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訪問鑑定

 本日は訪問鑑定で貴族街のお屋敷に向かっております。


 少し開けた車窓から昼下がりのやわらかな春の風が頬をなで、馬車の揺れが優しい振動を伝えてくれる。レンガ造りの水道橋の下を抜けて貴族街に入るにつれ街中の槌の音や喧騒が減り貴族街の塀や庭が目に入るようになる。


 大通りを走る高級な馬車の中には着飾りつつも動きやすい恰好の私と商業ギルドから派遣された二人が乗っている。

 公証人のプライアー氏、三十半ばの暗い茶髪の紳士である。

 もう一人は公証人助手のエニーさん、二十歳過ぎ位の淡い栗毛の青年である。

 馬車の前には騎乗した騎士隊が四名ほどおり、最上位はバートレット卿、黒髪に黒髭のナイスミドルである。


 ほどなくするとある邸宅の前で馬車が一旦止まり、すぐに門扉の開く音がすると馬車は再び動き出す。手入れのされた前庭を抜け、アプローチで馬車が止まる。

 今回の私たちの立場は『魔法古物』の鑑定人と公証人、立会人であり、私だけ平民であるが稀少な鑑定人という事から全員が表玄関から入ることになった。

 私が鑑定し、公証人のプライアー氏は鑑定が正しく行われたことを公正証書に残す公証人、騎士のバートレット卿はすべてが公正、適正に行われたことを第三者の立場から確認、証明する立会人である。


 表玄関には家令のマグレガーさんが待っていてくれた。彼以外は馬丁が二人のみである。

 馬車、馬からそれぞれが降り挨拶を交わすと早々に屋敷に通される。

 マグレガーさんを先頭にバートレット卿ともう一人の騎士が前に、真ん中に私とプライアー氏、エニーさん、後ろに残りの騎士二人という隊列である。


 重厚な階段を上がり二階の右翼の廊下を進む、高級な調度品や品の良い壁紙に各所にある『魔法灯』が調和されている。


 マグレガーさんが部屋の中にお伺いを立ててから扉を開けた。

 部屋の中には四十位の金髪のアーングリン伯爵が立っていた。


 アーングリン伯爵家は四代前にモンスター討伐の貢献から子爵家から陞爵した家である。当時の子爵の三男が勇猛果敢な騎士で騎士隊を指揮し地方にあった王領を襲ったオーガーの大群を打ち破ったそうである。その後も活躍を続け侯爵家から嫁を貰う話になり、その時点で伯爵家になったという家である。


 事前に顔合わせと打ち合わせを行っている為、簡単な挨拶を済ませ仕事に取り掛かることになった。


 公証人のプライアー氏が基本的に進行をして行くことになる。


「では、ただいまからアーングリン伯爵家の『魔法古物』の鑑定作業に入ります。まず作業内容を確認致します。鑑定対象の範囲は資産目録及び購入記録に記載のある『魔法古物』と思われる品を含めた伯爵家の全ての物品となります」


