと青くなっている。無理やり開こうとちょっと試したのかもしれない。無事で何よりである。


「ではこちらに守秘義務の『魔法契約書』を用意してありますのでお願いいたします」


 プライアー氏が羊皮紙の書類が並んでいる方にダブス達を促す。

 ダブス達が記載内容を確認すると一人ずつ、署名しナイフの先で指の先を刺し血判を押す。

 内容は今日ここで探索した時に見聞きした内容を他に漏らさないという事である。

 魔法契約書は強い拘束力はないが契約内容に反して口外してしまった時は『契約書』に契約違反の文字が浮かぶようになっている。そうした場合、契約書に記載されている違約金を支払うことになる。

 全員が合図、血判したところで探索の契約書をマグレガーさんからダブスが受け取り書類のやり取りが終わった。


「グレイサンド。お願いします。みなさんは下がってください」


 グレイサンドに本棚の一点を指さし、その少し後ろに構える。その後ろで視界を遮らないように準備したチャド、チャドの後ろに魔法使いのカレンと精霊使いのウェンディ、ダブスは一旦サイドで待機である。


 アーングリン伯爵、マグレガーさん、プライアー氏、エニーさん、バートレット卿+三人の騎士は後ろに下がって、それでも興味深げに本棚に目を向ける。


 私が示した壁に作り付けの五つの本棚の真ん中の一つをグレイサンドは私が腰の『魔法収納袋』から出した高さ60㎝ほどの三脚に乗り慎重に調べる。

 三脚は今回はダブスのバスタードソードやチャドのタワーシールドと共に私が預かっているが普段はチャドが荷物と一緒に背負っている。

 何度か私と確認しグレイサンドは本棚の見事な立体的な細工彫りの小鳥の陰に鍵開け道具を差し込み始め、私は横で指示のあった通りメモを取ってゆく。


 ほんの数分、カチカチという静かな音が室内に響き、「カチリッ」と音が鳴ったが何も起きない。

 グレイサンドは鍵開け道具を仕舞って三脚から降りて、私は三脚を仕舞った。


「では、開けます」


「ゴクリ」と誰かの喉が鳴ったのが聞こえた。


 グレイサンドが本棚の小鳥を捻ると幅2メートルほどの本棚が奥にゆっくりと音もなく引っ込んでゆく。足元に冷気が流れ込み、光が入った秘密部屋の中が明らかになる。


 後ろではダブスが伯爵を止めている気配がする。


 部屋は横2メートル、奥行き1メートル、高さ2メートルほどで、奥には引っ込んだ本棚があり、右手には窪んだ置き場に古びたランタンが置いてある。

 そして、左手には下り階段が続いていて先は暗くなっている。


 伯爵がうるさそうなのでダブスに目で合図すると伯爵が近寄ってきた。渋い顔のマグレガーさんも続く。


「伯爵。まだ中には入らないでください」


「ああ、分かっている。でどんな様子だね」


 グレイサンドは脇にズレて部屋の中が見られるようにしているがいざという時、伯爵を止められる位置をキープしている。他の方々も近づいてきてしまったので仕方なく一旦、全員に見えるようにした。


「ほう、こんな仕掛けが」とプライアー氏


「凄いですな。少なくとも100年位は動いてなかったものでしょう?」とバートレット卿


「そうですな。我が家が手に入れてからは少なくとも110年は」と伯爵


 そこから盛り上がってしまったが終わりが見えないので5分ほどで


「では、探索を続けます」


「まぁ、もうちょっと奥まで見せてくれ。下はどうなって‥‥」


 と言って伯爵が秘密部屋に入っていこうとしたところでグレイサンドが前に立って止める。


「なんだ、構わないだろう。通したまえ」


「伯爵。事前の説明で全ての部屋、通路の探索が終わるまで私と冒険者、立ち合いの騎士様一人、家令のマグレガーさん以外は立ち入らないという条件だったはずです」


「それはそうだが」


「それに階段を降りる前にやらなければいけない事もありますので。グレイサンド」


 私はマグレガーさんに伯爵を下げてもらい、グレイサンドに作業の再開を促した。冒険者たちは黙って再度、先ほどの隊列を取る。


 グレイサンドはランタンが置いてある棚の下の壁を調べ三分ほどでその一角の板を外し、指で「OK」の合図を送ってくる。


 マグレガーさんに許可を出すと伯爵と皆さんが再び部屋を覗き込む、壁板の一部を外したランタンの下の隠しスペースには固定されたクロスボウの残骸が目に入る。


「階段の一段目を踏むと発射される仕掛けです」


 グレイサンドが部屋に入り階段の一段目に踏み出し体重を掛けると「ゴトッ」と音だけが響いた。


「仕掛けのワイヤーとかもダメになっていますので今はもう起動しませんが、追手が罠を知らず通ろうとしたら丁度、背中から心臓辺りに当たることになるでしょう。人間であれば。」


 グレイサンドが実際に階段の一段目に足を下ろし、クロスボウの射線と自分の頭を指で指し示しながら説明する。

 まぁ、グレイサンドでは辛うじて頭に当たるかその上を素通りしてしまう高さだが。


 伯爵とマグレガーさんが一歩、後ずさった。


「このようなワイヤーを使った罠の場合などは長い期間放っておくと御覧のとおり使い物にならなくなりますが、ダンジョンでは経年劣化しない仕組みで100年、200年経っても発動する罠もあります」


 グレイサンドが更に畳みかける。


 これから同行するマグレガーさんの顔色が悪くなっている。


「ご安心ください。避難場所や避難通路には通常、それほど罠は仕掛けてありません。追手の初動を遅らせ、それ以降罠の探索をしながら進めさせる精神的な効果を狙ったものです。それに古代の遺跡というわけでもありませんので早々、大掛かりな罠が設置していることもありません。それにその罠とかに対処するためのプロが我々、冒険者です」


 私はダブス達を見やって伯爵とマグレガーさんに宣言した。


次回は明日、16:00頃更新予定です。

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