 我々、私とアーングリン伯爵、マグレガーさん、プレイアー氏、エニーさん、バートレット卿+三人の騎士は別日に別の場所で周到な打ち合わせを行っていた。


 まずは今いるアーングリン伯爵の執務室からである。

 我々が来た段階で事前に運び込まれているいくつもの簡易な作業台の上に、執務机や棚の引き出しの中身などが綺麗に並べられていた。

 エニーさんは資産目録と購入記録から抜き出した『魔法古物』と思われる物品のリストの表を広げチェックする態勢に入っている。


 私は腰の『魔法収納袋』から『モノクル』を出して左目に嵌め、胸元の『ブラックオニキスのカメオ』を確認し物品の確認作業に入る。

 リストからこの部屋では『羽ペン』と『短剣』が対象となっているが全体をサァッと見渡したところ、本棚の『本』が一冊反応を示し、光を放っている。

 私は『羽ペン』と『短剣』を指さし、エニーさんはリストにチェックを入れ、家令のマグレガーさんがトレイにそれらを移してゆく。

 そのまま見事な細工彫りの造り付けの本棚に近づき一冊の『本』を引き出し家令のマグレガーさんに渡すと、エニーさんがリストに書き足す。


「ほぉ、この『本』も魔法のものか?」


 幸先よく『魔法古物』が見つかったことでアーングリン伯爵が機嫌の良さげな声を上げる。


「さようでございます。詳しくは後日まとめてお調べいたします」


「三代前の当主様がご購入されました博物誌でございます」

 図書目録を捲っていたマグレガーさんが答える。


 それから作業台に並べてあるものをゆっくりと確認してゆく。

 アーングリン伯爵とプレイアー氏、バートレット卿は私の左右から確認してゆく手元を同じように見てゆくことになる。

 伯爵家の執務室にある物なので小物でも良質で品の良いもので揃えられている。

 なお、壁に設置されている『魔法灯』や『魔法暖炉』、『魔法冷風機』などの『生活魔法具』は『モノクル』に反応するがここ何十年で作られたもので『魔法古物』ではないので無視する。


 作業台と壁の本棚の確認を済ませ、執務机に近づき足を止めた。

 指に嵌めた『リング』を擦り執務机をゆっくり観察する。

『透視の指輪』は一時間に一回、10分ほど3mくらいまで先の物を透視して見ることができる。

 事前打ち合わせで作業時に館内の全て物に触れても良い許可を得ているので執務机の引き出しのその奥と思わしき所を天板の上からトントンと叩く。


「こちらは出されていませんが、チェック対象外でしょうか? 一応、館の全ての物品と聞いておりますが」


「これは失礼した。すっかり忘れていた」


 白々しく言ったアーングリン伯爵がシャツの中からチェーンで吊るした鍵を出し、隠し引き出しから手紙の束を出してくる。お貴族様がこちらを試してくることは多いので気にはしない。


 私は手紙の束を手に取り一通り確認し、伯爵に手渡す。


 最後に部屋の中を一瞥し家令のマグレガーさんに小声で一声かけてから全員に伝える。


「一旦、こちらの部屋は終了になります」


「では、伯爵こちらの部屋は片していただいて構いません。私たちは次の部屋に向かいましょう」


 プレイアー氏は全員の顔を見回してそう告げた。



 そこからは伯爵夫妻や家族の私室、客室、応接室、ホール、ダイニングルーム、図書室、地下の厨房、保管庫から三階の屋根裏の使用人の部屋、物置まで。さらに別館、洗濯小屋、倉庫、厩に至るまで館の敷地内中全てを見て回った。

 使用人たちは私たちの順路に従って人払いしてあるため姿を見ることはない。


 途中、伯爵夫人の私室では夫人が母親から譲り受け失くしたと思っていた指輪を棚の裏から見つけ感謝された。

 また、使用人部屋ではベッドの下から銀のカトラリーを見つけ、プチ捕り物が繰り広げられたりした。都合、三人の使用人がお暇を出されたそうな。

 途中、昼食も頂いたが当初は簡単な軽食という話だったが夫人の「ご一緒しましょう」のお言葉によって急遽、プチ贅沢な貴族様のランチになった。

 私もテーブルマナーは昔に習得しているので特に問題なく美味しくいただいた。


 さて、十個ほどの『魔法古物』が確認され事前リストになかったものは『本』と『剣』だった。

 中にはその四代前のご先祖様が使っていた武具一式なども含まれており、鑑定するのがちょっと楽しみでもある。


 今は執務室に戻って、片付いた室内のソファーで紅茶を頂いている。


「資産目録及び購入記録、図書目録はエニーさんが控えを作成してくれているので書類関係はそちらで問題ありません。後はお預かりして鑑定させていただきます。特段問題が無ければ二週間ほどで鑑定書の発行ができると思います」


「そうか。よろしく頼む」


 本来ここまでで訪問鑑定の仕事は終わりである。




「では、残りは‥‥」


 プレイアー氏が本棚の方に目を向けると、全員の目がそちらを向いた。


次回は10/20 16:00頃、更新予定です。

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